表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

第5話 決闘の前夜

夜の帳が、まだ完全には降りていなかった。

生徒たちは次々と学園から外へと流れ出ていく。


校門を駆け抜ける者。

友人と肩を並べて歩く者。

大勢で笑い合いながら去っていく者。


――これが、彼らにとっての「放課後」なのだろう。


ドルト市の通りにはすでに魔導灯が灯っていた。

柔らかな光が石畳を照らし、

学園の中にある過剰な秩序と、外の世界とをはっきりと分けている。


俺は人の流れに紛れながら、わざと歩調を落とした。


市街地の陰には、一般人には気づけない魔力が漂っている。

流れは雑多で、統一感がない。


人から。

道具から。

建物に残った術式から。


だが、その中に――

どうにも不快な波が混じっていた。


急ぎすぎている。

荒い。

まるで無理やり押し込まれたような魔力。


昼間、空き教室で感じたものと同じだ。


俺は、すぐには追わなかった。

その異常な魔力は、ひとつの地点に留まっていない。

途切れ途切れに、複数の方向から漂ってくる。


「……やっぱり、自然なものじゃないな」


修練中の魔法使いなら、魔力には呼吸のようなリズムがある。

魔法陣であれば、安定した循環を描く。


だが、これは違う。

使用された後に残る――

いや、残骸というより「混合物」に近い。


違法道具の副産物だ。


確証がないうちは、動かない。


ドルト市は、想像以上に賑やかだった。


通りの両側には店が並び、

その中でも特に目立つのは、魔法関連の店舗だ。


俺は、そのうちの一軒の前で足を止めた。


歪んだ形の箒が描かれた看板。

その横にはこう書かれている。


――《飛行補助器具・合法改良品》


扉を押すと、鈴の音が軽く響いた。


店内は広くはないが、商品で埋め尽くされている。

新学期のせいか、学生の姿も多い。


壁際には飛行箒が並び、

ガラスケースには法杖。

魔導書は細かく分類され、

「詠唱簡略入門」などという本まで置かれていた。


「……普通だな」


だからこそ、安心する。


手に取った魔導書の魔法陣は、どれも保守的だ。

線は長く、安全余裕も大きい。

乱用しても、魔力切れで終わる程度だろう。


――あまりにも、正規品。


別の本を開く。

内容は召喚術の基礎。


「召喚系、か」


今日の授業で、ミリアン先生が呼び出した猫も、これに該当する。

正しい手順さえ踏めば、一般的な動物は問題なく召喚できる。


もっと危険な存在については……まあ、別の話だ。


俺は召喚師になる気はない。


本を棚に戻そうとした時、

隣のカウンターから、ひそひそとした声が聞こえてきた。


「……最近、学園の近くで便利な物を売ってるらしいぞ」


「外から来た商人じゃない?」


「さあな。店の物じゃないのは確かだ。今夜、学園の外で出るらしい」


「やめとけよ。学生会が取り締まってるって話だ。捕まったら退学だぞ」


「……それは無理だな。せっかく入学できたのに」


俺は振り返らず、本を閉じた。


今夜。

学園外。

非公式な販売。

便利な物。


――十分だ。


店を出た俺は、

他の店舗を冷やかすふりをしながら、異常な魔力を辿っていった。


市の端に近づくにつれ、人の姿は減っていく。


日が完全に沈んだ頃、

俺は一本の路地の前で立ち止まった。


そこにいたのは、フードを被った男。

簡素な台の上には、飾り気のない装飾品が並んでいる。


指輪。

ペンダント。

小型の魔導核。


魔力は、そこから漏れていた。


結界なし。

防護術式もなし。


――中継役だな。


俺は歩み寄った。


「すみません。これ、どういう物ですか?」


男は一瞬驚いた顔をし、すぐに笑みを作った。


「お、兄ちゃん見る目あるね。

 普通の店じゃ手に入らない代物だよ、身につけるだけで、魔法がぐっと楽になる」


饒舌な説明が続く。


「自分の魔法、物足りないって思ったことないか?

少し金を出すだけで、一気に注目されるぞ?」


……もういい。


一歩踏み出した瞬間、指先で最小構成の魔法陣を完成させる。

攻撃ではない。干渉だ。


魔力の流れを、ほんの僅か歪める。


男が異変に気づく前に、

装飾品の魔力は一斉にバランスを失った。


「な――」


言葉は最後まで出なかった。

男はその場に崩れ落ちる。


「悪いな、仕事中に寝かせることになって

……でも、地雷を踏んだ」


注目を集める?

冗談じゃない。


俺は台の前にしゃがみ込み、違法道具を見下ろす。


雑な設計。

使用者の耐性なんて、考慮されていない。

効果だけを追い求めた作り。


「やっぱり、な」


強化ではない。

余計な誘導線を、外すだけ。


近道を失った魔力は、殻に戻る。


最後の核が沈黙した時、

路地に漂っていた混濁した魔力は、完全に消えた。


俺は立ち上がり、手を払う。


今夜の作業は、これで終わりだ。


違法道具は、ひとつ減った。

――そして、明日がどうなるか。


それを確かめる準備は、もうできている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ