第11話 違法道具改造体
「ここか……」
ドナグは目の前の廃倉庫を見上げた。
半開きの鉄扉が、風にあおられて軋んだ音を立てている。
「はぁ……《刻印追跡》……確かにここを示している……」
シュトは壁に手をつき、荒い息を吐く。警報器の表面には白い魔法陣の残滓が明滅していた。
「見てください——入口に、人が立っています」
「人?」
ドナグは目を細める。
——いや、人ではない。
夕陽を反射する冷たい金属光沢。
皮膚も呼吸もなく、全身を覆う鋼鉄の外殻と、胸部に埋め込まれた黒いコア。
それは“人型”の何かだった。
「……ロボット、か?」
その瞬間——
『警告。未承認接近者を検知』
両眼が赤く発光する。
『戦闘モード起動。目標——排除』
空気が一気に張り詰めた。
「どうやら敵認定されたみたいだな……」
言い終わるより早く、
ロボットの右手に茶色の魔法陣が展開される。
詠唱なし。
圧縮された岩塊が数発、弾丸のように射出された。
「無詠唱魔法!? そんな……!」
「任せて」
リンが一歩前に出る。
淡い蒼の魔法陣が掌前に浮かび上がった。
「——凝止せよ、《氷結》」
飛来する岩塊が空中で瞬時に凍りつく。
パキン——!
氷塊となって地面へ落下し、砕け散った。
「た、助かった……リン」
「油断しないで!」
ドナグが空気の流れの変化に気づく。
「横へ退け!」
彼はリゼラを強引に押しのけた。
次の瞬間、
小型の竜巻が地面を這うように襲いかかる。
地面が抉れ、砂礫が跳ね上がった。
「いつの間に……!」
体勢を立て直す間もなく、
ロボットの両掌に赤い魔法陣。
火球が連続で放たれる。
まるで豪雨のような弾幕。
「くっ……私だって守る!」
リゼラが歯を食いしばり、両手に深青の魔法陣を展開。
「《集え、流動する刃——ウォーターブレード》!」
高圧の水刃が火球を斬り裂く。
水と火が衝突し——
轟音。
小規模な爆発が連鎖する。
大量の白煙が瞬時に発生し、入口一帯を覆い尽くした。
視界ゼロ。
ドナグの目が鋭く細まる。
「今だ——《貫け、紅蓮槍!》」
霧の中で紅い閃光が弾ける。
ドナグが突進する。
その手には炎で形成された長槍。
「援護する!——《万物を縛れ、重力増幅域!》」
シュトが同時に術式を展開。
ロボットの動きが鈍る。
足元の重力が急激に増した。
ドナグが喉元へ突き立てる——
だが。
金属がぶつかる硬質な音。
手応えがない。
紅蓮槍はロボットに片手で受け止められた。
「なっ……」
瞬時に冷気が槍身を走る。
炎の槍が凍結していく。
ドナグは即座に槍を放し、後方へ跳躍した。
「どういうことだ……!」
シュトが冷静に状況を整理する。
「攻撃は通っていない……それに無詠唱で魔法を発動している。だが、場地を制御する術式は有効のようだ」
リゼラが震える声で言う。
「先輩……あのコアの気配、私たちが押収した“違法道具”と似ています……」
空気が凍りつく。
「まさか——」
シュトの瞳が見開かれる。
「機体そのものが、違法道具による改造体……!?」
一同が息を呑む。
ドナグは胸部コアを凝視したまま、静かに言う。
「さっき刺した瞬間、感触が違った。無効じゃない——硬すぎるんだ」
そして顔を上げる。
「破壊できる。俺の指示に従ってくれ」
短い作戦説明。
三人が頷く。
再び火と水が衝突し、濃霧が発生。
「《気温低下、水分支配——凍結領域》」
リンの魔法陣が地面へ展開。
瞬時に床が鏡面の氷へと変わる。
ロボットが跳躍しようとした瞬間、
シュトの重力増幅が叩き込まれる。
バランスを崩す。
胸部コアが露出する。
「これで終わりだ——《貫け、紅蓮槍!》」
紅光が閃く。
炎と氷の極端な温度差が炸裂。
胸部装甲に亀裂が走った。
「効いた!」
——だが。
ロボットが直立する。
両眼が激しく赤く発光。
『警告。より高危険度の存在を検知。優先排除対象を変更』
ドナグたちを完全に無視し、
ロボットは工場内部へと疾走した。
「より危険な存在……?」
リゼラの顔色が変わる。
「シュン!」
「急ぐぞ!」
四人は工場内へ駆け込んだ。
――――――――
その頃。
監視モニターの前。
眼鏡の男が小さく笑う。
「ふふ……悪くない連携だ」
レンズを押し上げる。
「では……内部実験を次段階へ移行しよう」
画面が切り替わる。
破壊されたもう一体のロボット。
その前に立つのは——
ヴィナ・シュン。
彼は静かに残骸を見下ろしていた。
まるで戦闘などではない。
——ただの“確認作業”であったかのように。




