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第1話 平凡に、学院へ

俺は孤児だ。


物心つく前、

まだ乳を飲んでいた頃に、

孤児院の裏手にある草むらに捨てられていたらしい。


そんな俺を拾ったのが、

旅の途中だった一人の賢者——

ヴィナ・シャール。


今では、俺の父親だ。


それから俺は、

「ヴィナ・シュン」という名前で、

父と共に山奥の小屋で暮らすことになった。


まだ幼く、

言葉の意味すらよく分かっていなかった俺は、

父に半ば騙される形で、

ある“場所”へと連れていかれた。


——三百年。


そう、三百年だ。


思い出したくもない時間。


父は自身の魔法で、

何も存在しない空白の世界を作り出した。


その世界では、三十年が、

現実世界の一日に相当する。


つまり俺は、

十日間にわたって訓練を受けたことになる。


訓練が終わった後に訪れたのは、

静かで、単純で、

世界とほとんど接点のない日常だった。


——十五歳になる、その日までは。


「シュン。今日からお前は学生だ」


「俺、学院には行かないって言ったよな?」


「だから、もう手続きは済ませておいた」


父は、悪びれもせず笑っていた。


こうして俺は今、

ドゥルート魔法学院の校門前に立っている。


世界でも屈指の名門魔法学院。

ここに立てる者は、

才能に恵まれているか、

あるいは身分が高いかのどちらかだ。


そんな場所で、

俺が望むことはただ一つ。


——目立たないこと。


その願いを叶えるため、

父は出発前に五つの指輪を渡してきた。


「魔力を抑える指輪だ」


「普通は一つで足りるが、お前には五つ必要だ」


……理由は聞かない。


指輪をはめた瞬間、

体内で騒いでいた魔力が、

嘘のように静まり返った。


これでいい。

これで十分だ。


入学試験は単純だった。


魔力測定器に手を置き、

魔力を流すだけ。


俺の前に立った、

銀髪の少女が測定を終える。


「魔力測定完了。ランク、C++」


少女は、思わず笑みをこぼした。

入学は確定だ。


続いて、

異色の瞳を持つ男が前に出た。


次の瞬間——


バキリ、と音がした。


測定器が砕け散る。


「……魔力測定完了。ランク、表示不能」


ざわめきが広がる。

職員が慌てて新しい測定器を用意した。


結果は同じだった。


二台目も、

三台目も、

すべて壊れた。


「……」


俺は、そっと視線を逸らした。


目立ちすぎだ。


そして、俺の番。


測定器に手を置き、

抑え込んだ魔力を、慎重に流す。


「魔力測定完了。ランク、D」


……よし。


低すぎず、高すぎない。

理想的な下位ランク。


そう思った、その時——


「魔力測定完了。ランク、S」


再び、どよめきが起こる。


先ほどの銀髪の少女が、

最高ランクを叩き出したのだ。


視線、驚き、ざわめき。


すべての注目が、

彼女へと集まっていく。


そして俺は——

完全に、埋もれた。


よし。


誰にも気づかれていない。


少なくとも、

この時の俺は、そう思っていた。

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