制裁 -1-
生きててよかった?
死んだ方が ましだった……?
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「あ……しまった」
ヨシタカに礼と別れを告げ、部屋を出たところで、セイジは呻いた。
「どうしました」
「ナイフをビッグのとこに落としてきたままだ。こんなのが続くとなると、丸腰ってのはちょっとキツいよな……」
「私のクラブも、1つ割れた」
カナが腰の2本のクラブに目をやった。割ってしまった張本人のセイジは首をすくめる。
「わり」
「あの時のことは仕方ない。謝らなくていいよ」
「……そうか?」
「私も武器の類は持ち合わせません。そうですね……この際ですから、調達に行ってみましょうか?」
『どこかに心当たりがあるの?』
赤いチェックの“ボレロ”をそれなりに気に入ってくれたらしく、アンティークの声は明るかった。サトルがうなずき、練習場の方を指す。
「『左脚の棟』に、道具係の作業部屋があります。道具の中には武器の形状をしているものもありますから、頼めば使わせてもらえるかもしれません」
「ああ、あそこ」
カナも合点がいったようだ。そうなるとセイジの興味もわいてくる。
「なんかおもしろそうだな。それに確か、道具係はゲーム不参加とかって――」
そんなことを言っているそばから。
人間の足音が複数近づいてきた。そして足音の主が明らかになるなり、セイジはげんなりとため息をついた。
「またお前か……」
「またとは何だ! 今度こそ仕留めてやるぞ、『セイジ』!!」
先頭に立ってわめくのは、ゲームが始まって最初に襲ってきたマジシャンだ。実はこうして顔を合わせるのはもう3度目で、回を追うごとに仲間の数を増やしてきている。
「そのタフさは認めるけどさ。まだやんの?」
「うるさいうるさいうるさーい!! 今度こそ――死ね!!」
マジシャン以下、クラウンやらリボン使いやらの6人が一斉に飛びかかってきた。
しかし。
「学習しないんだよなぁ……」
セイジのつぶやきと共に、6人全員が青い光に包まれる。アンティークの“視線”で動きを封じられたのだ。
「ぐぬぬ、またしても……!! この卑怯者め!!」
「お前『恥ずかしい』って言葉知ってる?」
「貴様ぁ――」
マジシャンは一度矯めてから、唾を飛ばしつつ怒鳴った。
「“団長の娘”を味方につけたからって、調子に乗りやがって!!」
「…………は?」
セイジは完全に間の抜けた声を出してしまった。
該当者に気づくまで、少し時間が必要だった。やっとのことで唯一の“娘”であるカナに思い至る前に、興奮したマジシャンはなおまくしたてた。
「だがせいぜい気をつけるんだな! その女とは一緒にいないほうがいいぞ! いつ裏切られるかわからアがッ!」
「うるさい」
あっという間に全員を殴って気絶させ、クラブを下ろしたカナは、表情をなくしていた。
「カナ……?」
「私はみんなから嫌われてるから」
カナはぽつりと言って、向こうを向いてしまう。
「もともと団長の娘ってだけでよく思われてなかったんだ。それに……」
『カナちゃん……』
「――なんでもない。まぁそのへんの団員にいくら嫌われよーが、別にいいんだけどね」
「……」
セイジは大股でカナに歩み寄った。
後ろからぽんと頭に手を置く。カナがびくりと肩をすくめた。
「そうだな。ほんっとに、どうでもいいことだな」
「!」
「さっさと行こうぜ。まだ『間』は4つも残ってるんだ」
「……気安く触らないでよ」
そう言いつつ、カナはおとなしく頭をなでられている。
セイジは調子に乗った。
「お前もそうやってしおらしくしてりゃ、ちょっとは可愛く見えるんだな――っていてててて」
手を思いきりつねられて、セイジは悲鳴を上げた。
アンティークが呆れたため息をつき――
サトルはその様子を、穏やかな目で見つめていた。
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