その1
光輝く舞踏会の下、一際大きな声が鳴り響いた。
「公爵令嬢サドナ、貴様がこのか弱き美少女インラーンに行った数々の悪事、全て調べがついている。 罪を認めて謝罪し、刑に服すが良い。 勿論婚約など、貴様有責で破棄だ!」
この国のバカ、失礼、第一王子オーロカルノ(金髪碧眼)が、壇上に上がり一息にサドナを責める言葉を発す。
右側にいる薄紫のツインテール令嬢の腰に、腕を絡ませてどや顔だ。
婚約中に、衆人環視の中のこの行為は残念としか言えない。
インラーンはさらに、たわわな胸を王子に押し当てて、「イヤ~ン、サドナ様が睨んで怖い~」と、口元を王子の腕に隠すが口角が上がっているのがミエミエだ。
顔は幼くて可愛らしいが、特別美少女でもない。
うん、普通よりちょい上くらい。
ほぼ普通のチンチクリンである。
サドナの方は、深紅の長い髪・瞳はエメラルドグリーン(翠玉)で、やや目尻の上がった美人。
胸はそこそこだが、背も高くスタイルは抜群である。
そして王子の後ろには、宰相の嫡男ズリーノ(黒髪、黒目のオカッパ眼鏡)、騎士団長の次男ボヤーク(短い銀髪、金目の筋肉)、魔法師団の若き師団長ネガエール(青髪、赤目のロン毛)が控えていた。
因みに、全員美形の部類である。
「お前ら、サドナの罪を述べることを許す。 断罪の時が来たのだ!」
王子は颯爽と指示するが、取り巻きが罪状を述べた後、絶句することとなる。
「えーと、まずノートを破られた件ですが、クラスメートのマジーメが、インラーン自ら鼻歌混じりに破いている所を目撃しています」
ズリーノが述べると、インラーンが反応する。
「見たなんて嘘よ! 誰も教室にいなかったもん。 あっ!」
次にボヤークが、「スカートを破られたとの発言ですが、それは王子とハッスルしてた時の事故だと思われます」
「ちょ、ちょっと待ってよ! なんでそんなこと知ってるのよ! じゃなくて違うわよ! 破られたんだもん、ぷんぷん」
情事を見られたことを認めつつ、反論するインラーン。
「階段から落とされた件ですが、防弾ベストを着用し、下半身はジャージ2枚を重ね履きして、頭を腕で守りながら落ちている所をカセイフーミタが目撃しています」
ネガエールが報告すると、「何で防弾ベストとかわかるのよ!
適当言わないでよ」とお冠だ。
「失礼ですよ。 カセイフーミタは、家事代行サービスから歌姫のボディーガードもこなす敏腕冒険者です。 名前に惑わされてはいけません。 彼女の手にかかれば、落下の衝撃音や衣類の厚さで着ているものくらいお見通しです」
何故だか、自分のことのように誇るネガエールだ。
その後も、インラーンが意地悪されたことを次々述べるも、何故か味方のはずの男達に論破されていく。
そう彼らはサドナ側に付き、寝返ったのだ。
「もー何なのよ! あんなにサービスしてあげたのに、どういうつもりなのよ!」
切れるインラーンだが、そこで王子が反応する。
「なんだサービスとは? あー、もしかしてお前らインラーンと! どう言うつもりだ !」
怒り出す王子だが、みんな見てること忘れてないかい?
ごほん、ごほんと咳払いし、気を取り直して王子が告げる。
「インラーンはなぁ、サドナ、貴様の傲慢に耐えられない俺の心を癒してくれた。 それだけで十分なんだよ !」
サドナは呆れた顔で、王子に向き直り告げる。
「先程の内容では、私の断罪なんて無理でしてよ。 それに貴方が癒されたのは、心じゃなくて性欲でしょ? 間違えてはいけませんわ」
金糸で竜の刺繍が施された扇を、口元に当てて侮蔑の表情を隠す。
「そういう所が嫌なんだよ! 少し黙ってろ!」
王子はさらに声をあげた。
「……………………………………………………」
数分間会場がシーンとなり、静寂が支配した。
「少し黙りましたわ、もう良いですわね。 私、国王様より貴方の処罰を一任されましたの。 国に責任を負わせないなら、何をしても良いとね。 自ら引き返せない程、こんなに多くの皆さんの前で失態を犯すなんて。 折角、内々にと考えていましたのに」
サドナはそう言って、薄く笑った。
「まず、①婚約破棄については、承りました。
却ってありがとうございます」
微笑み答えるサドナは、今まで見たことがない程晴れやかだ。
「なんかムカつくなぁ、まあ良い進めろ」
「はい。 ②慰謝料について
この件では金銭は要求いたしません。
何より王子は廃嫡されましたので、支払い能力もないでしょう。
貴方は、平民のオーロカルノとなりました」
「ええっ!俺が居なくて、世継ぎはどうするのだ。」
「大丈夫ですわ。 第二王子のカーシコイ様が居りますもの」
「くうっ、あの裏切り者めぇ」
いやいやあんた、自業自得でしょと、突っ込む気にもならない。
この王子、いや元王子は全然反省しないし。
「③として。
衆人環視の中での名誉毀損罪、侮辱罪、冤罪幇助の慰謝料として、次の2つを選んでいただきます。
1つ目・・・我が公爵家が持つ、小島の製薬会社での治験を1年間行ってもらう。
2つ目・・・製薬会社の隣の島で1年、1人で生き抜いてもらうです。
1つ目の利点として、朝昼夕の食事が付き、持病に合った治験が優先的に選べます。 希望があれば有料で、病気の治療も行えます。
建物も近代的で最先端。 ゲーム、漫画等も完備してます。
欠点として、治験ですのでプラシーボ(偽薬)もありますが、新薬もあります。 内蔵、特に肝臓や腎臓の不全になることもあります。 何しろ新薬は、治験のデータで調整する訳ですので。
2つ目の利点として、自給自足すれば、1年自由です。
欠点として、自給自足はなかなか難しいです。
さらに、未開の人喰い族が生息しており、見つかると食べられる危険性があります。
もし選べない場合、どちらも体験してもらっても大丈夫です。
例えば、島にぎりぎりまで住んで、食料が手に入らず空腹で辛い時に治験に参加するとかです。
組み合わせは色々あると思いますが。
島と島の距離は5km程ですので、ボートで余裕を持って移動できる範囲です。
この後、身体検査後、移動となります。
到着まで3日掛かりますから」
そして傍らの医師を呼ぶサドナ。
場所を移し、元王子へ静かに伝える。
「オーロカルノさんは、医師に治療をしてもらってください。
病気があると乗り切れない環境ですから」
貴様! さん付けするなど、どういうことだ! と、憤る元王子も、廃嫡されたことを思い出し項垂れる。
全身の診察と、血液、唾液、尿便検査を行う。
※便の検査結果は後日発送です。
すると、
オーロカルノ、ズリーノ、ボヤーク、ネガエールは、揃って下の病気に罹患していることが判明。
誰から移ったかは、明白である。
「「「「インラーン、お前全員と寝てたのか!?」」」」
慌てるインラーンだが、彼女も診察を受け治療を受けることになった。
サドナは片眉を上げてインラーンに向き直り、
「そうそう、陛下から貴女の罪状を承っております。 オーロカルノさんが病に罹ったのは、まだ王族だった時ですよね。 陛下は、オーロカルノさんが頻りに(お股を)掻いていたことを目撃しています。 他の侍従の方々も目撃しております。 それと、婚約破棄原因の一端にもなっておりますわね」
「それはあんたが悪いんじゃない。 王子をほっとくからよ!」
インラーンの逆ギレターン?
「そうかもしれませんわね。 でも、股間を掻きながら歩く殿方には、・・・近寄りがたいですわ」
扇を口元に当て弱々しく話すも、持つ手には力が入り笑いを堪えているのが一目瞭然だった。
何故か医師のもとにいるオーロカルノ、ズリーノ、ボヤーク、ネガエール、インラーン全員がダメージを受けていた。
本当にもう、ホールから人の少ない診察室に移動した恩情を解ってるのかしら?と、心で1人突っ込みしてしまうサドナ。
「ここでは、オーロカルノさんとインラーンさんだけ、治療します。
他の方は性病薬の治験をしますので、薬剤島に行きますわよ」
「「「そんなぁ~」」」」
「今まで散々、王太子妃候補だった私を虐げてきた癖に ! 往生際がお悪いですねぇ。 キビキビ働くことですわ」
とても美しい、会心の笑みである。
オーロカルノは治験が嫌で、人喰い族の島にいた。
最初は蚊や虻、蛭等に、泣いて逃げ回っていたが、木の実等を食べて自炊。
その内、木の槍を作り魚を捕獲し始めた。
日に焼け、筋肉も付き逞しい。
元々の美形さも加わり、俳優のような仕上がりである。
人喰い族に遭遇しても、石や砂を投げて応戦している。
何度も遭遇する内、人喰い族が面倒くさがって去る始末。
「国王様、どうしますか? なんか仕上がってて勿体ないですよ」
サドナが告げると、
「そうだねぇ、もういっそのこと王子に戻して、他国に婿に出すか ! 今のままなら、内戦起きる国でも逃げられるだろ」
悪い顔の国王が、薬剤島から双眼鏡でオーロカルノを覗く。
「本当はさ、人喰い族の島で耐えきれなくなったオーロカルノが、こっちの島に来て治験を受ける作戦だったんだよね。 そして毒を飲んで、死亡のシナリオだったのに。 野生の勘かな? やっぱり俺の種だしね」
なんか誇らしげだが、「低レベルのハニトラに引っ掛かる男ですが、やっぱり似てるんですか?」の声に閉口する。
お前は名前通りのサドだよとの攻撃。
虐められたいのですか?の声に降参。
サドナの統括する医薬品は、今やこの国の主要産業。
他国が争って購入していくのだ。
何千人が救われたかは、概算できないほどだ。
その影で人知れず、治験の尊い存在があることを忘れてはならない。
「国王様、あの取り巻き達ほどほど優秀なのに、使い潰して良いんですか?」
「ああ、良いんだよ。 僕の可愛い子を守れもせず、女に現を抜かす奴はいらないよ」
そう言う国王は、やっぱり親なんだなとサドナは思った。
私との婚約だって、血が近過ぎだからある程度の時期が来れば解消の予定だったし。
監視目的の婚約だったのだ。
国王は私の父の兄で、私は姪なのだ。
だからこれ程気安いのだが。
「もう少し厳しくしないと、ダメですよ。 オーロカルノさんがああなった原因は、国王様にもありますからね」
「わかってるけど、可愛いからさ。 お前も親になればわかるよ」
ああ、きっとそうなのかも。
この人を見てるとそう思う。
でも、この人が甘いのは子供にだけだ。
その子供にさえ、一度は見切りをつけたんだから。
もし姪の子がやらかしたら、きっと慈悲なんてないはず。
子供を持つのが怖くなるけど、これを教訓にしていけばきっと・・・・・いや、絶対等と言う言葉はないのだ。
常に刻め、魂までーーーーー
インラーンは生涯赦されず、薬剤島職員の娼婦として働いた。
病気になれば即治療され、丁重に扱われた。
寂しい人が多いこの島で、寂しいインラーンも自らの過ちを振り返ることができた。
少し優しい人間になれたのではないかと、自分で思うインラーン。
薬剤島は秘密保持の為、一度来れば出られない島なのだ。
その分島には全てが揃い、充実の福利厚生だ。
ただ渡航の
自由だけがない島。
そしてオーロカルノは、王子に戻り他国に嫁いでいった。
久しぶりに見た国王の顔に、彼優しさを見つけられたようだ。
最後までオーロカルノが薬剤島に来なかったのは、注射が怖かっただけと言うのは誰も知らない事実。
薬剤島と人喰い族の島、2つ併せて処刑島と後世に伝えられた。
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