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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第3章
14/117

計画 -2-


 最奥を目指し、足早に廊下を進む。

 すると向こうに、5本指をならべたような5つの扉が見えてきた。そのうち1番左の扉は、柵で封鎖され、警備員が目を光らせていた。

「あれだな、『巨人の間』」

「そうですね」

「待って……誰か出てきた」

 ちょうど通り越そうとしていた右手側のドアが、緩慢に開いた。セイジ達は立ち止まり、戦いに備えて身構えた。

 しかし、出てきたのは白髪のやせた男が1人だった。赤い顔をして足元がおぼつかない。ひどく酔っているようだ。

『だ、大丈夫かな』

「……急いでんだけどなぁ」

 あまりにふらついているので放っておけず、セイジは男の肩をたたいた。

「おいあんた。あんまいい飲み方してねーな」

「――……」

「ん、なんだ?」

 よく聞けば、男はひっきりなしに、ぶつぶつと同じことをつぶやいていた。

「ユエ様は……いつもおっしゃられていました……赤い少年は、今にも私を殺しそうな目をしており……白い少年は敬愛の目で私を見る……でもどちらも、絆からは逃げられやしない……時が続く限り永遠に……と――」

 その繰り返しだった。

 セイジはそら寒くなってサトルを見た。

「あのさサトル……このサーカス団て、こんなのばっかなのか?」

「さあ、どうでしょうか」

「頭のおかしい奴は多いけどね」

 カナが辛辣なことを言って鼻で笑った。

 セイジが思いきり顔をしかめた、その時だった。

「あなたは……セイジさんですね……?」

 つと、男がセイジを見上げた。セイジは思わず半歩引いた。

「そ、そうだけど……?」

「そうですか……あなたの代わりに……私がリストに載れば良かったのに……私が……」

 男はセイジから離れ、ふらふらと訓練場の方へ歩いていった。

 しばらく誰も、何も言わなかったが、ようやくセイジが明るい声を上げた。

「……サトル、あれだな! 『巨人の間』!」

「……そうですね」

「よし、ここまで何事もなくて良かった! じゃあ行くぞみんな!」

 ――つまり、今の出来事をなかったことにする宣言だった。何にせよ、ぐずぐずしている暇などないのだ。

 セイジは先に立ち、柵の前の警備員に声をかけた。

「『巨人の間』に行きたいんだ。この奥なんだろ? 通してくれ」

 警備員は驚いたような、次いで、咎めるような顔をした。

「行きたいなら通ってもいいが、命の保障はしないぞ……!」

『なんか大げさだなぁ』

「その割にはアッサリ通してくれるんだ」

 憮然とつぶやいたカナに、サトルが声だけで苦笑する。

「私達を入らせないように封鎖しているわけじゃないですから」

「中にいる奴を出さないようにしてるってことか。ちょっとドキドキしてきたぞ?」

 セイジは冗談半分だったが、警備員はぶるりと震えて、かなりいやそうに、柵の鍵を開いた。

「後悔しても知らないぞ。くれぐれも気をつけろよ……!」

 そしてセイジ達が柵の中に入ると、また大急ぎで鍵を閉めてしまった。

 さすがにいい気分はしなかった。しかしこの分なら、中まで団員が追ってくるようなこともないだろう。

 極力ポジティブに考えることにして、セイジは、目の前の扉を開いた。


 ――そこは、異常という他ない空間だった。


 中身をえぐり出されたベッドとソファ。横向きに転がっている蓄音機。

 ところどころ破壊された壁。

 そして、

  それらすべてに付着する、


    どす黒い――血の、痕。


「……イイご趣味だこと」

 セイジは笑いがこみ上げてくるのを抑えられなかった。

 笑いでもしなければ、ここで何があったのか、想像してしまう。

『うわ~……ある意味絶景だね』

「しかし、誰もいないみたいだぞ?」

「ここは入口で、間はこの奥なのでしょう」

 サトルの視線の先、奥の壁にぽっかりと不気味な穴が空いていた。ここから中の様子はまったくわからない。

「『巨人の間』を司るのは、ビッグという狂気に満ちた巨人です」

「1人目から危なそうな奴だな」

「はい。狂ったように暴れるので問題になっています。時にはなんの関係もない団員を殺してしまうほど……」

「なんだそれ。『5つの間』の5人もそんなのかよ」

「あんな奴、ただの変質者だ。どうってことない」

『で、でもちょっと怖いなぁ……』

 何やかやと言いつつ、皆が足を竦ませていた。それほどに“ここ”の空気は重くよどんでいる。

 まるで、一切の者が立ち入ることを拒むように。

 それでもセイジは、先んじて一歩踏み出した。自分から言い出したのだから、その責任をとらなくてはなるまい。

「とにかく会いに行ってみるか。まあ……なんとかなるんじゃないか」

 ――我ながら、自分を励ましているようにしか聞こえなかった。



         ++++++



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