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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第5章
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予言 -3-


 ヨシタカの部屋に戻ったカナを待っていたのは、意外な光景だった。

 セイジがヨシタカの横で興味深そうに作業を眺め、時折質問までしている。ただしアンティークの方は、離れたところでサトルに抱かれていた。

「……お、良かった、無事かカナ」

「楽しそうだね……」

「こいつの裁縫の腕だけは本気で尊敬した。俺もちょっと練習してみるかな……そしたらアンティークの服で困らないかもな」

「なんならレクチャーしようか? ビシバシしごいちゃうゾ☆」

「その暇がありゃーなぁ……」

 まんざらでもなさそうなセイジに、カナは、ありていに言って「ムカついた」。

「あいでっ!?」

「ほら、これ。もらってきたから」

 カナは重いバスケットをヨシタカの目の前にドンッと置いた。

 ヨシタカは器用にも、完成間近と見える服飾品をひょいとどけ、被害を免れた。むしろセイジが、後頭部をおさえて文句を言い始める。

「おいコラ! カナ! 俺今なにかしたか!?」

「別に」

「何もねーのにいきなり殴られてちゃかなわないんだけど!?」

『きっとセイジが自分のことに夢中になってるからだよ……心配してたように見えなかったよー?』

 向こうからアンティークの声が飛んできて、セイジが「うぐぐぐ……」などと呻いた。

 本当に素直な男だ。きっと他人に騙されても、それに気づいていないことさえあったりするに違いない。

 なんて――幸せな。

「いや、その……悪かった……」

「もういい。それよりそっち、できたみたいだけど」

「おっ?」

 ひらりとヨシタカがつまみ上げたものに、セイジの目が釘付けになった。

「なんだこれ? 短いけど……上着?」

「“ボレロ”っていうんだよ。かわいいだろ?」

「あれ、ドレスじゃないのか?」

「ちゃんとしたドレスがほしかったら、ちゃんと人形をオレにくれないと?」

「あー……そういうことか」

 人形遣い同士のやりとりをぼんやり眺めていると、サトルが歩み寄ってきた。というより、カナに用があるのはアンティークのようだ。

『ごめんね、カナちゃん。セイジったらいつまで経っても子供みたいなんだから……』

「……」

『まだ怒ってる?』

 最初からセイジに怒っていたわけではない。しかし説明するのも億劫で、ただかぶりを振った。

「なんかあんたって、セイジの母親みたい」

『そうかな? つきあいは長いけどね。セイジが小さい頃から一緒にいたし』

「ふうん……」

「アンティーク、とりあえず作ってもらった“ボレロ”ってやつ、さっそく着てみないか?」

 セイジに呼ばれ、サトルがアンティークを連れて行く。

 カナはため息をついて――

 首の包帯に、手を触れた。

 背筋が疼くような悪寒はまだ止まらない。

「……渡さない。渡すもんか、絶対……」

「なぁカナ、どうかなこれ? 似合うか?」

 つぶいやいた瞬間、セイジの脳天気な声が聞こえた。カナは心の中で、もう一度セイジに蹴りを入れた。



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