2nd Stage/X'mas Stage
「間もなく本番でーす! スタンバイお願いします!」
「はっ、はーい!」
私はいつものように、もうすぐ自分が出演する番組がスタートすることを伝えにきたADさんに、元気いっぱいの感じで返事をする。
……つまり、そう見せかけているだけなんだけど。
アイドルというお仕事をしているから、落ち込んだ姿なんて、たとえ本番じゃなくても、少なくとも収録現場にいる時に見せるわけにはいかない。
私も少しは、プロ意識ってものができてきたのかな。
ここはテレビ局の楽屋。普段と変わらない私だけの空間が、最近ひどくさみしく感じる。
それもこれも、この前あの人に会ってから……
たった1日だけもらえたオフに、私が道に迷っていたところを、正体に気付いていながらも優しくエスコートしてくれたあの日。
あの場限りでの関係なんて嫌で、すごくすごく勇気がいったけど、連絡先を聞くことはできた。
だけど、それから私のスケジュールは特にハードになってきて、なかなかメールさえできないでいて。
彼から先にメールを送ってもらうということもなくて。
「はぁ……」
ADさんが遠く離れたことを確認した私は、ため息をついた。
鏡を見ると、ひどい顔。私じゃないみたい。
やっぱり、少し強引だったのかなと反省してみたりする。次のオフの時にまた会いたいってすごくストレートに言ってしまったこと、今でも昨日のことのように覚えてる。
後悔をしているとまでは思っていないし認めたくもないけど、あの時の彼の表情は驚いているようにしか見えなかった。
どう、彼は思っているんだろう。直接聞いてみたい。
「すいませーん! 本番なんですけど!」
さっきのADさんが再び私を呼びに来る。
いけない、思ったより長い時間考え込んでいたみたい。
今日の仕事は、クリスマスイブの特別生番組。
私の初めて作詞した曲が初お披露目となる予定になっている。
ここ最近、忙しくなったのはこのせいなんだよね。といっても、ずっと前から作詞しませんかって言われてたのに、ついこの前に私がその気になって、ムリヤリ作曲を短期間でお願いしたから、自業自得なんだけどね。
そんな記念と思いがぎゅっと詰まった曲だから、できれば私の目の前で彼に聞いて欲しい。
でも結局、この日のことを言わずに、本番になってしまった。
せっかく、クリスマスプレゼントにするつもりだったのに。
でも、きっと見てくれている。
そう、信じて……
私は、ステージに立った。
「ふう……終わったあ!」
どこにもやり場の無いような体の中の熱気が、むしろ心地良い。
しばらくその感じを味わったままでいたくて、座ることさえもったいなく思う。
そんなテンションが上がっていることの自覚できる中で、部屋の隅に置いてあったカバンの中から、優しいオルゴールの音色が聴こえてきた。
「あっ……」
個人の着メロにしておいてから、ほとんど聴くことができないこの曲。
珍しく彼から最初に送られてきた、ケータイメール。
体の熱気が、倍以上になったよう。
『お疲れさま』
でもメールを見ると、少しだけ肩の力が抜ける感覚。
「いつものことなんだけどね……」
男の人って、普通こんなものなのかな。
たった一言だけのメールに慣れてきてしまっている自分をおかしく思いながら、私は返事を打つ。
『ねえ、今どこにいるのかな。よかったら少しだけ付き合って欲しいんだけど』
また、自分から誘っちゃった……
思い切って送信ボタンを押した直後に、そのことに気付いて慌てて。
でも、それ以上考える前に彼の返事が来た。
『今、あの喫茶店の中』
……あの喫茶店!
彼に案内してもらった、思い出の場所。
熱気も冷めやらないまま、私は楽屋を飛び出した。
走っているうち、目の前に白い粉のようなものが降っていることに気付く。
「ホワイトクリスマスかあ……」
あの喫茶店の場所は、もう覚えてる。彼と一緒に歩いた道をたどっていれば、たとえ雪が降っていても迷うことはない。
今あそこに彼がいると思うと、この寒さもあまり感じなかった。
そしてもうすぐその喫茶店に着く最後の曲がり角を曲がった時。私は足を止めた。
「お疲れさま」
さっきのメールと同じ言葉が、私の耳に届く。
「ま……待っててくれたの?」
「いや、来るような感じがしたから……雪も降ってきたし、寒いかと」
心配してくれたんだ……その気持ちが、嬉しい。
「ねえ、今日の番組、見てくれた?」
息が苦しくなってくるのを感じる。これ以上彼の言葉にドキドキしていたら、息のしかたも忘れてしまいそう。だから私は、早いうちに彼に一番聞きたいことをたずねてしまう。
「いや、あることは途中で分かったんだけど……今、ここにいるから、見られなくて。ごめん」
そっか、この場所にいるってことは、テレビがついているわけでもないこの喫茶店の中にいたら、さっきの生放送の番組なんて見られないかあ……
せっかく、彼のために歌ったのにな。
「でも、逆にいいかも」
彼に聞いてもらうこと。それが、一番私の望んでいることなんだから。
「ねえ、聴いて。私の作詞した曲」
聴いて欲しいのは、初めて作詞したからってわけじゃない。
彼に伝えたいメッセージ。それがあるから。
「♪~
降り積もる雪の中
あなたを見つけ立ち止まるの
私の気持ちも知らないで
胸が痛くなる
偶然の出逢いから
たくさんの月日が流れて
私の想い伝えたい
友達じゃいられない
もてあます気持ち
どこに向ければイイの?
Happiness あなたといるだけで
胸いっぱいな気分になれるのに
Lonliness 隣にいるはずなのに
ぜんぜん気持ちが見えないの
あなたと2人 ステキな未来見つけたい
~♪」
私の今の気持ち、彼に届いたかな?
まさか本当に雪が降ってくれるなんて、びっくりしたけど。
1番だけしかない歌。この続きは、まだ出来ていない。
だってこの先の物語がどうなるのか、まだ分からないから。
「ねえ、2番の歌詞を聞かせて欲しいな」
私は、まだ残っている熱気を彼にぶつけた。
「うーん、そうだなあ」
私の言葉に、真剣に考え込む彼。
どうやら、本当に歌詞のことを考えているみたい……
もう、どこまでにぶいんだろう、彼って。
でも、そんなクリスマスも悪くないかも。これから、ゆっくり考えていけばいいよね。
「じゃあ、早く中に入って考えよ!」
だってそんな彼だから、私も気になっているんだから。




