第2話 目立たないという選択
ドゥルート魔法学院は、想像以上に広かった。
正門をくぐった瞬間から、
空気そのものが違う。
至るところに刻まれた魔法陣、
自動で動く街灯、
魔力を帯びた石畳。
――なるほど。
これが「名門」と呼ばれる理由か。
入学初日ということもあり、校内は人で溢れていた。
新しい制服に身を包んだ生徒たちは、それぞれの級別を示すネクタイを誇らしげに揺らしながら歩いている。
赤、橙、黄色、そして金色。
視線は自然と、上位ランクへ集まる。
……よし。
誰も、空色のネクタイなんて見ていない。
私は人混みの端を歩きながら、掲示板を探した。
「一年生クラス分け」
巨大な掲示板の前には、生徒が群がっている。
私は背伸びもせず、押し合いもせず、
少し離れた位置から魔力で視界を補助した。
――三組。
名前を確認し、静かに頷く。
教室は一階の奥。
日当たりは悪いが、窓際。
しかも後方。
……最高だ。
教室に入ると、すでに何人かの生徒が座っていた。
自然と、空気が二つに分かれているのが分かる。
一つは、上位ランクを中心とした輪。
もう一つは、様子見を決め込んだ沈黙。
私は迷わず後者を選び、
自分の席へと向かった。
座った瞬間、背後の窓から風が入る。
静かで、誰とも目が合わない。
完璧だ。
「……ねえ、あれ」
小さな声が聞こえた。
「魔力測定で機械壊した人、同じクラスらしいよ」
……やっぱりか。
視線の先。
銀白色の短髪の少女と、
異色瞳の少年。
二人とも、目立つ。
できれば、関わりたくない。
鐘が鳴り、教室の扉が開いた。
「おはようございます。
本日から一年三組の担任を務めます、
ナデラ・ミリアンです」
女性教師はそう名乗り、
軽く杖を振る。
黒板に浮かび上がる名前。
――ナデラ・ミリアン。
……強い。
直感がそう告げていた。
「まずは簡単な自己紹介から始めましょう」
最悪の展開だ。
順番に名前と級別を名乗っていく中、
私はできる限り存在感を消す。
――来るな、来るな。
「では、後ろの席の方」
来た。
「……ヴィナ・シュンです。
よろしくお願いします」
沈黙。
……成功だ。
特に質問もなく、
拍手もなく、
視線も流れる。
これでいい。
私は配角でいい。
少なくとも、
この学院にいる間は。




