第8話 次なる調査へ
「では、話は以上です」
学生会室で、学生会長が静かにそう告げた。
「あなたたちには――『違法集団』に関する情報を調査してもらいたいと思います」
学生会室は、本来一般の学生が立ち入ることのできない場所だ。
だが緊急事態が発生した場合に限り、学生会には特定の人物を招き入れる権限が与えられている。
事の発端は、決闘が終わって数日後のことだった。
学生会長――ヴィルタ・ソフィアは学生会の面々を引き連れ、医療棟へと乗り込み、病床で療養中だったグレイン・バルシュを問い詰めた。
理由は明確だった。
決闘の最中、バルシュは見覚えのない指輪を二つ使用していた。
そしてその指輪こそ、学生会が以前から追っていた存在――
「違法道具」そのものだったからだ。
しかし、バルシュから得られた情報は多くなかった。
彼は「商人から便利な道具として受け取った」と語るのみで、
それを製造した人物や、背後にいる組織については何も知らなかった。
その結果、学生会室には少々いびつな顔ぶれが集まることになった。
三年生にして学生会長――ヴィルタ・ソフィア。
入学時から抜擢されたと噂される副会長――リセラ・レラ。
情報管理部所属――アルヴィン・シュト。
そして学生会外の人間が三人。
パキシル・ドナグ、ミルレ・リン、そして――俺だ。
なぜ俺がここにいるのか。
それは、我らが学生会情報管理部のせいである。
「事情を知っている」という理由だけで、
シュト先輩に半ば強引に引きずり込まれた。
……何度も言うが、俺は表に出るつもりはなかった。
なお、リンはドナグの希望で同行することになったらしい。
「では、レラ」
学生会長が指示を出す。
「あなたはドナグたちと組んで、情報調査を進めてください」
「シュト、あなたは“推薦した人物”と行動を共にしなさい」
「両班で同時に調査、ということですか、会長?」
シュト先輩が確認する。
当然の疑問だろう。
相手の存在が判明しているにもかかわらず、
再び情報収集から始めることになるのだから。
……どうやら俺が“推薦された人物”らしい。
「ええ」
ヴィルタ・ソフィアは二組の面々を見渡した。
「現時点で私たちは“違法集団”について、ほとんど何も知らない」
「この状況で正面衝突する意味はありません」
「だからこそ、あなたたちには情報を集めてもらうのです」
「了解しました」
そうして役割分担が終わり、
学生会室は次第に人が減っていった。
最後に残ったのは、学生会長ただ一人。
彼女は椅子に腰掛けたまま、
薄く微笑みを浮かべる。
「……見せてもらいましょう。あなたたち一年生の力を」
*
「え、えっと……」
少女が小さく息を吸う。
「わ、私は学生会副会長の、リセラ・レラです。よろしくお願いします」
「おう!」
ドナグが明るく手を挙げた。
「一年三組のパキシル・ドナグだ! 敵が出たら任せてくれ!」
「同じクラスの、ミルレ・リン」
レラは他にも挨拶を続けるつもりだったらしいが、
気づいた時には――
ヴィナ・シュンとアルヴィン・シュトの姿は、すでに消えていた。
「それで……違法集団について、何か情報はありますかです?」
「わ、私は……黒幕が誰か、くらいしか……」
「つまり、最初から調査し直し、ってことか……」
三人で考え込むが、
すぐに有効な手段は思い浮かばない。
「……市場から調べる、というのはどうでしょう?」
リンが提案した。
「市場?」
「西側市場のことですか? 魔法道具が一番集まる」
「うん」
西側市場。
魔法使いたちを主な客層とする、大規模な専門市場だ。
学院周辺にも店は多いが、需要が集中した結果、
自然とあの場所が形成された。
「じゃあ、まずはそこから行こう!」
和やかな空気の三人組は、
学院内を歩く学生たちの視線を集めた。
「ねえ、見て……」
「あの三人じゃない?」
決闘で名を上げたドナグ。
氷のような美貌で知られるリン。
そして可憐な副会長。
――誰が見ても、“主役の集まり”に見えるだろう。
*
学生会室を出た後、
俺とシュト先輩は医療棟へ向かった。
「……まだ出ていないですよね?」
俺が尋ねる。
「問題ない」
シュト先輩は頷いた。
「離校記録を確認したが、まだ名前はなかった」
医療棟の奥、
最も端にある病室。
今日は、あの商人の退院日だった。
「ま、また来たのか……」
商人は青ざめた顔で身を引く。
「もう全部話しただろ……」
昏睡魔法が、よほど効いたらしい。
「安心しろ……いや、少しだけ聞きたいことがある」
シュト先輩が柔らかく続ける。
「今回は何もしない」
「違法道具が主に流通している場所を教えてくれれば、それでいい」
商人の身体から、ようやく力が抜けた。
「正確な場所は分からないが……」
「西側市場の売れ行きが良い、とは聞いた」
「やはり、そこか……」
混雑と取引量。
違法道具を紛れ込ませるには、最適な場所だ。
「あと……」
商人は声を落とす。
「規則を破った者は、“処理された”とも……」
……予想通りだ。
「これから、どうするつもりだ?」
俺は問いかけた。
「大丈夫だ」
彼は無理に笑った。
「もう、身を引く覚悟は決めている」
どう見ても、強がりだったが。
「世話になったな……」
窓の外を見ながら、彼は呟く。
「学生だったら、楽しかっただろうな……」
名刺を差し出される。
「取引で困ったら、連絡してくれ」
「アルヴィン・シュトだ」
「ヴィナ・シュン」
深く一礼し、
商人は病室を後にした。
残されたのは、俺たちと――
一枚の名刺。
ライカローン・エドガー




