狂気の巨人 -5-
パリンッ、とガラスの割れるような音がした。
はっと我にかえったときには、光も、結晶も、跡形もなく消えていた。
『結晶が割れちゃった……』
「今のは一体……?」
「う……うう……!」
ビッグは何かに苦しんでいるようだった。
セイジは動こうとしたカナを、目で制した。
「あんたの記憶……なのか? あんたも、ピエロゲームの制裁を受けたのか?」
ビッグはあえぐように、天を仰いだ。
「あああああああああああああああああああ!!」
「クソ、聞こえてねーか――」
突如、間近の床から新たな蔓が伸び、セイジの肩をかすめた。
「っ!」
『大丈夫!?』
「セイジ!」
カナがクラブを1本投げてよこした。なんとかキャッチしたそれは予想したよりしっかりとした重さだ。そのままの勢いで、セイジは蔓を払った。
「助かる!」
「よそ見するな、また“あれ”が来る!」
“あれ”が衝撃波のことだと直感する。
セイジはとっさに横へ飛ぼうとして――その寸前で踏みとどまった。
真後ろにはエリがいた。
「ちょっ……何やってんの!?」
カナの悲鳴のような声を聞きながら、アンティークを守るように半身を引いて、ぐっと全身に力を込める。
避けようとは思わなかった。その時頭にあったことはただ1つ。
ビッグに、エリを傷つけさせてはいけない――!
「おじちゃん!!」
ところがセイジの思惑とは裏腹に、後ろからエリが飛び出した。
今しもビッグは咆哮しそうな気配だ。セイジが急いで伸ばした手も間に合わない。
「おじちゃん…やめて!!」
エリはビッグに駆け寄りながら、叫んだ。
刹那――
――おじちゃん……
ララのこと、キライになっちゃった……?
どこかでエリとは違う少女の声が響いた。
ビッグの動きがぴたりと止まった。
とっさに、セイジはカナのクラブを力いっぱい投げつけた。クラブはまっすぐ飛んで、巨人の眉間を強打する。
パァンッと音を立て、クラブは砕けた。
「お……お……!」
ビッグは大きくのけぞって、ゆっくりと、沈み込んだ。
もう周囲の蔓の動きも止まっていた。つついてみても、ただの植物と変わらない。
――当面、危機は去ったと見てよさそうだった。
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