首の少女 -6-
「サトル、『5つの間』って知ってるか?」
サトルは書き物の手を止め、セイジを見上げた。
「……はい。もちろんですよ。団員の中でも能力が飛び抜けて高い、5人の実力者がいるんです。彼ら5人はそれぞれ個人訓練場をこの館のどこかに持っています。その5つの訓練場のことを『5つの間』、と呼んでいます」
「個人訓練場ねぇ。団長がいないか、ちょっと5つとも見てくるか」
「……はい?」
聞き返すサトルの声が、若干高かった。
「いや、このサーカス団のホームページに、団長がよく行ってるらしいとか書き込まれてたから……」
「それで……会いに行くつもりなのですか?」
「いろいろと、直接言ってやりたいことがあるからな」
サトルは沈黙し、ややあって1つうなずいた。
「あなたがそれを望むのでしたら。しかし恐らく、『ちょっと見てくる』などでは済まされないと思いますが……」
『そんな危険な場所なの?』
「どうでしょうか。他の団員達は入りたがらないですが」
「……それを『危険』って言うんだ」
早くもセイジの意気は減速を始めた。しかもそこに、サトルが追い打ちをかける。
「ただでさえ、ピエロゲームを無事に終わらせるのは簡単なことではないです。……あなたはリストNo,44に載っています。つまり今まで43名の対象者がいたわけですが」
「そんなにいたのか!」
「はい。ですが今まで制裁を受けずに生き延びた者は、1人もいません」
さらりと流されたので、最初、言われたことを理解できなかった。
「は……はぁ!?」
「ですから簡単なことではないと言っているのです」
「いや、簡単なことでないというか、不可能だろそれ……!」
「どうしますか? タイムリミット――次の公演を、この部屋で待ちますか?」
『セイジ……』
セイジは心配そうなアンティークを、何を考えているかわからないサトルを見る。
最後に床を見つめて――
ふっと、短く息を吐いた。
「そういうことなら……なおさらだ。早いとこ団長に会って、俺のリスト入りを取り消してもらう」
「……そうですか。それほどに固い決意を――」
『……セイジもしかして、単に悩むのが面倒になったりしてない……?』
「いっ」
ぎくりと肩をすくめるセイジに、アンティークとサトルの視線が刺さった。
「いや、そんなことないぞ? ほら、カナだって、団長と会うならってことで一緒に来たんだし……」
「ちょっと。私を言い訳に使わないでほしいんだけど」
いつの間にかカナもすぐ後ろにいて、セイジを睨み上げていた。
完全に四面楚歌の様相だった。が、サトルがありがたくも助け船を出してくれた。
「理由はどうあれ……団長に会いに行くことを目的とするのでしたら。『5つの間』をまわるというのは1つの手ではあります。あそこにいる5人は、団長と直接関わりがあるはずですから」
「……私はなんでもかまわない。ユエ――団長に会えるんだったら」
カナが言うと、アンティークもようやく視線をゆるめてくれた。
『あたしも反対してるわけじゃないよ。セイジが決めたんだったら』
「よし、じゃあいいんだな? これから5つの間の5人に、団長の居場所を聞きに行く!」
「5人がそれぞれ『巨人』『水槽』『猛獣』『玩具』『死者』を司っていますが」
「片っ端から行くぞ! まずは『巨人の間』だな」
「調子のいい奴」
カナの皮肉は聞こえないふりで、ひとまず次の目的は定まった。
調子に乗ったセイジは、その時ふと思い出したことを、深く考えずにカナに尋ねた。
「そういやカナ。さっきホームページのBBSに、お前の『炎のステージ』がどうとかって……」
「!」
瞬時に、カナの表情がこわばった。しまったと思ったときにはもう遅い。
「あ……え――――と……」
カナは焦るセイジに背を向けてしまう。
――傷つけてしまった。それだけは、セイジにもよく分かった。




