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第3話 Fランクは、見下される

鐘の音が鳴り終わると、教室の空気が目に見えて緩んだ。


自己紹介が終わったということは、

最初の「相互評価」がひとまず完了した、という意味でもある。


すでに取り入る相手を見つけた者。

さっきの自己紹介で声が小さすぎたことを後悔している者。

そして――俺のように、綺麗にスルーされた者。


理想的なスタートだ。


「では、次に――最初の実技授業に入ります」


ミリアン先生が軽く手を叩く。


「第一回、実技授業開始です」


杖が振るわれた瞬間、

灰白色の子猫が教壇の上に現れた。


大きく伸びをし、尻尾をひと振り。


――召喚系。


しかも一時的な生成物じゃない。

長時間維持型だ。


「ルールは簡単です」

「一時間以内に、この猫を見つけなさい」


その言葉と同時に、子猫は軽やかに跳び下り、教室の外へと駆け出した。


一瞬遅れて、教室がざわつく。


「逃げたぞ!」

「早く追え!」


半数近い生徒が一斉に飛び出していった。

椅子が床を擦る音が重なる。


俺は、動かない。


椅子に深く腰掛けたまま、静かに魔力感知を展開した。


――やっぱり。


魔力の残滓が、校舎全体にばら撒かれている。

分かりやすい痕跡を追えば、確実に誤った方向へ誘導される。


この授業の本質は、最初から「速さ」じゃない。


必要なのは――判断力だ。


「え? 行かないの?」


前の席の男子が振り返ってくる。


俺が答えるより早く、ミリアン先生が口を開いた。


「一つ注意です」

「教室に残った場合、順位は放棄したものと見なします」


……なるほど。


その一言で、教室に残っていた生徒たちが一斉に立ち上がった。


俺も。

ドナグも。

凜も。


言葉を交わすことはないまま、自然と廊下へ向かう。


――答えが分かっていても、動かないわけにはいかない。


この学院は、傍観者を許さない。


廊下に出ると、一年生たちは四方へ散っていった。


全力で走る者。

仲間と行動する者。

小声で作戦を立てる者。


俺は、あえて歩調を落とす。


「瞬、もっと急がなくていいのか?」


背後から声が飛んできた。


「後でいい」


適当に返し、そのまま進む。


途中、わざと遠回りしながら魔力の流れを確認する。


やはり、猫は教室棟から出ていない。


それも――

一番目立っていて、一番見落とされやすい場所。


時間が過ぎていく。


焦りが見え始めた頃、どこかで猫の鳴き声が響いた。


「見つけたぞ!」


中庭の方角からの声。


俺は向かわない。


結果は、もう出ている。


猫は最初から、教室の外壁に取り付けられた街灯の上にいた。


鳴き声や草むらの物音は、すべて攪乱用だ。


やがて、再び鐘が鳴る。


全員が教室へ戻された。


教壇に立つミリアン先生の表情は読めない。


「では、結果を発表します」


杖を振ると、空中に名前が浮かび上がった。


「一位は、四名」


順に表示される。


――パキシンル・ドナグ

――ミルレ・凜

――ライカロオン・ヴィメ

――カテス・レイクレイ


教室に小さなどよめきが走る。


特に、ドナグの名前に視線が集まった。


「……Fランクで一位?」

「やっぱりおかしくないか?」


囁きが広がる。


ドナグは何も言わず、背筋を伸ばしたまま。

凜は、わずかに眉をひそめた。


「その他の順位は、発見順です」


先生は全体を見渡す。


「重要なのは順位ではありません」

「この授業で、何を見抜けたかです」


一拍置いて。


「魔力量ではない」

「冷静さです」


教室が静まり返る。


そのとき――

わざとらしい足音が、廊下から近づいてきた。


三人の姿が、扉の前に現れる。


オレンジのネクタイ。

肩には一本線。


――二年生、B+。


先頭の男が、にやりと笑った。


「おー? 一年の授業、面白そうじゃん」


先生が鋭く視線を向ける。


「今は授業中です!」


「はいはい」


適当に手を振りながら、男は先生を無視して視線を一点に固定する。


「なあ」

「パキシンル・ドナグって、お前か?」


空気が一気に張り詰める。


ドナグが顔を上げた。


「そうだ」


「いいねぇ」


男は楽しそうに笑った。


「俺はグレイン・バルシュ」

「二年だ」


誰かが息を呑む。


――決闘狂。


「放課後、闘技場」

「決闘しようぜ」


前置きも説明もない。


当然のことのように告げる。


「理由は?」


ドナグが尋ねる。


「ねぇよ」

「興味を持った、それだけだ」


……最低だ。


「受ける」


即答だった。


凜が思わず袖を掴む。


「ドナグ君……」


「大丈夫」


彼は微笑んだ。


「いずれ来ることだ」


グレインは満足そうに頷く。


「話が早い」

「決まりだな」


「待ちなさい」


ミリアン先生の低い声が、場を制した。


「決闘には正式な申請が必要です」

「それと――賭け」


グレインが歯を見せて笑う。


「負けた方が、跪いて謝罪」

「勝った方は――」


一拍。


「自分を証明する」


……要するに、目立ちたいだけか。


先生は数秒、沈黙した。


「……私が立ち会います」


それは、許可と同義だった。


グレインは満足げに踵を返し、笑い声を残して去っていく。


教室には、重苦しい空気が残った。


そして俺は、最後列、窓際の席で。


何も言わず、何も動かず。


ただ、その名前を記憶に刻んだ。


――グレイン・バルシュ。


最初の授業は終わった。


だが、本当の面倒事は――ここからだ。

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