制裁 -3-
――もともとオレは裏方で志願したが、
娘はステージに立ちたがっていた
泳ぎが得意な娘は水芸……中でも一番重要な「人魚役」になった
毎日泳ぎ続け、急激に演戯が上手くなり
娘はどんどん人気がでた
いつしか1日のほとんどを水の中で過ごすようになった
……怖くなった
もう、水の中から出てこなくなるのではないかと
もう、一緒に同じ地面に立つことはないんじゃないかと
その日の夜、こっそり娘がいつも使っている大きな水槽を
斧で粉々にぶち壊した
娘は人魚なんかじゃない、オレと陸で一緒に過ごすんだ
だが……そのことが団長の逆鱗に触れた
『ピエロリスト』に載り、対象者となったオレは
すぐに団長から制裁を受けたんだ……
リストNo,24『ゲン』
――制裁内容:娘セイレーンの脚を斬り落とすこと――
――せっかくがんばっていた娘なのに
父親がなんてことするのかしらねぇ……?
「娘の名はセイレーン。『5つの間』の1人だ」
「『水槽の間』ですね。足のない人魚が司っているとは知ってましたが……」
「セイレーンは人魚じゃねぇ。人間だ。オレの娘だ。だが……オレが両脚を斬ったから、あいつはもう陸にあがれないんだ」
「……」
「あの日からずっとセイレーンは水の中。もう2度と、オレと同じ地面に立つことができなくなっちまった……」
『それがゲンさんにとって「最も辛いと思うこと」……』
ゲンは手で顔を覆う。
「正直、あの時の記憶はかなり曖昧だ……ただ……娘の悲鳴と、この手に残る感触が、今も残ったまま消えやしねぇ……!」
「おそらく団長に操られていたんでしょう」
「オッサン……」
「……あー、くそ。いい年してみっともねぇなあ……」
「なんでだよ。全然みっともなくなんてねぇよ」
声を震わせるゲンに、セイジは迷いなく言い切った。
「そう言ってくれるか……? いや、すまねぇ、湿っぽくなってしまったな!こんなもんは古ぼけた昔話だ……」
「そうじゃないだろ」
セイジは強く否定し、ゲンを見据えた。
「昔話だなんて嘘だ。あんたは今も、そうやって苦しんでるじゃないか。割り切ったふりなんてするなよ。……笑ってごまかしてないで、いっぺん泣いとくべきなんだ、あんたは」
「……!」
「ところでオッサン。他の道具係の奴らって今日は上がってんだよな?」
急に口調を軽くし、サトルとカナに目配せをして、セイジは立ち上がった。
「工房の中、物色させてくれないか。俺達そもそも武器が必要で来たんだ。いいだろ?」
ゲンは顔を伏せた。
そして、思ったよりもはっきりと答えを返してきた。
「好きにしてくれ……あんまり荒らすんじゃねーぞ」
「サンキュ」
あとはもう何も聞こえないことにして、セイジはさっさと工房へ向かう。途中、ふり返ってカナを見た。
「炉の正面通り過ぎりゃ大丈夫だろ。炎が見えないように俺の後ろから来いよ」
「……ん」
入ってすぐの炉に気を取られ、最初はよく見ていなかったのだが、工房の奥の方には所狭しと道具類が積まれていた。武器どころか甲冑のようなものまである。
セイジはそれらを見て回り、最終的に西洋風の長剣を拾い上げた。
「サーベルってやつか? 俺はこの辺りかな……」
カナは何やら長い棒を振ってみている。サトルは鉄笛を手に取ったところだった。
「さすが“工房”。いろんなものがあるんだな」
『……ねえ、セイジ』
アンティークが遠慮がちに声をかけてきて、セイジは視線を移す。
「なんだ?」
『もしかして、今ちょっと怒ってる?』
「当たり前だろ」
セイジもサーベルを上から切り下ろしてみた。軽くて扱いやすそうだ。きっちり刃がついているのが気になるが、そこは峰の方を使えばいいだろう。
「演戯用の水槽を壊したってのは褒められたもんじゃねーけど、それくらいのことでピエロゲームの対象者にされたなんて、納得できるか。ビッグだってそうだ……『5つの間』の席を若い奴に譲ってくれって、それだけだったじゃねーか」
『うん……』
「それで死ぬより辛い思いさせられるってどういうことだ? そんな権利が団長にはあんのか? ……てか、俺が対象者にされた理由がますます気になるんだけど!?」
『……うーん……』
「――聞いてないか? ピエロゲーム対象者ってのは、“団長にとって不都合なことをした者”、その一点だ」
セイジはふり返った。ゲンが、しっかりとした足どりでこちらへ歩いてきた。




