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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第4章
16/117

狂気の巨人 -1-



   罪に汚れたこの両手

   ほしいのならば

    ――くれてやる



         ++++++



   おじちゃん、ビッグのおじちゃん

   だっこしてー

   かたぐるましてー

   おじちゃん、次のステージがんばってね


   えへへ……ビッグのおじちゃん、だーいすき!



         ++++++



 壁の穴をくぐったところで、セイジ達はまず、あっけにとられて立ちつくした。

「『間』っていうから部屋か何かかと思ってたんだが、まるで森だな……」

 まるで、というより森そのものだった。

 足元は草に覆われている。木々が高く生い茂って枝葉を広げ、天井は見えない。ここが屋内か屋外かすらよくわからなかったが、とにかくかなり広そうだ。

「私も中に入ったのは初めてです」

『なんか気味が悪いなぁ……早く巨人さん探して戻ろうよ~』

「そうだな。さてどっちから行くか……」

 セイジは無防備に、一歩踏み出した。


 シャアアアァッ!


「え――うわっ!?」

 茂みから飛び出した緑色の蛇が、セイジの脚に噛みついた。

 激痛に一瞬息が止まり、がくりと膝を落とす。じわじわと、いやな痺れが全身に広がっていく。

「ぐっ……毒……!?」

「!」

『セイジ!?』

 カナがクラブを振って蛇をはじき飛ばし、サトルがすぐさま傷口を調べた。

「……間違いなく毒ですね」

「蛇も、ここの……団員なのか……?」

「蛇を団員として扱っているとは私も聞いたことがありません。それより、少しじっとしていてください……」

 サトルが噛み跡に手を当てると、そこに淡い光が灯った。

 嘘のように痛みが引いていく。身体の痺れも、徐々に楽になった。

「……ふー。サンキュ、サトル。もう大丈夫だ」

「そうですか……?」

 手を引いたサトルに、カナが腕組みして言った。

「あんたが治癒の使い手だなんて知らなかった」

「まだ言ってなかったかもしれませんね」

「サトルもまじない師か。やっぱそういう奴多いんだな……」

『ね、ねえ、みんな。ちょっと思ったんだけど』

 アンティークの不安げな声が割り込んだ。何やらいつになく歯切れが悪い。

「ん、どうした?」

『ここから右に見える樹の、枝にからまってる蔓。今ちょっと動いたような――』

「は? 蔓が動くなんて、まさか……」

「いえ……あれは」

 サトルが指さしたその先で――うねうねと、蔓がくねった。

「動いてますね」

「マジで!?」

 セイジが声を上げた矢先、ひゅるりと、サトルめがけて蔓が伸びた。

 サトルは身体をひねってそれをかわした。セイジは飾りナイフを抜き――ゲーム開始時にたまたま身につけていたものだ――蔓の尖端を切り払った。

「蔓が襲ってくるとか、ありえねーだろ! そのうちここの樹全部が襲ってきたりしないだろうな……!」

「わかりません。とにかく、“外”の常識は通用しないと考えた方がいいでしょう」

「……迂闊に動くとどこから襲ってくるかわからない」

 カナが現実的な問題を指摘した。

「それに、迷うと厄介だ。最悪外に出られなくなる」

『この中の地図なんてなさそうだしね』

「ああ。参ったな……」

「――ウキキッ!」

 考え込んでいたセイジは、かん高い声に、一瞬反応できなかった。

「……ん? 今、何か……」

「ウキャーッキャッキャ!!」

 セイジは目を上げた。

 その目が、点になった。

「へ……猿……?」

 先ほどの樹の下で、黒い毛色の猿が飛び跳ねていた。何かを訴えるように、こちらへ1歩近づいてはまたお尻を向けて1歩離れる、そんな動作をくり返している。

「猿ですね」

『どこかから迷い込んできちゃったコかな』

「確かに敵意はなさそうですが」

「おいお前、危ないぞ。ちょっとこっち来いよ。……って!」

 セイジが手を伸ばしたと同時に、猿は駆けだした。つられてセイジも後を追う。

「ちょっと、待てって!」

「あっ……の馬鹿!」

 カナが叫び、サトルと共にセイジを追いかける。二重の鬼ごっこが始まった。

 走る最中、蛇に飛びつかれ、蔓にからまれ、急に転がり出た岩に足を取られ……

 それらを必死にかわしつつ、なんとか全員はぐれることなく、セイジ達は“ゴール”にたどり着いた。

「ウキッ!」

「! ここは……」

 少しばかり開けた場所に出たところで、猿はようやく速度をゆるめた。

 1度ふり返ってセイジと目を合わせてから、空き地の中央にそびえ立つ大樹をするすると登っていく。セイジは樹の下からそれを見上げた。

「おーい、お前、戻ってこーい」

 ――いきなり、カナに後頭部を殴られた。

「でっ!」

「あんた何考えてんの、信じられない!! そんなことしてる場合じゃないでしょ!?」

「お前っ……だからって、クラブで……っ」

『セイジが悪いよ……お猿さんが心配だったのはわかるけど……』

 ここでとどめとばかりに、サトルがため息をついた。

「けっこう奥まで来てしまいましたね。道々、樹に目印をつけてありますが……それで入口まで戻れるかどうか……」

 セイジもさすがに、しゅんとなった。

「わ、悪い……」

「あやまったって遅いよ」

「猿の姿も見えませんし、一度戻りませんか」

「はい」

『――ねえ、待って、あれ何?』



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