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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第6章
26/117

制裁 -1-



   生きててよかった?

   死んだ方が ましだった……?



         ++++++



「あ……しまった」

 ヨシタカに礼と別れを告げ、部屋を出たところで、セイジは呻いた。

「どうしました」

「ナイフをビッグのとこに落としてきたままだ。こんなのが続くとなると、丸腰ってのはちょっとキツいよな……」

「私のクラブも、1つ割れた」

 カナが腰の2本のクラブに目をやった。割ってしまった張本人のセイジは首をすくめる。

「わり」

「あの時のことは仕方ない。謝らなくていいよ」

「……そうか?」

「私も武器の類は持ち合わせません。そうですね……この際ですから、調達に行ってみましょうか?」

『どこかに心当たりがあるの?』

 赤いチェックの“ボレロ”をそれなりに気に入ってくれたらしく、アンティークの声は明るかった。サトルがうなずき、練習場の方を指す。

「『左脚の棟』に、道具係の作業部屋があります。道具の中には武器の形状をしているものもありますから、頼めば使わせてもらえるかもしれません」

「ああ、あそこ」

 カナも合点がいったようだ。そうなるとセイジの興味もわいてくる。

「なんかおもしろそうだな。それに確か、道具係はゲーム不参加とかって――」

 そんなことを言っているそばから。

 人間の足音が複数近づいてきた。そして足音の主が明らかになるなり、セイジはげんなりとため息をついた。

「またお前か……」

「またとは何だ! 今度こそ仕留めてやるぞ、『セイジ』!!」

 先頭に立ってわめくのは、ゲームが始まって最初に襲ってきたマジシャンだ。実はこうして顔を合わせるのはもう3度目で、回を追うごとに仲間の数を増やしてきている。

「そのタフさは認めるけどさ。まだやんの?」

「うるさいうるさいうるさーい!! 今度こそ――死ね!!」

 マジシャン以下、クラウンやらリボン使いやらの6人が一斉に飛びかかってきた。

 しかし。

「学習しないんだよなぁ……」

 セイジのつぶやきと共に、6人全員が青い光に包まれる。アンティークの“視線”で動きを封じられたのだ。

「ぐぬぬ、またしても……!! この卑怯者め!!」

「お前『恥ずかしい』って言葉知ってる?」

「貴様ぁ――」

 マジシャンは一度矯めてから、唾を飛ばしつつ怒鳴った。

「“団長の娘”を味方につけたからって、調子に乗りやがって!!」

「…………は?」

 セイジは完全に間の抜けた声を出してしまった。

 該当者に気づくまで、少し時間が必要だった。やっとのことで唯一の“娘”であるカナに思い至る前に、興奮したマジシャンはなおまくしたてた。

「だがせいぜい気をつけるんだな! その女とは一緒にいないほうがいいぞ! いつ裏切られるかわからアがッ!」

「うるさい」

 あっという間に全員を殴って気絶させ、クラブを下ろしたカナは、表情をなくしていた。

「カナ……?」

「私はみんなから嫌われてるから」

 カナはぽつりと言って、向こうを向いてしまう。

「もともと団長の娘ってだけでよく思われてなかったんだ。それに……」

『カナちゃん……』

「――なんでもない。まぁそのへんの団員にいくら嫌われよーが、別にいいんだけどね」

「……」

 セイジは大股でカナに歩み寄った。

 後ろからぽんと頭に手を置く。カナがびくりと肩をすくめた。

「そうだな。ほんっとに、どうでもいいことだな」

「!」

「さっさと行こうぜ。まだ『間』は4つも残ってるんだ」

「……気安く触らないでよ」

 そう言いつつ、カナはおとなしく頭をなでられている。

 セイジは調子に乗った。

「お前もそうやってしおらしくしてりゃ、ちょっとは可愛く見えるんだな――っていてててて」

 手を思いきりつねられて、セイジは悲鳴を上げた。

 アンティークが呆れたため息をつき――

 サトルはその様子を、穏やかな目で見つめていた。



         ++++++



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