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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第26章
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レクイエム -5-


「……お、わっ!?」

 ぐらりと大きく足下が揺れ、セイジは思わず声を上げた。

 続いてドンッと衝撃が走る。とっさにカナを抱いて姿勢を低くしたセイジは、それ以上何もないことが分かると、そっと顔を上げた。

 周囲は真っ白な空間に変化していた。そして目の前には、鉄色の扉があった。

「俺達……何もしてないよな? サトルとアンティークが何か見つけてくれたのかな」

「なら、2人が中にいるのかもね」

 多少の緊張感は保ちながら、セイジは扉に触れた。と、扉はひとりでに開き、ひとりでに、セイジとカナを招き入れた。気づいた時には、2人はもう部屋の中だった。

「――あ! お前ら……!?」

 先客が一斉にこちらを見た。

「あれ? 呼ぶ前に自分から来ちゃいましたヨ、この人」

「セイジ……! よくここまで無事で!」

「役者がそろったとはこのことね。これも運命だというのかしら……?」

 コウ、ビッグ、セイレーンが立て続けに言った。セイジは頬を引きつらせた。

「ご、5人揃うと、なかなかの迫力だな」

「あんた達、なんで……アオイも一緒なんて!」

 カナが警戒してメテオを構えた。しかし、アオイの代わりに進み出たのは、真っ青な顔をしたリアラだった。

「セイジさん……! サトちゃんは? どこ!?」

「へ? サトルなら、アンティークと一緒に西の通路から――」

 言いかけた、その時。

 突然襲い来た喪失感に、セイジはびくりと身体を震わせた。

「……え? ……アンティーク……?」

「どうかしたの」

「アンティークの気配が……消えた……」

 カナが何か答えるより早く。リアラが、悲鳴を上げた。

「サトちゃん……!!」

「な……なんだよ、何が起こって……!」


        ――『運命の間』西フロアで火災が発生しました

           全員、速やかに避難してください――


 ピエロゲームの時とは違う警報音がこだました。リアラが両手で顔を覆った。

「セイジ……西フロアって!」

「サトルとアンティークがいる場所じゃねーか!?」

 セイジは部屋を飛び出そうとした。が、その前に、リアラに手を掴まれた。

「待って! どこに行くの!?」

「決まってる、2人を助けに行くんだよ!!」

「無駄よ!! もう……間に合わない……!」

「まだ分からないだろ!?」

「分かるよ!! 私の身体は、サトちゃんにもらったんだもの!!」

 リアラの悲痛な叫びに、セイジの身体から力が抜けた。頭の中がぐらぐらと揺れているようだった。

 ビッグが、悼むように目を伏せた。

「『許可なく団長室へ立ち入れば、滅びの道を歩むことになる』。……誰かが犠牲にならなければここへはたどり着けない、という意味だったようだな……」

「……嘘……だろ……?」

 セイジも本当は感じていた。

 アンティークはもう、どこにもいない。


  ――セイジ……ありがとうございました

  ――セイジ、カナちゃんを守ってあげてね――


「……!! 最初から、こうなるって分かってたのか!?」

 だんっと壁をたたき、今はいない2人に怒鳴りつける。

「ふざけんなよ!! 俺はあいつらに、礼も何も言ってねぇぞ!? 2人がいなかったら、俺が……死んでたかもしれないのに……!!」

「気持ちは察するけれど、立ち止まっている暇はないわよ、セイジ」

 冷徹とも思える声が聞こえた。セイジはセイレーンに目を向けた。

 彼女だけでなく、リアラを含めて、5人全員の視線がセイジに注がれている。

「やることがあるからこそ、ここへ来たのよね? 早くしないとこちらにも火の手がまわってくるわ」

「それとも、ここは逃げマスカ? 参考までに言っときますケド、この団長室に“無傷”で入れるのは、僕らもこの1回だけデスヨ」

「我々もユエのことを相談するために来た。しかしまだ結論を出せずにいたところだ。こうなった以上……新しい団長が決定を下すなら、それに従おうと思う」

 ビッグの言を受けて、アオイが壁の垂れ幕を指さした。

「ユエはこの奥だ。『セイジ』、お前はここへ何をしに来た?」

 5人とカナに注視され、セイジはのろのろと、アオイに視線を移す。

「……俺達は……ユエの持ってる、アオイの札を壊しに……」

「その必要はない。――僕の札は、ユエ自身が壊した」

 え、とリアラが動揺の声を漏らした。アオイは驚いた様子のビッグ達をふり返り、寂しげに微笑した。

「もう僕は……いらないそうだ」

「『人格』が、戻ったってこと……?」

 つぶやいたカナに、アオイがうなずく。

「だから『首』も、もういらない」

「……!」

「決断を。お前はユエをどうするつもりだ、セイジ」

 セイジはアオイが示した赤い垂れ幕を見る。

 耳障りな警報が鳴り続ける中、心はだんだんと、暗い怒りに支配されていく。

「……『ユエ』……あいつの、せいで……!」

「――殺すの?」

 カナに強く手をつかまれ、セイジははっとした。

「ユエを殺して、2人の仇をとるの?」

「……」

「おじいちゃんとの約束があるんでしょ? それって、あの人形との約束でもあったんじゃないの? それを破ったら……後悔、しない?」

 カナの手は震えていた。これは、命を奪うということを知っている手だ。

 セイジにはそれをさせたくないと――伝わってくる。

「……カナ」

「え? ……あっ」

「ごめん。少しだけ……」

 セイジはカナを、ぎゅっと抱きしめた。カナは一瞬だけ硬直したが、ぎこちなく手を伸ばし、セイジの背をたたいた。

 その暖かさを確認する。

 別れ際にアンティークが守れと言った、大切なモノ――

「俺は……ユエの、『力』を奪う」

 セイジは顔を上げた。

 心臓を絞るような胸の痛みは消えない。――それでも。

「また何かしでかす前に、あいつを無力化してやる。あんた達にも手を貸してほしいんだ。……頼めるか?」

「……。安心したわ」

 ざあっと、セイレーンの周りで水柱がたった。しかし実際に水はなく、ただ、大気が薄青く染まった。

「ユエほどの力はないけど、この水の結界で延焼を遅らせることくらいはできる。……あなたが私心でユエを殺そうとしたら、私も考えるところだったわよ」

「私もだ。止めはしないが、手を貸すことはなかったかもしれないな」

 ビッグが他の4人を見渡し、目を合わせて確認した。

 セイレーン、リアラ、アオイはそれぞれにうなずいた。コウは1人、やや遠い目をしてため息をついた。

「ま、仕方ないデスネ……」

「決まりだな。――我ら5人は、正統なる『団長』の血に従う。力を貸そう、セイジ」

「……ねえ、そろそろ離してってば」

 カナがセイジを押し返し、つんと横を向いた。

「こんなことするの……今回だけだからね」

「……ああ」

 セイジはなんとか、笑うことができた。それから静かに深呼吸をする。

 これ以上、ぐずぐずしてはいられない。

「よし。――行こう」

 ぶあつい垂れ幕に手をかける。セイジはそれを、一気に引いた。



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