狂気の巨人 -4-
「――殺してやる殺してやる殺してやる!! お前らみんな殺してやる!!」
『……え、なんで!?』
ビッグは吼えて、太い鎖を引きちぎらんばかりに暴れだした。気圧されたセイジはじりりと後ろに下がった。
「話にならない……あんた一生、ここで鎖に繋がれてなよ」
「そうですね。こちらをロクに会話をする気がないのなら仕方ありません。セイジ、ここにいるのは危険です。戻りましょう」
カナとサトルは早々と扉の近くまで退避している。
エリは変わらずセイジの傍らにいて、少し悲しそうにビッグを見つめていた。
「……」
聞きたかったことは聞いた。望む答えは得られなかった。
これで終わりということにしていいはずだった。
――それでも。
『セイジ……?』
勇を奮って、セイジはビッグの正面まで移動した。
「……おい、あんた。何があったか知らないけど……こんなとこに閉じ込められてんなら、どんなに優秀でもステージに立てない。もったいねぇことしてるよ!」
「お前に……何がわかる……!!」
「言葉は通じるんだな? 言っとくが俺にだって1つだけ分かるぞ。サーカスの団員が、女の子にこんな顔させるようじゃダメだろ!」
「黙れ!! ――殺す!!」
絞り出すような叫びと共に、ビッグの背後の壁に亀裂が入った。そこから無数の蔓が生え、一気に伸びる。
「げっ!?」
『危ない!』
セイジの身体を貫く勢いで迫った蔓は、アンティークの『視線』でぴたりと止まった。
しかし長くはもたない。蔓はうねうねと小刻みに動き出し、その振れ幅はどんどん大きくなる。
『ダメだ、力が……強すぎて……!』
「充分!!」
セイジは飾りナイフを抜き放ち、次々と蔓を切り裂いていった。
「てか、縛られてるくせに攻撃できるって反則だろ! 数多すぎるし……!」
「考えなしに挑発するからだ!!」
セイジの頬をかすめて、白いクラブが舞った。セイジは驚いてカナを見た。
「加勢してくれんのか?」
「蔓が扉を塞いでる! あいつを倒さなきゃ出られない!」
「ほんと悪ぃ! ……エリちゃんは」
「サトルが見てる!」
共闘は意外にもやりやすかった。次はどこをどう攻めるつもりか。視界に入ってさえいれば、カナの行動は容易に見当がつく。
見る間に蔓は減っていった。
が――不意に、カナがぴくりとビッグを見た。
「おおおおおおおおおおぉっ!!」
蔓もちぎれ飛ぶような凄まじい咆哮が、衝撃波となって2人を襲った。
セイジはこらえきれずにバランスを崩した。硬い床にたたきつけられ、その拍子にナイフを取り落とす。
「っ、ヤバ……!」
「みんな……みんな、死ねばいい!!」
慌てて身体を起こそうとしたセイジは、床に落ちていた何かをつかんだ。
それは、いつしかポケットから転がり出ていたあの結晶で――
「! またか!?」
『結晶が光ってる……!』
セイジの手の中で白い光が明滅を始めた。
熱のない光。あっという間に室内を白く染めあげる。
――団長、お言葉ですが、私は5つの間には相応しくありません
「なんだ!?この声、どっから……!?」
セイジは低い体勢で身構えた。
その間も、ひどく場違いな、落ち着いた声と言葉は続く。
優秀な団員と認められたことは大変嬉しいのですが
私は最低限の訓練しかする気はありません
――私はただの大男です
5つの間の席はもっと若くて有望な団員にあげて下さい
……向上心がないのは団員として致命的ね……
「!!」
カナが息を呑む気配がした。セイジも一気に緊張する。
「これが……団長の声か?」
何があなたをそこまで堕としたの?
私は訓練よりも小さな子の相手をしている時の方が楽しく感じています
本当はこのサーカス団にいるべきではないのかもしれない
そう、あなたは子供好きな優しい人なのね?
あたしとこのサーカス団よりも子供をとるのね!?
い、いえ、サーカスは好きですし団長も尊敬しています
ただ私は5つの間には相応しくないと……
いや! そんなこと聞きたくない!! あなたはあたしを侮辱したんだわ!!
「なんか、これ……いやな展開だぞ……!」
だ、団長……!
ひどい……ひどいわぁ……。あなたもあたしを選んでくれないのね?
悪い団員にはお仕置きしなきゃね……?
だ、団長!!ピエロゲームだけは……!!
――リストNo, 31『ビッグ』
制裁内容:子供を嫌いになること
ふ……
あははははははははははははははははははははは!!




