第12話 静かな改変
「ここは……本当に妙な場所だな。」
牢から出たあと、俺は工場内を適当に歩き回っていた。
部屋には様々な道具が積み上げられ、机の上にはびっしりと設計図と演算草稿が広げられている。
「やっぱり、違法道具の製造拠点か。」
何枚かの図面を手に取る。
その中には、学院の封印資料庫で見たことのある構造もあった——再現禁止に指定されていた設計だ。
観察を続けていた、その時——
鋼鉄が砕ける音が、広い工場内に響き渡る。
巨大な影が上空から落下し、コンクリートの床に放射状の亀裂を刻んだ。
「……なんだ、あれは。」
それは恐竜型の機械体だった。
金属骨格の上に重厚な装甲。
背部には黒いエネルギー導管のような脈絡が並び、眼窩の奥で紅い光が灯っている。
尾の鋸刃が床を引きずり、耳障りな金属音を響かせた。
次の瞬間——
口を開く。
詠唱はない。
喉奥に高熱エネルギーが収束する。
そして、爆発的に噴出。
炎の奔流が空間を飲み込んだ。
「くっ……!」
咄嗟に防御を展開。
大半は防いだが、熱波に押され半歩後退する。
機械体が咆哮する。
「グッゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
上空に巨大な茶色の魔法陣が展開された。
次の瞬間。
空気を裂く轟音。
落ちてくるのはただの岩塊ではない。
——隕石。
圧縮調整された小型仕様。屋内用の出力だ。
「これで十分だ。」
隕石が接触する前に、表面が急速に凍結する。
俺は手を上げた。
光束が核心を貫く。
隕石は空中で砕け散った。
だが、機械体は止まらない。
再び口を開く。
高熱が再収束。
「またかよ。」
炎が再び空間を埋め尽くす。
だが、今度は正面から受けない。
崩れた鉄骨の上に立ち、炎を掠めさせるだけに留める。
服の裾が焦げる。
それでも動かない。
「なるほど……そういう作動原理か。」
恐竜機械体が低く唸り、突進。
地面が揺れる。
巨大な金属爪が振り下ろされる。
触れる寸前——
空気が断ち切られた。
見えない斬撃が走る。
「暗影風切。」
右前肢が綺麗に切断される。
金属片が崩れ落ちる。
機体が横転し、核心が露出。
俺は手を掲げる。
黒い槍を形成。
貫通。
内部から爆裂。
残骸が散乱する。
工場に静寂が戻る。
「やはり……違法道具か。」
魔力流の配列が、既知の違法コアと酷似している。
「見事だ。」
声が響いた。
視線を上げる。
二階の足場に、眼鏡の男が寄りかかっている。
「失礼。自己紹介を——デスモンド・ダムラだ。」
軽やかに飛び降りる。
「さっきの機体は、出力を二十パーセント上げておいた。」
眼鏡を押し上げる。
「理論上は、中級術者の限界を引き出せるはずだった。」
俺は答えない。
ただ見据える。
ダムラは微笑む。
「なるほど……ならば、直接確かめよう。」
試す?
彼が手を上げる。
黒い結晶が数枚、指先で回転する。
空気が重くなる。
足元が沈み、コンクリートが歪む。
「重力場?」
見たことのない構造だ。
「改良型だよ。」
愉悦を含んだ声。
「従来型は効率が悪い。」
圧力が落ちる。
身体が一瞬沈む。
だが次の瞬間、前へ踏み出す。
重力場がわずかに歪む。
——無理に破ったわけじゃない。
受力方向を調整した。
ダムラの瞳がわずかに揺れる。
「面白い。」
別の結晶が起動。
空間が屈折する。
俺の動きに残像。
「空間位相干渉。零点三秒の遅延だ。」
「攻撃ではない。ただの干渉さ。」
「へぇ……面白いな。」
「理解できているかの確認でもある。」
次の瞬間——
残像が崩れる。
本体は既に目の前。
距離は半歩。
ダムラは動じない。
「やはり……」
「それが、お前の改造違法道具か?」
俺は指先で黒い結晶に触れる。
ほんの一瞬。
偶然のように。
次の瞬間——
ダムラが後退。
三枚の結晶が同時に防壁を展開。
火球、岩弾、氷弾。
同時射出。
俺は跳躍して回避。
距離が開く。
沈黙。
圧力が消える。
ダムラが結晶を確認する。
正常。
出力安定。
異常なし。
「今日はここまでにしよう。」
「なぜ?」
「もっと良い玩具を用意してある。」
穏やかな声。
背を向ける。
「せいぜい楽しんでくれ。」
足音が遠ざかる。
静寂。
数秒後——
人型金属機体が現れる。
「これが、玩具か……」
その時。
遠くで。
一枚の黒結晶。
内部の魔力回路が、わずかに偏移していた。
だが——
ダムラは気づいていない。




