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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第3章
13/117

計画 -1-



   みんなみんな あたしが愛してあげるから……



         ++++++


「……ってあんた。訓練場と逆の方に行くから、何かと思えば」

 サトルの部屋を出たセイジ達はサーカス館の正面入口に来ていた。襲ってきた団員2人を足下に転がし、大きな鉄扉の前に立つ。

「1回試しときたいんだよ。ここから館の外に出られるはずだよな」

『鍵はかかってないみたいだね』

 セイジは扉の閂に手をかけようとした。

 が、手が触れるやいなや、弾かれるようにうしろに下がった。

「え、何」

「……なんでだろう、出られる気がしない……!」

 体中の血の気が引く思いで、セイジは口元をおさえた。

「むしろ、『館の外に出たい』という気が起きない……」

『対象者が逃げないようにするまじないね。でも、そんなに強力だなんて……?』

「だめだ。ここにいたくない」

 耐えかねて逃げるように扉から離れ、壁に手をつく。肩で息をしているところへ、サトルとカナの気配が近づいてきた。

「大丈夫ですか」

「ちょっと。しっかりしてよね」

「悪い……少し休ませてくれ……」

『でも、あんまりのんびりしてられないよ』

 アンティークに言われるまでもなく、ばたばたと駆けてくる足音はセイジにも聞こえた。

「お、いたぞ! セイジだ!」

「殺せ!!」

 セイジはうんざりした気分で呻いた。

「なんかもう、飽きてきたな……」

『そんなこと言ってる場合じゃないよ! ……あ』

 カナが飛び出した。3本のクラブを巧みに操り、3人の団員を次々に殴り倒す。

 その身のこなしは舞踏のようで、うっかりすると見惚れそうな美しさだった。

「しっかし本当、身が軽いよなー、お前」

 セイジは楽々と勝利して戻ってきたカナを、素直に賞賛した。カナは――先刻のセイジの失言を、心配したほどは気にしていない様子で――クラブを腰帯に差し直す。

「あんたも……素人にしちゃそこそこなんじゃない、動きとか」

「私もそう思います。このサーカス団には入団したばかりと聞きましたが、その前は本当に、何の訓練もしていなかったのですか?」

「んー? ……俺がやってたのは、じいちゃんの鍛錬くらいかなあ」

 サトルに答えながら、セイジは何年も前に亡くなった祖父を思い起こした。

「俺のじいちゃん、けっこうな変わり者でさ。身体鍛えるのが趣味みたいな感じで、よく分からない鍛錬みたいのをいっつもやってて……俺も物心ついた頃からつき合ってたんだ。それが入団テストの時にけっこう役に立ったっけな」

「そうでしたか……」

「――ねえ、そろそろ移動しないの。きりがない」

 カナが廊下の向こうを見やって眉をひそめた。また人の気配がしているので、サトルの先導で今度こそ、『巨人の間』へ向かうことにした。

「『巨人の間』は右腕の棟の奥です」

「右腕?」

「マップはまだご覧になっていませんか? このサーカス館はちょうど人のような形をしているんです。ステージが頭に当たると考えていただいて……北側に向かっていくと『胴体』にあたる団員の訓練場、そこから枝分かれするように『右腕』『左腕』『右脚』『左脚』の棟があります」

『つまり、逆さまに寝ている人の形ね』

「そのとおりです」

 説明を受ける間に、4人は訓練場に出た。そこは中庭のようになっていて、何棟か建物が建ち、動物の檻などもあった。

 そんな光景を横目に見て、出入口のほど近く、『右腕の棟』へ入っていく。

 中は廊下が長く伸び、廊下の左右にいくつかの扉が見えた。そしてやはり、何人かの団員がうろついていた。

「とりあえずやりすごしましょうか」

 サトルの合図で、入ってすぐの小部屋へすべり込む。そこは狭いながらがらんとした空間で、古めかしいダイヤル式の電話があるばかりだった。

 しばし息をひそめて外の様子をうかがう。

 ――外ばかり気にかけて、誰も、“中”に注意を払わなかった。


 ジリリリリン……  ジリリリリン……


「!!」

「うえ!?」

『な、何』

「しっ、静かに!」

 部屋の電話が突然鳴りだし、セイジはびくりと身をすくませた。

 とっさに正しく行動したのはカナで、飛びつくように受話器を上げ、音を止めた。

「カナ……グッジョブ……!」

「うるさい」

 親指を立てたセイジに小声で毒づき――カナはふと、何かに気づいたように受話器を見た。

「どうした?」

「……」

 カナは一度受話耳に当てた受話器を、妙な顔をしてセイジに差しだす。

「あんたに替われって」

「え? 俺?」

「早く出て」

 セイジは半信半疑にそれを受け取った。

「もしもし……?」

【モシモシ、聞コエマスカ? セイジサン】

 なんともいえない奇怪な声に名を呼ばれ、セイジは若干寒気を覚えた。

「あぁ、お前は誰だ。どこからこの電話をかけている?」

【私ハHP管理人デス。HPヲ閲覧イタダイタヨウデ、アリガトウゴザイマス】

『さっき見てたホームページの管理人さん? それにしても変な声だね』

 セイジと一緒に聞いていたアンティークがささやき、カナが不快げに目を細める。

「機械音声だ。生の声じゃない」

「タイミングよくかけてきやがって。俺が今ここにいることを知ってたのか?」

【ハイ。イツデモ貴方ヲ見テイマスカラ】

『なんか気持ち悪い……』

 そうは言っても、相手が何者か分からない以上、素性を知られているこちらが不利だ。

 セイジはひとまず敵対色を抑えることにした。

「俺に何か用か」

【アナタニ頼ミタイコトガアリマス。……5ツノ呪ワレタ札ヲ壊シテクダサイ】

「……は?」

『5つの呪われたおふだ……? なんのことだろう……?』

 それはセイジこそが聞きたいことだった。

「おい、もう少し詳しく説明してくれ」

【札ハ、5ツノぱーつヲ繋ギトメルモノデス。『両腕』『両脚』『記憶』『胴体』『人格』ノ5ツヲ。……アレヲ壊セバ計画ハ失敗スルハズ。アナタノぴえろげーむモ終ワルカモシレマセン】

「計画が失敗すれば俺のピエロゲームが終わる……? どういうことだ。計画って何だ?5つのパーツってのは――」

 ぷつん。

 弾くような音がして、受話器の向こうは沈黙した。

「あ、おい!」

『……切れちゃった』

「なんかいろいろとわけのわからないこと言われたぞ?」

「……5つの札って……」

 セイジはカナに目を向けた。カナは何やら戸惑ったような表情でいる。

「カナ? 何か知ってるのか?」

「……ううん。別に」

「そうか?」

「それより今、外、平気そうじゃない。行こうよ」

「お、おい」

 先に外をうかがい見たサトルがうなずく。カナがもうさっさと出ていこうとするので、疑問を残しつつ、セイジも後に続いた。



         ++++++



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