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深い森の奥で

作者: 下菊みこと

「こんにちは、小鳥さん」


「ちゅん、ちゅん」


「あらあら、怪我をしているの?ちょっとまってね」


魔女は癒しの魔法を小鳥に使う。


怪我をしていた小鳥は瞬時に回復した。


小鳥は嬉しそうに歌う。


「ちゅんちゅんちゅん!」


「ふふふ、よかったわね」


魔女は小鳥に微笑む。


小鳥は羽ばたいて何処かへ去った。


魔女はそれを眩しそうに見送る。


「私にも羽があればな」


魔女は首を振って、自分の言葉を否定する。


「羽がなくても、魔法があるわ」


それがあるから、土地に縛られているのだけれど。


そう呟く魔女は、気を取り直して魔法で料理を用意した。


その時だった。


「ごめんください」


「あら?お客様なんて珍しいわ」


魔女がドアを開けると、幼い痩せ細った少年が目を潤ませていた。


「僕、どうしたの?」


「あの、あの、ボク…お腹が空いて」


「そう。いらっしゃい、食べさせてあげる」


「!」


魔女は少年を家に招く。


そして自分のために用意した料理を差し出した。


「お召し上がりになって」


「わぁ…!」


少年は無我夢中で食べる。


魔女は自分の分の料理をもう一度用意して、少年とともに食べ始めた。


「ご馳走さまでした!」


「あら、おかわりはいいの?」


「おかわり!?」


「おかわりというか、デザートかしら。フレンチトーストよ」


「フレンチトースト!」


笑顔が輝く少年に、魔女は微笑む。


「ほら、召し上がれ」


「わあ、アイスにメープルシロップまで!」


豪華なフレンチトーストに喜ぶ少年。


魔女は美味しそうに食べる少年をただ見守った。











「ご馳走さまでした!」


「ええ、ご馳走さまでした。…さて、それで、どうして村の人から禁足地とされているこの森に入ってきたの?」


「えっと…あの」


「大丈夫、怒ったりしないわ。ただ、聞かせてほしいだけ」


「…ボク、お父さんもお母さんも居なくて。なんとか奴隷としてだけど村で養ってもらってて、でも奴隷としての仕事がとても辛くて逃げてきたの」


…魔女は痛ましげな表情で少年を見る。


痩せ細った少年は、養ってもらっていたとは言えないだろう。


けれど少年は、村の人々を恨んでいるようには見えない。


無垢な子供が酷い目にあったというのは、魔女にとっては悲しいことだ。


「なら、行くあてはないのね?」


「うん…」


「それであれば…こういうのはどうかしら」


魔女は少年に提案した。


「…私の身の回りのお世話をお願いしてもいい?」


「え…」


「その代わり衣食住は保証してあげる」


少年は魔女に頭を下げる。


「…よろしくお願いします!」


「ふふ、よろしくね」


この時から、少年は魔女の召使いになった。












「魔女様ー、朝ですよー」


「ううん…」


「今日は朝から豪華にチャーハンと餃子と中華スープと杏仁豆腐ですよ」


「中華ね…おはよう」


「起きましたね、おはようございます。ええ、中華ですよ。お好きでしょう?」


青年は起き上がる魔女に微笑む。


「ええ、好きよ。朝からがっつり食べられる程度には」


「ふふ、それは良かった」


「あなたが来てから、生活水準が高くなったわ」


「そうですか?お役に立ててなによりです」


青年は甲斐甲斐しく魔女の世話を焼く。


着替えを手伝い、髪を梳かし、食事を用意する。


魔女は青年を見つめる。


「貴方が来てからどのくらい経ったかしら」


「もうかれこれ十年ですね」


「貴方が大きくなるはずだわ」


「魔女様は変わりませんね」


「私は魔力が多すぎるもの。老けることも出来ないし、死ぬことも出来ないわ」


少し寂しそうにそう言う魔女に、青年は言った。


「魔女様、ボクも魔力が多いのですよね」


「ええ、私が見る限りかなりのものよ」


「ボクも魔女様のように、ある程度成長したら時が止まってしまうのでしょうか」


「…ええ、おそらくは」


「なら…ずっと一緒にいられますね」


青年の言葉に魔女は驚く。


けれど、嬉しそうに微笑んだ。


「たしかにそうね。ずっと一緒にいられるわ」


「なら良かった。どうか、置いていかないでくださいね」


「ええ、もちろんよ」


青年は魔女の言葉に安心して、魔女を抱きしめた。


「え、ちょっとどうしたの?」


「…甘えたい気分なんです」


「ふふ、仕方のない子」


魔女は青年の頭を撫でる。


青年は少し拗ねた様子で言った。


「ボクは男ですよ。押し退けなくていいんですか」


「あら、男として見てほしいならもっと頑張らないとね?」


「魔女様は意地悪です」


「ふふ、だって魔女だもの。そうそう、それと…一つ提案があるの」


「?」


魔女は青年に言う。


「魔法を覚えるつもりはない?侍従ではなく、弟子になるのはどうかしら」


「…よろしくお願いします!」


この日から、青年は魔女の弟子となった。











「魔女様、ボクの魔法はいかがですか」


「すごく上手になったわね」


「でしょう?」


「でも、もう教えられることがなくなってしまったわ」


「ならば弟子も卒業ですね」


魔法使いの言葉に、魔女は寂しそうに笑った。


「そうね、貴方は立派な魔法使い。もう私の弟子ではないわ」


「ならば…どうか、卒業祝いにボクのわがままを聞いてください」


「ええ、なにかしら」


「ボクと結婚していただけませんか」


魔法使いは、自らの手で作り上げた指輪を魔女に差し出した。


「…え」


「好きなんです、魔女様。あの日貴女に助けられてから…ずっと」


「で、でも」


「共に永遠を生きてほしい…ダメですか?」


魔法使いの潤んだ瞳に、魔女は思わず頷いてしまう。


「わ、わかったわ。だから泣かないで」


「本当に?本当にいいんですか?」


「ええ、ずっと一緒にいるわ」


「よかったぁ」


微笑む魔法使いに、魔女は不覚にもキュンとする。


魔女だって、魔法使いを憎からず思っていた。


「ずっと一緒にいましょうね」


「ええ、もちろんよ」


幸せそうにはにかむ魔法使いに、魔女も笑顔を浮かべた。

ここまでお付き合い頂きありがとうございました!


楽しんでいただけていれば幸いです!


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よろしければご覧ください!

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