#09「下道でも復讐がしたい!」前編
俺のやるべき事は一つ、このストーカー男を風花さんに近づけさせないようにすること。
剣を片手に昇と嫉酷は睨み合っていた。
「お前の行く手は俺が阻む!」
「やってみろ!雑魚ぉ!束縛魔法!」
嫉酷の詠唱とともに昇の周りに一本の縄が出現、しかし昇は軽々とジャンプで避ける。
「これを狙ってたんだよ、束縛魔法!」
嫉酷の唱えにより昇の着地先へと縄を出現させる。が
「とりゃあ!」
ブサッ!
直後、着地先にあった縄に昇は手元の剣を投げて破壊する。
破壊された剣は地面へと刺さる。
「適応完了!」
キメ顔とともに綺麗に着地する昇、地面に刺さった剣を引っこ抜き嫉酷の元へと向かう。
「喰らえ!!」
剣を一振り、しかし昇の斬撃は嫉酷に簡単に避けられてしまう。
「陰影魔法!!」
嫉酷は影へと隠れる。 昇の油断してる隙を狙い背後から影を渡って移動した嫉酷は一発、蹴りを喰らわせる。
「ぐは!」
よろめきだす昇。
「クッソ!まともに蹴りを食らっちまった」
「だから言ったろ?勝てねぇって」
「まだ負けてねぇ!」
再び襲いかかる昇。
「召喚魔法!」
今度は嫉酷が召喚魔法で弓矢を出現させる。
ヒュン!と矢を放つ嫉酷。
「は!?弓!?やべ、回避が遅れっ…」
矢から咄嗟に守るために剣を突き出し、矢が剣に食い込み折れる。
「危ねー、後ちょっとでぶっ刺さってた、この剣も折れたが使える」
チッ、と舌打ちをする嫉酷。
「次こそ当てる」 「やってみろよ」
「陰影魔法!」
再び影に隠れる嫉酷。
「そこだな!二度は効かねぇよ!」
自身の背中側を剣で斬る昇。
「残念!今度はこっちでした!」
少し距離を取った位置から矢を飛ばす嫉酷。
グサッ!昇の肩に一本の矢が刺さる。
「ッ!?」
昇は突如、フラフラした後に倒れ込む。
「これは!?」
「猛毒魔法だよ、どう?気持ちい?」
「気持ちぃわけねぇだろ!!」
歯を食いしばりながら話す昇。
「大丈夫たよ、毒っつっても人間相手だとせいぜい気絶する程度だから死にはしないよ。」
「お前の陰影魔法ってなんなんだよ…反則だろ…」
「当たり前じゃん!だってこの魔法、俺しか使えないもん!」
嫉酷が先程から使っていた陰影魔法は専用魔法で嫉酷しか使えないのだ。
「ま!最初からお前が勝てる相手じゃなかったわけ!」
嫉酷は昇の前に立ち、不敵な笑みを浮かべながら…
「おやすみ、雑魚くん!」
昇が眠りにつくのを楽しそうに見守っていた。
俺はまた、風花さんを守れないのか…
己の非力さを噛み締める昇。
ここで終わり?この程度の毒で気絶するぐらいなら最初から風花さんを守るなんて不可能だ。
「うぉーーーー」
「しぶといなーさっさと眠れよ」
「まだだ、まだ終わりじゃねぇ!」
立ち上がろうとする昇を踏んづける嫉酷。
「んー、なんかこいつなかなか気絶しないから飽きちゃった、そんな事より風花たん、待っててね」
まずい、このままじゃ風花さんが…
「じゃ、またね〜雑魚雑魚くん」
スタスタと歩き始める嫉酷。
昇は拳を土に当て、立ち上がる。
「おいおい、こんな毒で気絶?舐めてんじゃねーよ」
「ッ!?いつの間に解毒を!?」
「反撃開始だ!」
宣言をした昇は自信に刺さってた毒の矢を抜き、嫉酷の方へと投げる。
矢は見事に嫉酷の足へとクリーンヒットし悶え始める。
「いーでぇー、ちくしょうこの野郎…陰影魔法」
「させるか!ッ!」
影に隠れようとする嫉酷に手元の剣を投げつけるも惜しくも届かず、嫉酷は影に消え、剣はまっさらな地へと刺さった。
「逃がしちまった…一刻も早く、風花さんたちの所へ向かわなきゃ!」
学校から支給されたスマホを手に取り、防人へと電話を入れる。
「もしもし!ごめん!ストーカー男に逃げられた!」
「え!?ストーカーと戦ってたの!?」
驚く防人を気にせずに昇は言葉を続ける。
「途中まで戦ってたんだけどさ致命傷追ったからって逃げやがったんだ、多分ストーカーはそっちに向かってる、食い止めといて!じゃあ!」
プー、プー
嵐のように電話を切った昇はすぐさま嫉酷の向かった方へと走り出す。直後
ドーン!
「危ね、今度はなんだ?」
後ろを振り向くとそこには今朝虐めてきた二人の男たちがいた。
「急いでんだ!邪魔すんな!」
「うるさい!妨害しろって嫉酷さんから言われてるんだよ!!」
「あっそーかよ!っ!」
昇は手元にあった折れてる剣を後ろの2人に投げつけた。
「うわぁぁぁ」
剣は見事に外れたが2人はガクブルして動けなくいた。
一刻も早く、アイツの場所に行かなきゃ!
ーーーーーーーーーー
昇から連絡を貰ってから防人は風花たちと帰りつつ後ろをちょくちょく警戒するように何も振り向いていた。
「どしたの?防人くん?なんかいる?」
「いや、さっき昇くんから連絡が…伏せて!!!」
突如どこからか猛毒魔法が飛んできて咄嗟に3人はしゃがみこむ。
「猛毒魔法!?まさか!防御魔法!」
「邪魔だぁ!おらっ!」
遠くから放たれた矢を防御魔法による盾で塞ぐ。
「これが噂の…」
目の前に立っていたのは昇がさっき取り逃した嫉酷だった。
「風花たんだけ渡せ!そしたらお前らに害は与えない!」
「これが…ストーカーさん?」
汗を垂らし始める風花に水月は慌てたように喋り出す。
「この人、昔…私たちのこと…虐めてた奴…どうして…」
「いいから大人しく風花たんを渡せ!渡してくれたら傷つけねぇっつってんだろ!」
焦りの混じった嫉酷の声に震える風花と水月。
「…げて…」
防人の言葉を上手く聞き取れず呆然とする風花。
「逃げて!!!」
「でもそれじゃ、防人くんが!」
「僕は大丈夫っすから!」
無理やり作った笑顔でこちらを振り向く防人。
「ありがと!!」
風花は水月の手を引っ張り颯爽と寮の方へ逃げていった。
「なんだよ…また逃げられちまったじゃねーか、つか渡さなかったんだから分かってるよな?」
「わ、分かってるよ!僕だって変わるんだ!」
嫉酷の言葉に顔から汗を垂らせつつも言い返す防人。
「陰キャごときが図に乗るな!!束縛魔法!」
「防御魔法!」
嫉酷の出現させた縄を自身の出現させた盾で囮にし躱す。
この前は不意打ちだったから負けたけど、次こそは負けない!
「召喚魔法!」
継いで防人は剣を召喚すると嫉酷の元へと襲いかかる。
昇くんが勇気をくれた、本当は自分も虐めを受けてて辛いはずなのに、耐えてるはずなのに、犯人を探してあげるって俺が守ってやるって勇気振り絞って言っていた…だから今度は僕が!
「うぉぉぉぉぉ」
スパッ!
防人の遅い斬撃は軽々と避けられ、反撃を喰らう。
「グハッ」
顔面をおもいきりパンチされよろめく防人、それに構わず嫉酷は追撃を浴びせる。
「お前の!せいで!風花たん!逃げちまった!じゃねーか!」
5、6発喰らわせるとフラフラする防人を手で摘みポイと投げつける。
ごめん…昇くん…風花さん…守れない…かも…
「さ、一刻も早く風花たんの所へと向かわねば!じゃ、またなクソザコ陰キャくん!」
暴言を吐き捨て去っていく嫉酷、その背後に一つの黒い影が忍び寄る。
「おらっ!」
何者かに後頭部を殴られた嫉酷は一瞬よろめきつつもなんとか体勢を建て直した。
「ってーな!誰だよ!」
「逃げんなよ、ストーカー」
「なんでお前が…あいつらに妨害を頼んだのに…」
直後、嫉酷が少し苦笑いをし始める。
「だってあいつら弱えもん、相手にするまでもねぇ」
「昇…くん…」
「ありがとな防人…おかげで助かった」
安堵したかのように息を吐き、倒れたまま眠りにつく防人、その防人の頭をポンポンと叩くと昇も安堵したように息を吐き、嫉酷の方へ指を指し一言放つ。
「次は逃げんなよ?」