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・ PIERROT ・  作者: 高砂イサミ
第2章
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首の少女 -4-


 きちんと扉を閉めてから、3人は中を見渡した。

「思ったより広い部屋に出たぞ……」

「へぇ、こんな部屋があったとは知らなかった」

『――セイジ』

 アンティークの声が部屋の隅を示した。すると、極彩色の服の上で首が回った。

 セイジは思わず、それを指さした。

「あ! お前!」

「おや、まだ無事なようですね。感心しました」

「あんたサトル……?」

 セイジの恨み言よりも先に、カナが言った。するとサトルは長身を折り、ピエロらしく深々とお辞儀をした。

「これは驚いた。カナじゃないですか。まさかあなたが一緒にいるとは思いませんでした」

「団員なんて数え切れないくらいいるのに知ってるのか、カナのこと?」

「色々と有名な少女ですから」

「そっちこそ有名なんじゃないの? 『おいぼれピエロ』さん」

 なぜかむっとした顔でカナが反論し。

 なぜか、サトルはセイジとカナを、じっと見つめた。セイジはそれを睨み返した。団員に襲われているところを放置された恨みはまだ忘れていない。

 ――が。

「……セイジ」

「なんだよ?」

「この部屋は私の部屋です。恐らくこのサーカス館の中で一番安全な場所だと思います。ここなら休むこともできるので好きに使って下さい」

『わぁい♪よかったね、セイジ』

 初めて「味方だ」との宣言に沿う提案を受け、アンティークが単純に喜んだ。対して、セイジは眉をひそめた。

「……なんかお前、怪しくないか? 手違いとはいえ、仮にも俺は指名手配中の身みたいなモンだぞ」

『きっとこの人、いい人なんだよ』

「これが『いい人』って顔か?」

『セイジ……それは失礼だよ……』

「私も同意見だ。あんたがセイジに手を貸しても何の得もない」

 カナが腕組みをして、サトルを見据えた。

「何を企んでる?」

「……ただ、彼を助けたいだけですよ。もちろんそちらのお人形さんも、カナ、あなたもです」

 サトルの表情からは何も読めない。やりづらい相手だと思ったのだろう、カナの方からすぐに目をそらした。

「胡散臭い奴だ」

「それは恐縮」

『セイジ。どうするの?』

「……うーん……」

 現実問題と心情的な部分との板ばさみになり、セイジは言葉を濁す。

「確実に隠れられる場所があるってのは、確かに……ありがたいんだが……」

「……先ほどは試すような真似をして申し訳ありませんでした」

「あ?」

「この部屋から出るときは私もご一緒させてもらいます。このサーカス団やピエロゲームのことは、他の団員達より詳しいと思いますので、お役にたてるかと」

「……」

 動かない表情はともかく。声音は意外に誠実であることに気がついた。

 セイジは、「少しくらいは信用してやろうか」という気になった。

「……わかった。詳しい奴がいると心強い。とりあえずお前は味方だと信じていいんだな?」

「そう申したはずです。最後はあなたの判断に任せますけどね」

 わかってしまえば何ということもない。これまで表情に気を取られすぎていた。言葉だけで相手の心情を量るのは、アンティーク相手にいつもしていることだ。

 サトルはほっとした様子で1人1人に会釈をした。

「それではよろしくお願いします、セイジ、カナ。それと――」

「アンティークだ」

『よろしくね、サトルさん』

「……よろしくお願いします。アンティーク」

 人形からの突然の挨拶にも驚くことなく、サトルはアンティークに向かい頭を下げた。

「サトルもアンティークの声が聞こえるんだな? どうなってんだろうな、一体」

『もしかするとほかの人にも聞こえるのかもね』

「それだといろいろ楽かもな……」

 アンティークとのんびり話しているところで、不意に、セイジは腕をつかまれた。

「ちょっと、こっち」

 カナにぐいぐいと引っぱられ、部屋の端まで連れて行かれる。

 そして開口一番。

「あんたサトルを信じてんの?」

 「馬鹿じゃないの?」という副音声が、ばっちり聞こえてきた。

「え。まぁ怪しい奴ではあるけど、好意は受けておいたほうがいいだろ」

『最初にピエロゲームのルールも教えてくれたんだよ。悪い人じゃないよ』

 カナはため息をついた。

「あんた達、ほんと騙しやすそうだね」

「ぐ……」

「あんたさ――サトルの年齢はいくつだと思う?」

 唐突な質問だった。セイジは戸惑いながらサトルを見やった。

「メイクで分かり辛いけど……2、30代くらいじゃねーの?」

 カナは、はっきりと首を振った。

「あいつの中身はジジイだよ。60年も前からここにいるらしい」

「はぁ!? どう見てももっと若いだろ! 動きだって全然……」

「自分で肉体を改造してるんだ。老化しないようにね。そうまでしてこのサーカス団に残ってるんだ。……あいつもきっと、何か裏がある」

 くるりとセイジに背を向けて、カナはつぶやくように締めくくった。

「簡単に人を信じないほうがいい。私も含めて――ね」



         ++++++



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