表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

2nd Stage/X'mas Stage

「間もなく本番でーす! スタンバイお願いします!」

「はっ、はーい!」

 私はいつものように、もうすぐ自分が出演する番組がスタートすることを伝えにきたADさんに、元気いっぱいの感じで返事をする。

 ……つまり、そう見せかけているだけなんだけど。

 アイドルというお仕事をしているから、落ち込んだ姿なんて、たとえ本番じゃなくても、少なくとも収録現場にいる時に見せるわけにはいかない。

 私も少しは、プロ意識ってものができてきたのかな。

 

 ここはテレビ局の楽屋。普段と変わらない私だけの空間が、最近ひどくさみしく感じる。

 それもこれも、この前あの人に会ってから……

 たった1日だけもらえたオフに、私が道に迷っていたところを、正体に気付いていながらも優しくエスコートしてくれたあの日。

 あの場限りでの関係なんて嫌で、すごくすごく勇気がいったけど、連絡先を聞くことはできた。

 だけど、それから私のスケジュールは特にハードになってきて、なかなかメールさえできないでいて。

 彼から先にメールを送ってもらうということもなくて。

「はぁ……」

 ADさんが遠く離れたことを確認した私は、ため息をついた。

 鏡を見ると、ひどい顔。私じゃないみたい。

 やっぱり、少し強引だったのかなと反省してみたりする。次のオフの時にまた会いたいってすごくストレートに言ってしまったこと、今でも昨日のことのように覚えてる。

 後悔をしているとまでは思っていないし認めたくもないけど、あの時の彼の表情は驚いているようにしか見えなかった。

 どう、彼は思っているんだろう。直接聞いてみたい。

 

「すいませーん! 本番なんですけど!」

 さっきのADさんが再び私を呼びに来る。

 いけない、思ったより長い時間考え込んでいたみたい。

 

 

 今日の仕事は、クリスマスイブの特別生番組。

 私の初めて作詞した曲が初お披露目となる予定になっている。

 ここ最近、忙しくなったのはこのせいなんだよね。といっても、ずっと前から作詞しませんかって言われてたのに、ついこの前に私がその気になって、ムリヤリ作曲を短期間でお願いしたから、自業自得なんだけどね。

 そんな記念と思いがぎゅっと詰まった曲だから、できれば私の目の前で彼に聞いて欲しい。

 でも結局、この日のことを言わずに、本番になってしまった。

 せっかく、クリスマスプレゼントにするつもりだったのに。

 でも、きっと見てくれている。

 そう、信じて……

 私は、ステージに立った。

 

 

「ふう……終わったあ!」

 どこにもやり場の無いような体の中の熱気が、むしろ心地良い。

 しばらくその感じを味わったままでいたくて、座ることさえもったいなく思う。

 そんなテンションが上がっていることの自覚できる中で、部屋の隅に置いてあったカバンの中から、優しいオルゴールの音色が聴こえてきた。

「あっ……」

 個人の着メロにしておいてから、ほとんど聴くことができないこの曲。

 珍しく彼から最初に送られてきた、ケータイメール。

 体の熱気が、倍以上になったよう。

『お疲れさま』

 でもメールを見ると、少しだけ肩の力が抜ける感覚。

「いつものことなんだけどね……」

 男の人って、普通こんなものなのかな。

 たった一言だけのメールに慣れてきてしまっている自分をおかしく思いながら、私は返事を打つ。

『ねえ、今どこにいるのかな。よかったら少しだけ付き合って欲しいんだけど』

 また、自分から誘っちゃった……

 思い切って送信ボタンを押した直後に、そのことに気付いて慌てて。

 でも、それ以上考える前に彼の返事が来た。

『今、あの喫茶店の中』

 ……あの喫茶店!

 彼に案内してもらった、思い出の場所。

 熱気も冷めやらないまま、私は楽屋を飛び出した。

 

 

 走っているうち、目の前に白い粉のようなものが降っていることに気付く。

「ホワイトクリスマスかあ……」

 あの喫茶店の場所は、もう覚えてる。彼と一緒に歩いた道をたどっていれば、たとえ雪が降っていても迷うことはない。

 今あそこに彼がいると思うと、この寒さもあまり感じなかった。

 そしてもうすぐその喫茶店に着く最後の曲がり角を曲がった時。私は足を止めた。

「お疲れさま」

 さっきのメールと同じ言葉が、私の耳に届く。

「ま……待っててくれたの?」

「いや、来るような感じがしたから……雪も降ってきたし、寒いかと」

 心配してくれたんだ……その気持ちが、嬉しい。

「ねえ、今日の番組、見てくれた?」

 息が苦しくなってくるのを感じる。これ以上彼の言葉にドキドキしていたら、息のしかたも忘れてしまいそう。だから私は、早いうちに彼に一番聞きたいことをたずねてしまう。

「いや、あることは途中で分かったんだけど……今、ここにいるから、見られなくて。ごめん」

 そっか、この場所にいるってことは、テレビがついているわけでもないこの喫茶店の中にいたら、さっきの生放送の番組なんて見られないかあ……

 せっかく、彼のために歌ったのにな。

「でも、逆にいいかも」

 彼に聞いてもらうこと。それが、一番私の望んでいることなんだから。

「ねえ、聴いて。私の作詞した曲」

 聴いて欲しいのは、初めて作詞したからってわけじゃない。

 彼に伝えたいメッセージ。それがあるから。

 

 

 

「♪~

 降り積もる雪の中

 あなたを見つけ立ち止まるの

 私の気持ちも知らないで

 胸が痛くなる

 

 偶然の出逢いから

 たくさんの月日が流れて

 私の想い伝えたい

 友達じゃいられない

 

 もてあます気持ち

 どこに向ければイイの?

 

 Happiness あなたといるだけで

 胸いっぱいな気分になれるのに

 Lonliness 隣にいるはずなのに

 ぜんぜん気持ちが見えないの

 

 あなたと2人 ステキな未来見つけたい

 ~♪」

 

 

 

 私の今の気持ち、彼に届いたかな?

 まさか本当に雪が降ってくれるなんて、びっくりしたけど。

 1番だけしかない歌。この続きは、まだ出来ていない。

 だってこの先の物語がどうなるのか、まだ分からないから。

「ねえ、2番の歌詞を聞かせて欲しいな」

 私は、まだ残っている熱気を彼にぶつけた。

 

 

 

 

 

「うーん、そうだなあ」

 私の言葉に、真剣に考え込む彼。

 どうやら、本当に歌詞のことを考えているみたい……

 もう、どこまでにぶいんだろう、彼って。

 でも、そんなクリスマスも悪くないかも。これから、ゆっくり考えていけばいいよね。

「じゃあ、早く中に入って考えよ!」

 だってそんな彼だから、私も気になっているんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ