計画 -3-
壁一面に、ずらりとモニターが並んでいる。そこにはサーカス館のあらゆる場所が映し出されている。
『巨人の間』入口も例外ではなく、意を決した体で奥へと進んでいくセイジ達の姿が、画面に一瞬映り、消えたところだった。
「……それで? カナちゃんの首はまだなのね?」
モニターに囲まれた部屋の中央には机があり。
2人が、向かい合って座っていた。
「まだだ」
「そう、まだなの……まだなのね……?」
執拗に繰り返して首を傾げるのは、ゆったりしたローブで全身を包む小柄な女だった。といっても、その顔さえ仮面で覆い隠されているため、声の質から女性であろうと想像されるばかりだ。
「別にいいのよ? 落ち込まないで? 楽しみがちょっと延びただけだもの。あぁ、楽しみだわぁ……愛しいあの娘の首を抱くときが……待ち遠しくて仕方がないのよ、ねえわかるでしょう、アオイ?」
女の正面にはアオイがいた。神妙な様子で、微動だにせず、人形のように座っている。
「だが、リストNo,44『セイジ』の現在の状況は調べてきた」
「へぇ? そっちはちゃんと出来たのね。おりこうさんよ」
女は机の上で、手袋をはめた指を組む。
「ぜひ聞きたいわぁ。ひとまず、まだ生きてるみたいだけど?」
アオイは、視線の先だけは変えずこくりとうなずいた。まるで女の一挙手一投足さえ見逃すまいというように。
「リストNo,44『セイジ』は、ユエ、あなたを探している」
「あたし? なんで? そんなに制裁を受けたいの?」
「自分がリストに載ったのは手違いだと思い、取り消すためにユエを探している」
「手違い? ふふ、面白いこと考えるわねぇ」
女は愉快そうに肩を揺らした。
が、突然笑いを止めると、低く低く呪うようにつぶやく。
「ほんとに手違いなら良かったのに……」
そして次の瞬間には、また元の調子に戻った。
「1人でいるわけじゃないんでしょ? セイジくんたらカメラにもなかなか映ってくれないんだもの……きっと館内に詳しい人間が一緒なんじゃない?」
「相方の人形アンティーク、さっき言ったあなたの娘のカナ、リストNo,6『サトル』が一緒にいる」
アオイは顔色1つ変えずに報告した。
対して、女は――
「はっ……あっははははははははは!! 見事に厄介な面子じゃないの! ふふ……これも運命? 運命なの?」
「ユエのことを聞くために、5つの間の5人に会おうとしている。見たとおり現在は巨人の間に入ったところだ」
「そう、面白いことになってきたじゃないの……!」
女が手招きをした。アオイは音も立てずに立ち上がり、机を回って女の前に片膝をつく。
女はアオイの頬に手を触れた。
「あたしにたてつこうだなんて男、なかなかいないもの。少し……念入りに遊んであげなくちゃいけないわねぇ」
「リストNo,44『セイジ』には制裁を下さないのか」
「聞かれてないことをしゃべらないで」
ぴしゃりとアオイを黙らせて、女はまたくすくすと笑いだす。
「まだ、その時じゃないの。まだね。……あたしの愛しのカナちゃんも、今は首をとるのは難しいわ。でもチャンスは来る。その時は必ずとってね?」
「……了解した」
「そう。いいコね」
銀色の髪をなでられ、アオイは目を細めた。ほんのわずかだけ表情ににじんだものは、“敬愛”と、“至福”の色。
たとえ、絶対者の関心が自分に向けられていないことを知っていようとも。
「セイジくんに制裁を下すのが先か、カナちゃんの首をとるのが先か……ほんと、楽しみだわぁ……」
「……」
「これからもヨロシクね、アオイ。ううん……あたしの『オモチャ』」
女はそっと、アオイの耳元に顔を寄せた。
「ねえ、使えないオモチャは“いらない”って……わかってるわよね……?」
「!」
「うふふ……あはははは……!」
アオイは身を強張らせた。その頭上で、仮面の女は声を上げて笑い続けた。




