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Final Stage/Love Declaration

「それにしても……なんであの時、あそこにいたんだろう……」

 私は一人、自分の部屋の中で鏡を相手にこの前のクリスマスの日を思い出す。

 生放送の番組を終えた直後、彼のメールであの喫茶店にいることが分かって、その足で駆けつけて。

 番組で歌った曲を、彼一人のためだけにプレゼントもしたっけ。

 今考えると、あまりに積極的すぎる私にびっくりする。

 だって歌詞自体、私の気持ちを思い切りこめたものだったし……

 でも、彼は気付いてくれなかった。

 ただ、これもまた今思うと、気付いてもらえなかったという理由だけで片付けてはいけないような気がした。

 

「あの時喫茶店にいたってことは、あの番組、見るつもりがなかったってことだよね……」

 うぬぼれているわけじゃないけど、もし少しでも興味を持ってくれているのなら、私の出演する番組をチェックしてくれるんじゃないかと思う。

 だって、私がお友達になった人の番組はやっぱり気になるし。

 少しだけ跳ねていた髪の毛を手グシで整えて、そのままベッドに腰かけて力を抜く。

「でも、彼が見ていなかったおかげで、目の前で歌のプレゼントはできたけど……」

 

 なんか、複雑な気持ち。

 彼の気持ちが、見えない。

 クリスマスに会った時に「生放送があることは途中で分かったんだけど」と言っていた。

 これもよく分からない。喫茶店にテレビはないし、その途中で分かる理由がない。

 それって、一度チェックしていたけど気付くまで忘れていたってことなのかな。

 もちろん、彼と付き合っているとかそういうことでもないし、あまり会うこともできないし、単なるメル友みたいなものかもしれないけど。

 なんか、さみしい。

 

 一つ大きくため息をついたそのちょうどのタイミング。

 テーブルの上に置いてあるケータイが震えた。

 そうだ、昨日寝る前にマナーモードにしていたのがそのままなんだっけ。

 もしかして! と思う。彼のことを考えている時に来るメールは、たいてい彼のものだったから。

 

『この前教えた喫茶店、よかったでしょ! でさでさ、今日行かない? お互いオフだし!』

 

 だけど期待して開いたメールは彼からではなく、そもそもこのことがなければ何も始まらなかった……あの喫茶店を教えてくれた仕事仲間の子だった。

 あ、別に嫌ってわけじゃないよ。ほら、タイミングっていうのがあるじゃない? たまたまそういう時だったからだよ、と誰に言っているのか何を言っているのか分からない感じになったり。

 

『うん、いいよ。今家にいるから……着くのはだいたい1時間後くらいかな』

 

 彼のことをいくら考えたとしても、何か結論が出る気がしないし。そんなもやもやした気持ちで彼に何かできそうもないし、彼から誘いが来るなんてことはないだろうし。

 出会うきっかけをもらったのは彼女のおかげだし……と、わざわざ理由をつける必要はないんだけど、私はその約束を受けて喫茶店に向かった。

 

 

「あー! ここ、ここ!」

 全てが個室になっていて、落ち着ける雰囲気の喫茶店も、彼女にかかると少し様子が違ってくる。

 とにかく明るくて、どんな空気の時でも、彼女にかかればすぐに自分の色に染めてしまう。

 一歩間違えばうるさいだけなんだけど、彼女自身コントロールしているのか、あまりそう思うことはない。

 って、ちょっと何気にひどいこと言ってる気がするけどね。

「待たせちゃった?」

「ううん、ぜーんぜん! あ、もうあなたの分も頼んどいたよ。ホットティーミルク2つ、でしょ?」

「え? う、うん……」

 いつも頼んでいるものを言い当てられて戸惑う。彼女と一緒に来たことは今まで無かったし、私がここでいつも何を頼んでいるのかという話をしたことはなかったはず。

 ミルクティーだって、いつも飲んでいるわけじゃなくて、ここのがおいしいと思ったから頼んでいるだけなのに。だから、いくら付き合いがあるからといって知っているとは思えない。

 

「しかしねー、あの新曲あんなに売れるとは思わなかったね」

 そんな私の疑問を断ち切るように、彼女が話し出していた。

「うん、そうだね……」

 クリスマスイブの日に初めて歌った新曲。彼への想いをたっぷり詰めたその曲は、今までの売れ行きからするといい方だった。

「曲発表したのは……クリスマスイブの日だったっけ? 私は別のスタジオにいたからねー、聴きたかったなあ。初めて歌う姿」

「やめてよ、恥ずかしいから」

「あとで見させてもらったけど、よく気持ちがこもった歌い方だったと思うよ。うん、上出来上出来」

 彼女には、すでにこの喫茶店を舞台にした今までの経緯を話してある。

 だって、やっぱりきっかけを作ってくれた人だもん。話さないわけにはいかないよ。

 その結果、それ以来このようにからかわれるようになったわけだけど……でも、それほど気分は悪くなかった。

「お待たせしました、ホットミルクティー、ミルク2つになります」

 一通りからかわれた後、既に彼女に注文してもらっていたミルクティーが運ばれてくる。

 そうだ、なんで私がこれをいつも頼むことを知っているのか、まだ聞いていなかったっけ。

 お店の人と仲がいいのかな? と思いながら、聞いてみようと口を開こうとした。

 と、その時今度は喫茶店の扉にくくりつけてあるベルの音に、動きを止められた。

 今日はなんてタイミングの悪い日なんだろう。邪魔されたというのもあって、少しだけ個室のドアを開けていた隙間から入口の方を見やる。

 これからダブルで驚きをもたらす出来事が起こるなんて思いも寄らず。

「あ……」

 意識しない声が、漏れてしまった。

 入ってきたのは、今日の朝から考えていた彼だったから。

 やっぱり、彼のことを考えていると何かしら接点ができるのかな。

 そんなことをゆっくり考えていると、その不意をつくように残り一つの驚きをもたらしてくれる。

「あっ、兄貴! ここだよ、こーこ!」

 思わぬところから来た彼を呼ぶ声に、今度は声を漏らすことも叫ぶこともできず、ただただ、その呼んだ人の方を見ることしかできなかった。

 

 その声を出したのが、今まで目の前で私と話していた、この喫茶店を紹介した彼女だったのだから。

 

「まったく、その甲高い声どうにかなら……え?」

 彼の声が途中で止まって、私と彼の視線が、合う。

「ちょっと待て……なんでこんなことになって」

 一瞬固まっていた彼としばらく見つめあう形になっていたけれど、しばらくして目をそらし、今度は彼女に問いつめはじめる。

「え? 別に2人きりでお茶しようなんて言ってないし。それにー、ほら! 今をときめくアイドル2人に囲まれるなんて、めったにないことだよ?」

「まったく……」

 仕方ないといった感じで、彼が彼女の隣に座る。どうやらこういうことはよくあるみたい。なんとなく、彼女とよくいる私からしても彼に同情する。

「さて、改めて紹介しようかな。私の兄貴。最初に喫茶店にあなたが行くって言ってた時、どーせあなたのことだから道に迷うと思って派遣したの」

 ダブルの驚きだったのが、トリプルに。

 ほら、やっぱり彼女には振り回される。

「それって……最初から彼は私を案内するつもりで……」

「そ。私はその日オフじゃなかったからね。ちょーっと心配だったから、間近でカワイイ子を見られるなんてめったにないよー? って兄貴を説得したわけ。で、その日限りで終わる話かなと思っていたら、なんか面白いことになってるじゃなーい?」

 しばらくその言葉の意味をつかめずにいた私は、ある結論に至った時、色々と恥ずかしいことになっていることに気付く。

「あ……っ!」

「クリスマスイブの日は、私の番組のスタジオの方にいたからあなたのところに兄貴は行けなかったわけ。だからごめんねー? 私がお邪魔しちゃったみたいで。でも気持ちをこめたあの歌を直接プレゼントでき」

「きゃあああぁっ! もうわかったってばっ!」

 そうだ……このあたりの話、全部彼女に話していて……

「不思議だと思わなかった? なんで私があなたがいつもこの喫茶店で頼むメニュー知ってたのかって。それはね、兄貴がいつも話し……」

「うっ! そ、それはいいだろう? わざわざ話さなくても……」

 今度は、彼が焦っている。

「別にいいじゃない。相手が相手だからって手の届かない存在だなんて決め付けちゃダメだって。聞いてよ、あなたのアプローチ、気付かないフリしてたんだってー! そんなの迷惑なだけだよねー、頼むメニューを覚えこんじゃうくらい意識してるのに」

 それって……今までそっけなく見えたあの彼の態度はわざとで、裏返してて、だから、えっと、つまり。

 全然、考えがまとまらない。

「まあ、そんなわけでさ。2人は何の障害もないってわけ。あーあ、うらやましいなあ。じゃあ、私はこれで……」

 言いたいことだけ言って去ろうとする彼女に向かって、さすがに何も言わないことはできず、私は叫んでいた。

「こらぁーっ!」

 そして、私は彼と顔を見合わせる。

 声の出たタイミング、言っている言葉。全て同じタイミングだったから。

「あはは、息ピッタリー」

 その言葉に、何も言い返せない私が悔しい。

 

 でも、これで分かったこと。

 彼が私に興味なかったわけじゃないということ。

 こうして彼と向き合っていれば、いつか受け止めてくれる時が来るのかな。

 それがいつになるかはわからないけど……

 

 でも、私は焦らない。

 手の届かない存在って言われても、そのうちそんなことを思わせないくらいに気持ちをぶつけようって。

 

 だから、覚悟していてよね。

 

 私は彼を見つめながら、心の中で宣戦布告した。

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