予言 -3-
ヨシタカの部屋に戻ったカナを待っていたのは、意外な光景だった。
セイジがヨシタカの横で興味深そうに作業を眺め、時折質問までしている。ただしアンティークの方は、離れたところでサトルに抱かれていた。
「……お、良かった、無事かカナ」
「楽しそうだね……」
「こいつの裁縫の腕だけは本気で尊敬した。俺もちょっと練習してみるかな……そしたらアンティークの服で困らないかもな」
「なんならレクチャーしようか? ビシバシしごいちゃうゾ☆」
「その暇がありゃーなぁ……」
まんざらでもなさそうなセイジに、カナは、ありていに言って「ムカついた」。
「あいでっ!?」
「ほら、これ。もらってきたから」
カナは重いバスケットをヨシタカの目の前にドンッと置いた。
ヨシタカは器用にも、完成間近と見える服飾品をひょいとどけ、被害を免れた。むしろセイジが、後頭部をおさえて文句を言い始める。
「おいコラ! カナ! 俺今なにかしたか!?」
「別に」
「何もねーのにいきなり殴られてちゃかなわないんだけど!?」
『きっとセイジが自分のことに夢中になってるからだよ……心配してたように見えなかったよー?』
向こうからアンティークの声が飛んできて、セイジが「うぐぐぐ……」などと呻いた。
本当に素直な男だ。きっと他人に騙されても、それに気づいていないことさえあったりするに違いない。
なんて――幸せな。
「いや、その……悪かった……」
「もういい。それよりそっち、できたみたいだけど」
「おっ?」
ひらりとヨシタカがつまみ上げたものに、セイジの目が釘付けになった。
「なんだこれ? 短いけど……上着?」
「“ボレロ”っていうんだよ。かわいいだろ?」
「あれ、ドレスじゃないのか?」
「ちゃんとしたドレスがほしかったら、ちゃんと人形をオレにくれないと?」
「あー……そういうことか」
人形遣い同士のやりとりをぼんやり眺めていると、サトルが歩み寄ってきた。というより、カナに用があるのはアンティークのようだ。
『ごめんね、カナちゃん。セイジったらいつまで経っても子供みたいなんだから……』
「……」
『まだ怒ってる?』
最初からセイジに怒っていたわけではない。しかし説明するのも億劫で、ただかぶりを振った。
「なんかあんたって、セイジの母親みたい」
『そうかな? つきあいは長いけどね。セイジが小さい頃から一緒にいたし』
「ふうん……」
「アンティーク、とりあえず作ってもらった“ボレロ”ってやつ、さっそく着てみないか?」
セイジに呼ばれ、サトルがアンティークを連れて行く。
カナはため息をついて――
首の包帯に、手を触れた。
背筋が疼くような悪寒はまだ止まらない。
「……渡さない。渡すもんか、絶対……」
「なぁカナ、どうかなこれ? 似合うか?」
つぶいやいた瞬間、セイジの脳天気な声が聞こえた。カナは心の中で、もう一度セイジに蹴りを入れた。




