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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第4章
21/117

狂気の巨人 -6-


「……っ、はーっ、死ぬかと思った……!」

 セイジはどっと汗が流れるのを感じながら、その場にへたり込んだ。

 カナとサトル、それにエリが、てんでに寄ってくる。

「肩を怪我しましたね。見せてください。……カナは大丈夫ですか」

「平気」

「サトル……お前なんでエリちゃんをしっかり見てないんだよ。寿命縮んだぞ」

「すみません。『大丈夫だから』と押し切られました」

 サトルがエリを見下ろした。エリは不思議そうにサトルを見返した。

「だって大丈夫だもん。おじちゃんはいつも怒って暴れるけど……エリ、一度も怪我したことないもん」

『え? エリちゃんを怒るの?』

「ううん。……自分に怒ってるの」

「エリ、余計なことを言うな――」

 弱々しい声にセイジ達はふり返る。ビッグはもう暴れる気配もなく、悄然としていた。

 セイジは眉根を寄せた。

「今は正気みたいだな。……あんたなんで腕がないんだ? 制裁でなくしたわけじゃないだろ」

 あの幻聴が真実ならば、制裁内容は『子供を嫌いになること』だ。

 それでどうしてこんな状況になるのか、セイジには分からない。

「……こんな腕、ないほうがいい。腕があったらとっくに、サーカス団の人間を皆殺しにしてるさ……」

『な、なんでそんなこと思うの?』

「制裁を受けてから、子供を見るとイラついてしかたねーんだ! ぐちゃぐちゃにして殺したくなる……!」

 悪寒と共に、セイジの脳裏を『巨人の間』入口の血塗られた光景がよぎった。

「……それで目隠しまでしてるのか」

「でももう遅い。何人か殺しちまった! だから……戒めに、両腕を斬られた。アオイにな――」

「! アオイって、あの目つきの悪い銀髪の……」

「奴のしそうなことだ」

 カナがセイジと同じように眉をひそめた。

 と、ビッグがようやく顔を上げた。

「ピエロの……サトルがいるな。お前はそんなこと聞かなくても知っているだろう。何しろ、


 私が初めて殺した子供の死体を持っていったんだからな……!」


「……え?」

 セイジはサトルに目を移した。サトルはこともなげにうなずいた。

「はい。確かに」

「あの子の身体を改造し、ロボットにしたと聞く……」

「……は!?」

「正しい噂です」

 思わぬことに、セイジはしばし言葉を失った。

「――遺体を、ロボットにって……なんでそんなこと……っ」

「1つはビッグに自分の罪を忘れさせないため。そしてもう1つは体の不自由なリアラのため」

 立板に水のごとく理由を述べられ、返す言葉も見あたらない。

 サトルは巨人を見上げ、次いで、セイジを見据えた。

「人間は1人で生きていくのは辛すぎる、ということですよ。よく……覚えておいてください」

「……」

「さぁ、戻りましょう。ここでの用は済んだようです」

 サトルが扉を押すと、蔓は簡単にほどけた。しかしセイジは、少なからず再燃したサトルへの不信感に、少しの間動けなかった。

 そこへエリが近づいてきた。セイジの袖を遠慮がちに引っぱり、見上げてくる。

「また遊びに来てくれる?」

「……。ああ、きっとまた来るよ」

『そしたら今度はお歌、歌おうね』

「うん! ……そうだ、これあげる!」

 差しだしたのは、ずっと抱いていたキューピー人形だった。セイジはそれをひとまず受け取って、人形とエリを見比べた。

「これ? でも……もらっちゃっていいのか?」

「ええと。“おちかずきのしるし”?」

『難しい言葉知ってるんだね』

「エリはビッグのおじちゃんがいるから、寂しくないもん」

 エリが胸を張る。アンティークがくすりと笑い、セイジも、少し心を和ませた。

「そっか」

『エリちゃんがいてくれるから、巨人さんはなんとか理性を保っていられるのかもね。身体は拒否反応を起こしても、心の奥ではまだ子供のことが好きなんだよ』

「……だといいな……」

「きっと来てね。……またね」

「ああ。――じゃあな!」

 ビッグにも聞こえるよう声を張り上げる。エリが安心したように手を放した。

 折りしもカナに「追いてくよ!」と叱咤され、セイジは巨人と少女に背を向けた。

 その背に、巨人の声を聞いた気がした。

「『1人で生きていくのは辛すぎる』……か……」



         ++++++



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