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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第6章
28/117

制裁 -3-


   ――もともとオレは裏方で志願したが、

   娘はステージに立ちたがっていた

   泳ぎが得意な娘は水芸……中でも一番重要な「人魚役」になった

   毎日泳ぎ続け、急激に演戯が上手くなり

   娘はどんどん人気がでた

   いつしか1日のほとんどを水の中で過ごすようになった


   ……怖くなった


   もう、水の中から出てこなくなるのではないかと

   もう、一緒に同じ地面に立つことはないんじゃないかと


   その日の夜、こっそり娘がいつも使っている大きな水槽を

   斧で粉々にぶち壊した

   娘は人魚なんかじゃない、オレと陸で一緒に過ごすんだ

   だが……そのことが団長の逆鱗に触れた


   『ピエロリスト』に載り、対象者となったオレは

   すぐに団長から制裁を受けたんだ……

  



               リストNo,24『ゲン』

        ――制裁内容:娘セイレーンの脚を斬り落とすこと――



        ――せっかくがんばっていた娘なのに

           父親がなんてことするのかしらねぇ……?



「娘の名はセイレーン。『5つの間』の1人だ」

「『水槽の間』ですね。足のない人魚が司っているとは知ってましたが……」

「セイレーンは人魚じゃねぇ。人間だ。オレの娘だ。だが……オレが両脚を斬ったから、あいつはもう陸にあがれないんだ」

「……」

「あの日からずっとセイレーンは水の中。もう2度と、オレと同じ地面に立つことができなくなっちまった……」

『それがゲンさんにとって「最も辛いと思うこと」……』

 ゲンは手で顔を覆う。

「正直、あの時の記憶はかなり曖昧だ……ただ……娘の悲鳴と、この手に残る感触が、今も残ったまま消えやしねぇ……!」

「おそらく団長に操られていたんでしょう」

「オッサン……」

「……あー、くそ。いい年してみっともねぇなあ……」

「なんでだよ。全然みっともなくなんてねぇよ」

 声を震わせるゲンに、セイジは迷いなく言い切った。

「そう言ってくれるか……? いや、すまねぇ、湿っぽくなってしまったな!こんなもんは古ぼけた昔話だ……」

「そうじゃないだろ」

 セイジは強く否定し、ゲンを見据えた。

「昔話だなんて嘘だ。あんたは今も、そうやって苦しんでるじゃないか。割り切ったふりなんてするなよ。……笑ってごまかしてないで、いっぺん泣いとくべきなんだ、あんたは」

「……!」

「ところでオッサン。他の道具係の奴らって今日は上がってんだよな?」

 急に口調を軽くし、サトルとカナに目配せをして、セイジは立ち上がった。

「工房の中、物色させてくれないか。俺達そもそも武器が必要で来たんだ。いいだろ?」

 ゲンは顔を伏せた。

 そして、思ったよりもはっきりと答えを返してきた。

「好きにしてくれ……あんまり荒らすんじゃねーぞ」

「サンキュ」

 あとはもう何も聞こえないことにして、セイジはさっさと工房へ向かう。途中、ふり返ってカナを見た。

「炉の正面通り過ぎりゃ大丈夫だろ。炎が見えないように俺の後ろから来いよ」

「……ん」

 入ってすぐの炉に気を取られ、最初はよく見ていなかったのだが、工房の奥の方には所狭しと道具類が積まれていた。武器どころか甲冑のようなものまである。

 セイジはそれらを見て回り、最終的に西洋風の長剣を拾い上げた。

「サーベルってやつか? 俺はこの辺りかな……」

 カナは何やら長い棒を振ってみている。サトルは鉄笛を手に取ったところだった。

「さすが“工房”。いろんなものがあるんだな」

『……ねえ、セイジ』

 アンティークが遠慮がちに声をかけてきて、セイジは視線を移す。

「なんだ?」

『もしかして、今ちょっと怒ってる?』

「当たり前だろ」

 セイジもサーベルを上から切り下ろしてみた。軽くて扱いやすそうだ。きっちり刃がついているのが気になるが、そこは峰の方を使えばいいだろう。

「演戯用の水槽を壊したってのは褒められたもんじゃねーけど、それくらいのことでピエロゲームの対象者にされたなんて、納得できるか。ビッグだってそうだ……『5つの間』の席を若い奴に譲ってくれって、それだけだったじゃねーか」

『うん……』

「それで死ぬより辛い思いさせられるってどういうことだ? そんな権利が団長にはあんのか? ……てか、俺が対象者にされた理由がますます気になるんだけど!?」

『……うーん……』

「――聞いてないか? ピエロゲーム対象者ってのは、“団長にとって不都合なことをした者”、その一点だ」

 セイジはふり返った。ゲンが、しっかりとした足どりでこちらへ歩いてきた。



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