第9話 西の市場の暗躍者
西側の市場は、学院周辺の店とは明らかに雰囲気が違っていた。
すでに学生向けではなく、価格帯は全体的に高めだが、その分、取り扱っている商品の種類は圧倒的に多い。
「ここが西側市場か……思ってた以上に人が多いな」
「ドゥルート市最大の魔導具市場ですからね」
シュト先輩は周囲を見回しながら、落ち着いた口調で言った。
「客層が違う分、価格設定も自由です。学院近くより安い魔導具も、意外とありますよ」
「なるほど」
俺は適当な露店の魔導具を手に取り、魔力の流れを確認する。
見た目はかなり癖があるが、魔力構造自体は正常。
用途は分からないが――今は重要じゃない。
「ところで、これって何ですか?」
そう言って、手に持っていた道具をシュト先輩に見せる。
「それは警報系の魔導具だな。普通は子供向け――」
「じゃあ二つください」
「話聞いてる!?」
俺は警報用の魔導具を二つ購入し、
一つは自分の懐へ、もう一つはそのままシュト先輩に押し付けた。
「なんで俺に渡すんだ! 俺は子供じゃないぞ!」
そんなやり取りをしていると、背後から声がかかった。
「え? シュト先輩?」
「おお、レイラ。君たちもここを調査してたのか」
パッチシンイル・ドナグを中心とした別班のメンバーが、ちょうど市場に合流してきた。
「よくここに目を付けましたね」
シュト先輩が感心したように言う。
「私の提案です」
ミルレイ・凛が淡々と答えた。
……正直、少し意外だった。
一番静かそうに見えた彼女が、こういう判断をするとは。
「それで、何か手がかりはありましたか?」
シュト先輩が尋ねる。
「今のところ、ありません」
リセラ・レイラは少し不安そうに首を振った。
「市場に出ているのは、どれも正規の魔導具ばかりで、違法品らしきものは見当たりません」
「最初から、西側市場じゃなかった可能性もあるんじゃ……?」
その懸念ももっともだ。
俺たちが持っている情報はすべてここに集中しているが、
そもそも偽情報だった可能性も否定できない。
ただ――どうにも引っかかる。
「もう少し探してみましょう」
シュト先輩はレイラの肩に軽く手を置いた。
「今の段階で自分たちの判断を疑いすぎると、後で学生会に何かあった時、逆に自分を追い詰めますよ」
「は、はい! ありがとうございます!」
さすがは上級生、場の空気を落ち着かせるのが上手い。
「じゃあ、各自で調査を続行。一時間後、ここで進捗を報告」
その指示に従い、メンバーはそれぞれ散っていった。
「そっちはどうだ?」
シュト先輩が小声で聞いてくる。
「今のところは……特に」
俺は市場の奥、照明が少なく人通りもまばらな一角へ視線を向けた。
魔力の流れ自体は正常。
――だからこそ、不自然だった。
「……あっち、見に行きます」
俺は市場の端を指差す。
「そこも違法品は無さそうだけどな」
「ええ。でも、少し気になります。
シュト先輩はここで調査を続けてください」
「分かった」
彼はそれ以上何も言わず、再び商品へと視線を戻した。
そして俺は、そのまま暗い路地へと足を踏み入れる。
――数歩進んだところで、足を止めた。
「もういい。隠れてないで出てきな」
闇の中から、黒いローブをまとった三人が、ゆっくりと姿を現す。
「自分から来るとは思わなかったな」
「これ以上、探るのはやめろ」
「深入りすれば、面倒なことになるぞ」
三人が口々に忠告する。
だが、俺にはただの無意味な雑音にしか聞こえなかった。
「それで終わりか?」
短い一言と、露骨な軽蔑の視線。
空気が一気に張り詰めた。
「ガキが……俺たちを怒らせたらどうなるか、教えてやる」
「望むところだ」
三人同時に魔法陣を展開する。
「流動せし風よ、渦となれ――《旋風》!」
「燃え上がれ、意思の火――《火球》!」
「大地よ、その形を剥ぎ取れ――《岩落弾》!」
三方向から魔法が放たれ、衝突と同時に濃い煙が立ち込めた。
「フン……俺たちに逆らうには早すぎたな」
「……ずいぶん自信満々だな」
煙が晴れる。
俺は、元の位置に立ったままだった。
「……なに?」
「攻撃は終わりか?」
俺は顔を上げる。
「じゃあ、次は俺の番だ」
次の瞬間、俺は一人の顔面を掴み、壁へ叩きつけていた。
同時に、旋風と岩落弾を逆方向へ放ち、残りの二人を吹き飛ばす。
「それ……さっきの……!」
「無詠唱……だと……!?」
「お前……何者だ……」
拘束された男が、震える声で問いかけてくる。
「まだ喋れる余裕があるんだな」
俺は薄く笑った。
「じゃあ、《火花爆裂》を叩き込んだらどうなると思う?」
男の表情が歪み、次の瞬間、嗤った。
「……ククク。本当に、それができるか?」
「どういう意味だ?」
彼はローブの内側から、一枚の写真を取り出した。
「こいつの命、どうでもいいのか?」
写真に写っていたのは、牢獄のような場所に閉じ込められた一人の男。
その服装も、体格も――
見間違えるはずがなかった。
今日、学院を出たばかりの商人。
――ライカロエン・エドガー。
長らく更新できず、申し訳ありません。
最近、運転免許の試験準備であまり執筆の時間が取れませんでした。
試験が終わり次第、またしっかり更新していきますので、どうかご容赦ください。




