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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第2章
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首の少女 -6-


「サトル、『5つの間』って知ってるか?」

 サトルは書き物の手を止め、セイジを見上げた。

「……はい。もちろんですよ。団員の中でも能力が飛び抜けて高い、5人の実力者がいるんです。彼ら5人はそれぞれ個人訓練場をこの館のどこかに持っています。その5つの訓練場のことを『5つの間』、と呼んでいます」

「個人訓練場ねぇ。団長がいないか、ちょっと5つとも見てくるか」

「……はい?」

 聞き返すサトルの声が、若干高かった。

「いや、このサーカス団のホームページに、団長がよく行ってるらしいとか書き込まれてたから……」

「それで……会いに行くつもりなのですか?」

「いろいろと、直接言ってやりたいことがあるからな」

 サトルは沈黙し、ややあって1つうなずいた。

「あなたがそれを望むのでしたら。しかし恐らく、『ちょっと見てくる』などでは済まされないと思いますが……」

『そんな危険な場所なの?』

「どうでしょうか。他の団員達は入りたがらないですが」

「……それを『危険』って言うんだ」

 早くもセイジの意気は減速を始めた。しかもそこに、サトルが追い打ちをかける。

「ただでさえ、ピエロゲームを無事に終わらせるのは簡単なことではないです。……あなたはリストNo,44に載っています。つまり今まで43名の対象者がいたわけですが」

「そんなにいたのか!」

「はい。ですが今まで制裁を受けずに生き延びた者は、1人もいません」

 さらりと流されたので、最初、言われたことを理解できなかった。

「は……はぁ!?」

「ですから簡単なことではないと言っているのです」

「いや、簡単なことでないというか、不可能だろそれ……!」

「どうしますか? タイムリミット――次の公演を、この部屋で待ちますか?」

『セイジ……』

 セイジは心配そうなアンティークを、何を考えているかわからないサトルを見る。

 最後に床を見つめて――

 ふっと、短く息を吐いた。

「そういうことなら……なおさらだ。早いとこ団長に会って、俺のリスト入りを取り消してもらう」

「……そうですか。それほどに固い決意を――」

『……セイジもしかして、単に悩むのが面倒になったりしてない……?』

「いっ」

 ぎくりと肩をすくめるセイジに、アンティークとサトルの視線が刺さった。

「いや、そんなことないぞ? ほら、カナだって、団長と会うならってことで一緒に来たんだし……」

「ちょっと。私を言い訳に使わないでほしいんだけど」

 いつの間にかカナもすぐ後ろにいて、セイジを睨み上げていた。

 完全に四面楚歌の様相だった。が、サトルがありがたくも助け船を出してくれた。

「理由はどうあれ……団長に会いに行くことを目的とするのでしたら。『5つの間』をまわるというのは1つの手ではあります。あそこにいる5人は、団長と直接関わりがあるはずですから」

「……私はなんでもかまわない。ユエ――団長に会えるんだったら」

 カナが言うと、アンティークもようやく視線をゆるめてくれた。

『あたしも反対してるわけじゃないよ。セイジが決めたんだったら』

「よし、じゃあいいんだな? これから5つの間の5人に、団長の居場所を聞きに行く!」

「5人がそれぞれ『巨人』『水槽』『猛獣』『玩具』『死者』を司っていますが」

「片っ端から行くぞ! まずは『巨人の間』だな」

「調子のいい奴」

 カナの皮肉は聞こえないふりで、ひとまず次の目的は定まった。

 調子に乗ったセイジは、その時ふと思い出したことを、深く考えずにカナに尋ねた。

「そういやカナ。さっきホームページのBBSに、お前の『炎のステージ』がどうとかって……」

「!」

 瞬時に、カナの表情がこわばった。しまったと思ったときにはもう遅い。

「あ……え――――と……」

 カナは焦るセイジに背を向けてしまう。

 ――傷つけてしまった。それだけは、セイジにもよく分かった。



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