狂気の巨人 -7-
エリはいつものように、部屋の隅でおとなしく座り直したのだろう。
自分も今はどうにか平静を保てている。
ただ――新しく人の気配が入ってきたのを感じた。ビッグは先に口を開いた。
「何の用だ。腕のない私はもう用済みだろう」
「リストNo,44『セイジ』の後を追っているだけだ」
目隠しをしていても、声を聞く前に、臭いで誰かは分かっていた。
死臭を纏う白い青年。――自分の腕を持っていった『死神』だ。
「アオイ……聞いていいか」
彼に問うたところで答えは得られないだろう。
それでも問わずにいられなかった。
「私はいつまで、この狂気に耐えなければいけないんだ……! あと何人殺せばいいんだ……!? いつになったら……――また子供たちと笑える日がくるんだ……!!」
「まだそんな欲望が残っていたのか」
そっけなく言って、アオイはきびすを返したようだ。
「『セイジ』を追う。『アオイ』はユエの役に立たなければならない……」
「アオイ!!」
アオイの気配が遠ざかる。ビッグはどうしようもない無力感に呻き声をもらした。
「……おじちゃん……」
離れた場所にいても、エリが何か言いたそうにしているのが分かった。それを一生懸命我慢していることも。
それだけでもう、どろどろとした衝動がこみ上げてきた。
破壊と殺戮――その快楽への欲求。
しかし、快楽の後には必ず後悔の念が襲う。正気にかえった瞬間に、それは耐え難いほどの苦痛となる。
何度も何度も、味わってきた。
「これが……“選ばれた者”の宿命なのか……」
心を両極に裂かれる思いだった。耐える以外に、ビッグにできることなどなかった。




