悪役令嬢に賭けた男爵令息の顛末
ガキの頃、領地のおっさん達が賭けをしていた。
『なあ、明日雨が降るかどうか賭けないか?』
青空だった。
言い出しっぺが晴れに賭け。年寄りが雨に賭けた。賭け金は飲み代程度だった。
しかし、それからみるみるうちに空は曇りになり。雨になりそうになった。
『や、やっぱ、やめだ』
『ああ、分かった』
次の日、結局雨は降らなかった。
『やっぱ、賭けは有効だぜ!』
『お前さんな・・・』
言い出しっぺはゴネたが。そのうち、皆から信用をなくし農具を貸してもらえなくなったりと微妙な立場になった。
親父が言うのです。
『リヒター、忠義とはたいそうな言い方だが、実際はこれと同じだ。一度賭けた主に最後まで賭けてみよ。皆は信用するぞ』
『はい、父上』
・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は王都に行き運良くステラーゼ公爵家に仕官出来ました。
執事に抜擢され総領娘様付きになりました。
しかし。
『お嬢様、旦那様からの贈物でございます』
『どうして、お父様は私に直接渡して下さらないの?』
『お忙しいようでして・・』
『嘘よ!』
高価なお人形を投げつけられました。
私が抜擢されたのは気難しいお嬢様でなり手がいなかったからでした。
ええ、ドレスや宝石・・・物には不自由しておりませんでした。
しかし・・
『アハハハハ、デイジーは本当に可愛いな』
『お父様、またピクニックにつれて行って下さい』
『また、おねだりか、仕方ないな』
『フフフフ、あなた、時間を作って下さいませ』
後妻との間に生まれた子を溺愛する公爵代理をお嬢様は窓から眺めていました。
古びたヌイグルミをギュと抱いて・・それはそれは悔しそうに眺めておりました。
私は田舎の男爵家出身です。慰める言葉も思い付かなくて・・・
ただ、お嬢様の側にいるだけでした。
5年経ち、さすがにヌイグルミを持ち歩かなくなった時分。
お嬢様が学園に入学してから更に旦那様の義妹への溺愛が激しくなり。
デイジー様はお嬢様の婚約者とのお茶会も邪魔するようになりました。
『アハハハハ、デイジー嬢はまるで太陽のようだ』
『ゲル様が素晴らしいからですわ。・・・あっ、お義姉様が来たわ。私は失礼します』
『いいや、将来の義妹になるのだからそのままいてくれ。よいだろ?クラウディア?』
お嬢様は手にしていた扇を折り。そのまま背を向けて部屋に戻りました。
それからおかしなことになりました。
パーティーの準備などは全てお嬢様がおやりになり。
ホストはデイジー様がおやりになる。
しかし、お嬢様は文句言わずに招待状から使用人たちへの指示、外の業者との打ち合わせをしました。
『お嬢様、根を詰めすぎでは?適当でよろしいのではないですか?』
『黙りなさい。お母様のステラーゼ家の威信がかかっているのよ。例えホストが空っぽ女でもね』
高位貴族とはこんな考えをするのかと感心しました。
デイジー様の名声は立ち。お嬢様の立場はますます薄くなりました。
そして、遂に、王国を揺るがす婚約破棄事件が起きました。
『クラウディア、総領娘でありながら何もしないとは何事か?デイジーこそ将来の王妃に相応しい』
お嬢様は何も言わずにカーテシーをしてそのまま屋敷に戻りました。
ええ、私は王子から直接調略されましたよ。
『リヒターだったね。デイジーが虐められているとの証言をしてくれないか?』
『イジメ?とは・・・しかし、真実は述べられますよ』
『有難い。そのままを話してくれれば良い』
『しかし、お金が欲しいです』
ええ、殿下から金貨の小袋を渡されました。
遠慮なく受け取りました。
何故ならお嬢様は悪評が立ち。使用人は日常のお世話もしなくなり予算を削られていたからです。
『リヒター、デイジー様に付かないか?俺が話を通してやるよ』
『給金を上げてもらえるわよ』
『先輩方・・・今、食事を運んでいる所ですよ』
何故、お嬢様から離れなかったかは・・・・父上の教えが頭から離れなかったからです。
『お嬢様、お食事でございます』
『そ・・まだ、ホロホロ鳥が出るのね。おかしいわね』
『さあ、わたしめには難しいことは分かりません』
屋敷の離れに謹慎になりました。メイドが来ないから苦労しました。
『リヒター、着替えの手伝いをしなさい』
『・・・それは勘弁願います』
『いいから、帯を締めるだけでいいから・・』
『ドレスを着たらお伺いします』
『ちょっと、待ちなさい!』
湯浴みは私では絶対に無理です。
なので女冒険者を雇いました。
『えっ、貴族の湯浴みや着替えの手伝いするだけで一日銀貨1枚?』
『そうです。お願いします。もう、何日も湯浴みをしていない状態でして・・・』
『1人で入ればいいじゃない?』
『お嬢様に落ちぶれたとは思わせたくないのです。最低メイドはつけないと・・』
『まあ、商売だからいいわ』
ええ、これで大丈夫かと思ったら・・・離れから女冒険者を罵倒する声が聞こえました。
『フン!』
お嬢様はますます機嫌が悪くなりました。
『ちょっと、あのお嬢様、あんたに恋をしているよ』
『冗談を・・・』
『父親か恋人と思っているみたいよ。ずっとあのお嬢様の近くにいた唯一の男性だったのでしょう?父親や婚約者に向ける愛情をぶつける対象になったのかもね。でも自分ではその感情が分からない』
『それは歪んでいますね』
『一度、話し合いなさい。わたしゃ、金をもらえばお伺いするけど』
『罵倒キツくないですか?』
『ぜ~んぜん。森で魔物に襲われるよりも怖くないわ。むしろ子猫が威嚇しているようで可愛かったわ』
冒険者ってそういうものなのか?
遂に裁判の日が来ました。
王宮です。陛下と王妃殿下もおりました。
『うむ・・・クラウディア嬢が本当に貴族令嬢として相応しくない不行跡があったか審査をするものとする』
『残念だわ。前のステラーゼ女公爵とは親友だったのに・・・グスン』
ええ、内容は使用人に対するイジメ、デイジー様に対するイジメ。
やれ、罵倒した。デイジー様を無視したなど・・・証言が続きました。
『父上、まだ証人がおります。クラウディアの一番の側近、リヒター・ゼムが改心して内情を話します。この証言は恩赦を条件に今までの悪行を話すとのことです』
ええ、私は裁判に登場しました。
お嬢様は目を見開き。卒倒しました。
『クラウディア嬢?大丈夫?』
『ええ・・・』
女騎士に肩を貸されて何とか立っている状態でした。
『証言します。確かにお嬢様はデイジー様を虐待しました』
傍聴人たちがどよめきました。
『デイジー様がホストをしたというパーティーは全てお嬢様がおやりになりました。
デイジー様は頭が空っぽです。
謂わば、デイジー様を無能のままにしたのです。これを虐待と言わずに何と言いましょうか?」
どよめきが更に大きくなりました。
『業者との打ち合わせの書類、見積もり。全てお嬢様の名前です。業者も書類で証言を書いてくれました。呼ばれたら出廷するとのことです』
『ヒドい、使用人達は罵倒されていたのよ!こちらには証人がおりますわ』
デイジー様が味方の使用人の証言を持ち出しました。
『はい、ゲーリー殿がお嬢様から叱られたのは、招待状を間違って送ろうとしたからです。事前にお嬢様の確認で判明しました』
『メイド長が叱られたのはメイドが調度品を持ち出したから責任者として管理が出来ていないから叱ったのです』
『また、御者が叱られたのは馬車の中でタバコを吸っていたからです』
等々、知っていることを話した。
『いわば、公爵夫人がやることをお嬢様がやっていたから摩擦が起きたのです。お嬢様は少なくても10歳の頃からおやりになっていました』
『まあ、10歳、公爵夫人役が不在だからと再婚の申請があったのに・・リヒター殿、その前は?』
王妃殿下から下問されました。
『それ以前は分かりません。私が公爵家に仕官したのはお嬢様が10歳の頃だったからです』
『これ、ザイム、記録を言いなさい』
『はい、記録官の職務に誓って事実を述べます。女公爵、フランソワーズ様がお亡くなりになられてから家政が混乱・・・故に男爵家出身の公爵夫人が迎えられました。
だが、混乱は収らずに貴族院から勧告・・・しかし、一年後に混乱が治まり。
記録ではクラウディア様が5歳の頃に混乱は収束したとあります』
『まあ、5歳から・・・ザイムよ。その前の記録を探り書類の筆跡鑑定をしなさい。クラウディアがやっていたのだわ』
『畏まりました』
更に証言を続けました。
『現公爵代行夫人がただ笑ってお茶を飲めたのもお嬢様のおかげです。謂わば母娘そろって無能でいられるように虐待をしたのです』
そして、遂に殿下が。
『リヒター、騙したな!金を渡したのに!』
自らの墓穴を掘った。ここで陛下は裁断を下された。
『ゴホン、リヒターの証言を採用する。証拠を精査して判決を出す・・』
『グスン、ゲオハルト残念だわ。我が子にキツい処分を下さなくてはいけないとは・・』
『父上!母上!』
『判決が出るまでゲオハルトとデイジー嬢は王宮で謹慎、公爵代行とその夫人は貴族牢に留まれ』
『そ、そんな!馬鹿な』
『あなた!デイジーが王妃になれるのではなかったの?』
更に王妃殿下がお嬢様を保護すると配慮された。
『そうね。使用人も怪しいわ。クラウディアを王宮で保護します』
『御意』
公爵代行は放心し。王子とデイジー様は近衛騎達に連行される結末になった。
フウ、私は・・・お嬢様に私の処遇について提案されました。
『陛下、リヒターは証人です。ほ、保護を願いますわ』
『うむ。もちろんだ。客人として迎えよう』
私も助かった。
お嬢様は肩まで下ろした金髪を珍しく触っていた。
貴族令嬢は人前で髪を触らない。
動揺しているようだ。
青い瞳に俺の顔が映るのが分かるくらい接近されてやっぱり罵倒された。
やや、力が弱い。
今になってみたら子猫が威嚇している表現がピッタリだ。私もお嬢様を見ていなかったのかもしれない。
『リヒターの馬鹿』
『まあ、それは否定出来ないです』
だが、私は・・・
『お嬢様、ヌイグルミを取って参ります』
『いいわ。あんなヌイグルミ・・・危険よ』
『母上から贈られたものでしょう?手縫いです。私でも分かります』
『リヒター・・・』
私は屋敷に戻った。
そしたら、使用人達に捕まって今の状態にある。
☆☆☆
「・・・という理由で、貴方たちはデイジー様に賭けたのです。負けたからクラウディアお嬢様に乗り返る相談は受け付けられません」
「頼む。リヒター、俺には家族がいるのだ!」
「公爵代行から賞与たっぷりもらったのでしょう?」
「リヒター、私はデイジーから脅されて仕方なくお嬢様のお世話をやめたのよ。証言して!」
「その首にかけている首飾りはデイジー様からもらったのでしょう?」
「と、とにかく、王国軍が来る。俺たちは・・・おしまいだ。紹介状のない使用人は路頭に迷う・・・今更冒険者にもなれない」
そんな理由で、私は剣を突きつけられて人質になった。
「要求はどうする?」
「処罰はデイジー様だけ。使用人は無関係だ」
「そうよ。紹介状を書いてもらう・・・いや、お金も欲しいわ」
「いや、このまま屋敷で働きたい・・・」
そうか、こいつら、前の女公爵が亡くなってから雇われた夫人の人脈だったか・・
話がまとまらない。
だから、私は・・・
「いいから、私を出せ。上手くまとめてやる」
と提案をした。
「・・・裏切ったら殺すぞ」
「ああ、いいよ」
私はそのまま門の所に出されて王国軍と対峙した。
「さあ、リヒター、まとめてみせよ。でないと剣で後ろから突き刺すからな」
「はい、先輩、分かりました」
門は鉄格子みたいなものだ。顔は見える。王国軍は近衛騎士団か・・・
官吏もいる。これは領地管理人か?
私は門の前に出た。
近衛騎士団長か?壮年の指揮官が出てきた。
「当職はマッケインです。近衛騎士団長を拝命しております・・・開けて頂かないと門を壊し突入になりますね」
後ろには剣を突きつけた先輩がいる。
だから言ってやった。
「俺はお嬢様なんて大嫌いだぜ!今更お嬢様の世話になろうとは思わない!こいつらと一緒に戦うと決意したぜ!」
「お・・・お前、何を言っている?」
とヌイグルミを投げた。
「お前にはこんなヌイグルミがお似合いだぜ!と伝えておけ。ア~ハハハハハハ!ほら、かかって来いよ。使用人一同、戦うぜ!」
「リヒター!裏切ったな!」
日に二度、裏切ったと言われた私の魂は汚れているのだろうな。
意識が遠いた。背中を刺されたのだろう。
「突入!抵抗する者は殺せ!」
鬨の声が聞こえる・・・それを最期に意識が遠のいた。
・・・・・・・・・・・・・
「ヒール!・・・三度目です・・まだかけますか?」
「グスン、何度でもかけて!」
「背骨をやられたらいくら回復術でも難しいです・・・」
何か声が聞こえてきた。
顔に水の感覚がある。ポタポタ落ちて顔にかかってくる。
頭の後ろには柔らかい感触があった。
気がついたらお嬢様に膝枕されている状態だ。
お嬢様は顔をグチャグチャにして泣いている。お嬢様の涙が俺にかかっていたのか・・
ヌイグルミは地面の置いたままだった。
「リヒター?!生きていたの?」
「ここは・・・まだ、現場、お嬢様もこられていたのですか?」
「報せを聞いて無理を言って来たのよ」
どうやら奇跡的に背骨には到達していなかったみたいだ。
お嬢様が泣くのを見るのは始めてだ。
感慨に浸っていたら、やっぱり罵倒された。
「リヒターの馬鹿!貴族はね。屋敷やドレス、宝石よりも使用人を大事にしなさいって、お母様の教えよ!こんなヌイグルミで命を落すかもしれなかったのよ!」
これは女冒険者の言った通り話合いをしなければいけない。
これからのお嬢様との関係を・・・
その後、王宮で王妃殿下よりその後のことを報せてくれた。
「クラウディア、貴女が次のステラーゼの女公爵になります」
「有難うございます」
「しばらくは領地管理人に任せなさい。使用人もフランソワーズの時の使用人を呼び戻す処置をしております。それと・・婚約者ですが、第二王子も婚約者がおりますの。王族や高位貴族に貴女に相応しい殿方は皆婚約者がおりますわ」
「はい、存じております」
「優秀な低位貴族から婿を取ることが一番良いかと思いますわ」
「はい・・・でも、王妃殿下・・・」
「お母様と思っていいのよ・・・そうだわ。リヒター殿、戦功と認められたわ。そのうち爵位の話が来るでしょう。領地無しの子爵ですわ。名誉子爵、王宮役人の称号みたいなものよ。・・高位貴族の婿になっても不思議ではないわ」
な、何だ。私の話が出てきた。今はお嬢様の後ろに従者として立っている。
チラと王妃殿下は私の顔を見た。
陪臣に王妃殿下が話しかけるなんて異例だ。
「リヒター殿、領地経営のアカデミーに2年行きなさい。今のままでは不十分よ。手はずは整えましたわ」
「はい、仰る通りですが・・・領地無しですよね」
「どこかの優秀だけど、寂しがり屋で分かりにくいご令嬢の所に婿にいけるわよ」
「それは向こうが選ぶことです・・はい」
お嬢様は顔を伏せたままだった。
お嬢様の人生に私を紛れ込ませていいのか。私に賭けることをお薦めしていいか分からない。さっぱり自信がない。
アカデミーに行く前に話し合おうと思う。
最後までお読み頂き有難うございました。




