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第7話 勝敗の向こう側

闘技場を離れたあとも、観客席の熱気はしばらく背中にまとわりついていた。

勝敗は決した。

だが、あの決闘が意味していたものは、まだ何ひとつ終わっていない。


通路の先、人の流れから少し外れた場所に、見慣れた姿があった。


「よう、シュト先輩。」


声をかけると、彼はゆっくりとこちらを振り返った。

試合を見終えた人間の顔ではなかった。


「……俺が聞きたいくらいだ。」


シュトは目を細める。


「お前、何をした?」


学生会・情報管理組。

バルシュが決闘を仕掛けた理由。

戦闘中に指輪を取り出した意味。

そして――なぜ、それが発動しなかったのか。


「答えが欲しいなら。」


俺は踵を返し、別の方向へ歩き出す。


「ついて来てください。」


シュトは一瞬だけ考え、何も言わずに後を追ってきた。


ドゥルート学園・医療棟。


学園内でも最高水準の治療設備を備え、常駐する医療スタッフも一流――

少なくとも、パンフレットにはそう書かれている。


決闘で負傷者が出た影響で、建物の外には多くの学生や教師が集まっていた。

ドナグは軽傷だったため、すでに取り囲まれている。

一方のバルシュは重傷扱いで、応急処置の後に奥へ運ばれたらしい。


だが、俺たちの目的地は別だ。


人目を避けるように廊下の奥へ進み、最も端の療養室の前で立ち止まる。

中には、一つだけ使われているベッドがあった。


横たわっているのは、中年の男。

顔色は悪く、意識を失っていた名残がまだ抜け切っていない。


俺たちが近づいた、その瞬間。


「……う、ここは……?」


男が目を開いた。

次の瞬間、こちらを見て身体を強張らせる。


「だ、誰だ……お前たちは……!」


「シュン、この人は?」


シュトが低く尋ねる。


「昨日、学園の外で倒れていた商人です。」


俺は淡々と答えた。


「それと――学生会が追っていた、違法魔導具の流通に関わっている人物。」


男の瞳が、はっきりと揺れた。


「ち、違う……! 俺は何も……!」


反射的な否定。


俺はポケットから、小型の魔導装飾品を取り出し、男の視界に入る位置へ置いた。


「じゃあ、これは何です?」


一瞬で理解したのだろう。

男の呼吸が乱れ、指先が震え始めた。


「そ、それは……」


「安心してください。」


俺は微笑む。


「黒幕の名前を話してくれれば、ここから出してあげます。

 ……もちろん、もう少しここで眠っていたいなら、それでも構いませんけど。」


「昏睡中に、身体がどうなるかまでは保証できませんが。」


逃げ場はない。

男自身も、それを悟ったようだった。


「……あれは……違法魔導具です……」


やはり。


「最初は……誰かに勧められただけなんです。」


男は震える声で続ける。


「一度くらいなら大丈夫だと思って……使ったら、魔力が倍になって……

 詠唱しなくても、魔法が出せるようになった……」


「気持ちよかったでしょう。」


俺が言うと、男は力なく笑った。


「……はい。使った後、変に高揚するんです。

 また使いたくなる……でも、値段が高すぎて……」


「だから、売り始めた。」


シュトが冷たく言い切る。


男は黙って頷いた。


「身体に異変は?」


俺が問う。


「最初は……何も……」


その言葉を聞いた瞬間、シュトの表情が完全に変わった。


「……知っているのか。」


声が低く、鋭くなる。


「それを使い続けるとどうなるか。」


「魔力回路が崩壊する。

 最悪の場合、一生魔法が使えなくなる……いや、それどころか――」


「他人に使えば、終身障害を負わせる可能性すらある!」


シュトの声が、療養室に響いた。


男はベッドの上で小さく縮こまる。

だが、その怯えは俺たちに向けられたものではなかった。


「わ、分かってる……!」


男は泣きそうな声で叫ぶ。


「でも、やめられなかった……!

 売るのをやめたら……あいつらが……!」


「あいつら?」


俺は目を細める。


男は喉を鳴らし、恐怖を飲み込むようにして言った。


「違法魔導具って名前も……あいつらがいるから、そう呼ばれてる……」


部屋に、短い沈黙が落ちる。


そして、男はかすれる声で、その名を吐き出した。


「……違法集団です。」


――ようやく、姿を現した。


俺は立ち上がり、扉へ向かう。


――この決闘の本当の意味は、

最初から闘技場にはなかったのだ。

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