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残念なフリーター

小串ミツネはどこにでも居るフリーターだった。


ファミレスとカラオケ店でバイトをしているのはシフトの融通が効くからで、引っ越しても割とどこにでもあるからだ。



「おい、小串ィおめえ、引っ越しすんの何回目だ、あぁ?!どこにそんな引越し資金があんかなァ? 金あるなら借金返さないとじゃねえの、ああん?」



「や、やややばばば」



ミツネは息を潜めながら安アパートの覗き窓を覗き込んで後悔した。



汚ったない染めムラのある金髪にカラーレンズのグラサン。どこで買ってるのか謎すぎるいかにもな柄シャツにダボダボのパンツ。


ここ数年、親の顔よりよく見る顔だ。言っておくが冗談では無い。



そっと扉から顔を離して、無音でチェーンをかけて存在感を消す。



「アイツ……どうやってこのアパートを……?


まだ引っ越して1週間だぞ」



ミツネは顔面蒼白で頭の中の心当たりリストを高速で参照し息を飲んだ。



「まさか……ミカのやつ……!!」



震える手でスマホをつつき、お目当てのSNSを引っ張り出すと、可愛らしい魔法使いの格好で妹が呟いていた。



【新しいおうちはすきま風がすごいな……】



何百ものコメントがつき、俺があっためてあげるだの、コレで暖かいもの買って、引っ越し資金に使ってなどの投げ銭があるわあるわ…………



「ミカァァァァ……!!」



「おいおい小串、いるのは分かってんだぞ、サッサと開けてくれるぅ? 俺も暇じゃねえんだわ」



ガンガンと蹴られる扉にひいいと小さく悲鳴をあげて、まだ開けられてないダンボールの影に引っ込む。



「やばやばやば、金なんてないよ。なんなんだよ、くそ、しつこすぎだから!ほんと、もう、どどどどうしよ、どうすべき」



新しいアパートに夜逃げ同然で転がり込んだが、そんな極貧のミツネ達に提供出来る物件は訳ありと相場決まっていて、事故物件、違法建築は序の口、今回はなんと前回入居の人の荷物すらまだ残っている。


前の住人も夜逃げしたのか、紙やらノートやら変な宗教のよく分からない道具やらペンやら、ゆかにこびりついた赤いペンキ(断固ペンキペンキじゃないはずが無い)や落書きやら……気にしたらキリがないので、気にしないことにしている。



「いいかげんにしろよ小串ぃ、こんなうっすい扉ぶち破ってやっからなぁ、あ?」



「あああああ、ありがとう今まで俺の臓器たちよ健康でいてくれて、そしてさようなら俺の臓器たち。達者でな。できることなら来世では金と地位と力を持っためっちゃ凄いやつになりたい。そう、それがいい。あと魔法とか使えたらサイコーもうそういう世界で生きていきたい。もう、うんざりだ!!ははは、どーでもいい!!なんか楽しくなってきた!!」



「なあに騒いでんだァ?はい、開けマース、さあん〜」



「ばいばい、ミホ、ミカ、可愛い妹たちっ」



「にい〜〜」



「親……親はどうでもいい、本当に無、無感情!!ほんとろくでもない……借金だけ残しやがって、やっぱり恨んでやる……。あ、鼻血出てきた」



「いーーーち」



ポタポタと床に落ちる鼻血すらもうどうでもいい。心底どうでもいい。


初めて色々なことから開放された気分だった。


思えば今まで大変だったなあ〜。借金取りに借金取りに、借金取りに…………


よく考えたらたかだか高卒のフリーターが今までよく借金取りから逃げてこられたもんだ。


なんだ、俺頑張ってたじゃん、とミツネは誇らしくなった。



バキィ!と嫌な音がしてドアが蹴破られる。どんな馬鹿力してんだあの半グレは、と思ったり思わなかったりしてグッと目を閉じた。



これから、マグロ漁船に乗せられるのかな。


それともやっぱ臓器売買ルートかな。自慢じゃないけど体は丈夫だし。



閉じた瞼越しにやたらと明るい気配を感じたが、多分電気代払ってなくて部屋の中が以上に暗いせいだと思う。


前の住人の残したカーテンは悪趣味に真っ黒な遮光性能だけは高いやつだったし。



ーーーグッバイ、俺の臓器!!願わくば痛くなくしてほしい!





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