人助けは必然的
ここにおりますは、独りの若者。
付き人の運転する車にて帰宅中の高校生、真邊大子。
つい先ほど、不思議な事に遭遇したばかりである。
というのも...
マルと首輪に書いてある犬に遭遇した。
その犬がいきなり飛び出してきて、驚いた拍子に尻餅を付き転んでしまったのだ。
ただ散歩に出かけただけで何かと起きる。
大「最近、いろんな事が起きてる気がするんだけど...
気のせいかな?...それとも」
元々、ミステリーやオカルトに興味のある大子なので、
そういった不思議な現象が起きているのてはないかと推理していた。
橘「きっとお疲れになっているんですよ。
最近は、坊っちゃん自ら家業のお手伝いをなさっているんですから」
大「 そりゃあね。お手伝いくらいはしたいし、(いつも、みんな頑張ってくれてて)本当に感謝している。それに、僕が子供のころから父が口癖のようにそう言っていたし」
父は、言っていた「人が誰かのために行動するというのは、簡単な事じゃない。
大変な事もあれば、時にそれをやめたくなることもある。それでもやめず、頑張れる人は、思いやりや愛情があって人の心を動かすんだよ。父さんはそう思うな( ´ー`)」
そう、優しい父だからこそ、たくさんの苦労を経験したからこそ言えることなんだと思う。近くで使用人が働く日々を父さんは見ているから。
橘「おっしゃる通りでございます。若かった私も(わたくし)も学ぶ機会がたくさんございました。
当時は坊っちゃんもまだ、幼くていらっしゃいましたから..
.きっと旦那様は、坊っちゃんがたくましく優しいお人に育って欲しいと、お教えになっていたのかもしれません。」
そんな会話をしながら、僕は家に帰宅した。
元々疲れやすい身体ではあったが、
こんなに疲労を感じた日は子供以来かもしれない。
自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転び
ため息をついた。
大「はぁ...疲れた。
今日はゆっくり休んでようかな...
でも、手伝いが...」
周りにも(無理に手伝いをしなくても大丈夫だから
したくないときはしなくていい)と言われていた事もあって、その言葉に今は甘えようと思った。
それでも手伝いをしないと、と睡魔と戦いながら結局は負けて
そのまま眠ってしまった。
大子が寝てからどれくらいたっただろうか。
大「やばっ!?寝てた!
もう夜か...」
時計を見ると、時刻は夜の6時を回っていた。
扉を開けるとお盆に置かれた夕食と書き置きがあった。
書き置き
「今日もお疲れ様でございました。
(きっと寝ているだろうから寝かせてあげて)と奥様が
おっしゃっていましたので、お夕食はこちらに置いておきます故、
召し上がったらまた、こちらに置いたままで構いません。」
大「みんな気遣い屋だな。ありがとう」
いつもは皆集まって食事をするのだが、
あいにく父は家を空けており、母と使用人のみだ。
だから、起こさなくてもいいと言ったのだろう。
父が不在の時は大体こうだ。
決して決まりがあるわけではないが、
皆集まって食事をすると、あたたかく
より幸せを感じると教えられたからだ。
大子は着替えて、食事を終えると
お盆を部屋の外に置いて、気になることを日記に書き留めていた。
そこで、大子は気づいた。
自分の耳鳴りが何かの予知しているのではないかと
はじめは子供の頃。
祖父が亡くなる前の日に激しく耳鳴りがしたこと。
そして、今回カラスが飛び出す前に耳鳴りがして
そのあとに事故が起きたこと。
大「待てよ...今日は犬が僕の前に現れた。
けど、耳鳴りが鳴ったのは後だったはず...
じゃあ..、この仕組みが確かなら...これから予知する何かが起きるって事か?」
推理しているその時
部屋のノック音がした。
使用人の一人が、「坊っちゃん!大変です奥様が!」
僕はあわてて向かうと、母さんが崩れてきた箱の下敷きになって
病院へ運ばれたというのだ。
あいにく足の捻挫という怪我で済み、命に関わるものではなかった。
それには安心したものの、怪我人が出た。
あの耳鳴りはやはりそういう仕組みらしい。
確信した大子は、子供の頃に読んでいた本をかき集め
図書館へも通い、調べ始めた。
次の日、橘に事情は話さず、図書館への送り迎えを頼んだ。
ミステリーからオカルト、ホラーまでそれらに近いものを片っ端から調べ
探していた。
だか、どれを調べても自分に当てはまるものはなく、
それに近いものすら出てこなかったのだ。
また別の日に調べてみようと、日記にまとめ
この日は眠った。
次の日
大子は、学校へ登校後もずっと考えていた。
友人の誘いも断り、帰宅後は耳鳴り予知の事ばかり考えていた。
自分だけしかわからない感覚と、やっと見つけた仕組みをひたすら分析し、
誰とも遊ばず、家の手伝いもこなし、勉強をし、一週間は部屋にこもり続けた。
そんなある日、大子は気づいた事がある。
子供の頃に高熱を出した日があった事...
その前に鳴り神社へ行っていたこと。
これは本人しかしらないはずの記憶だが、橘だけはなぜか知っていた...
すぐに橘を呼び、あの日の事と勇気を出して耳鳴り予知の事を話そうと思った。
橘は、静かに僕の話を聞くと教えてくれた。
橘「あの日...坊っちゃんが寝込まれていた日、わたしは旦那様についていました。もちろん仕事は忙しくとも坊っちゃんを気にかけていました。心配で、すぐに坊っちゃんの様子を伺いに行くつもりでした。そして、様子を伺いに部屋に行く途中、
坊っちゃんがいないと一人の使用人が慌てていたのを見つけ、
奥様や旦那様にご報告しようか迷いました。ですが、お伝えしなかったのは、お忙しい中坊っちゃんが行方不明とわかれば大事になり、心配性の奥様も混乱されるという事で、わたしと使用人で一緒に探し、坊っちゃんとわたししか知らない秘密の裏口も捜索しました。半信半疑で向かい、そこで...ほんの少し空いた扉を見て、わたしは坊っちゃんがあの身体で外出されたかもしれない...。わたしは急いで坊っちゃんを探しに行きました。」
大「(そうだ...あの頃はとにかく寝込んでばかりの自分が嫌で…
何としてでもお願いに行こうと、願い叶うと噂していた鳴り神社へ行ったんだ。無理だと分かっていながら、息も苦しくなりながら、変わりたくて...変えたくて
お願いしに行った...)」
橘「どんなに探しても坊っちゃんは見つからず、わたしは辞める覚悟で探し続けました。結局、夕方になっても見つからずとにかく戻って報告せねばと戻った時、坊っちゃんが廊下で倒れていた事や高熱で坊っちゃんの容態が危険な事を使用人に聞きました。
旦那様や奥様に責められることはなく、ただそばにいて欲しいと
涙ながらにお願いされ、見守る事しかできない自分に苛立ちを覚えながら高熱で二日間も眠ったままの坊っちゃんを見て、このまま目を覚まさなかったらどうしようかと考えたくもありませんでした。
そして三日目の朝、ようやく目を覚まされて熱も下がられて、皆も、わたしもほッと胸を撫で下ろしました。そのあと、改めて秘密の裏口を確認するまでは、きっと気づかなかったかもしれません。坊っちゃんの履き物と行く前より開いていた扉の隙間を」
大「だから、僕が外出したことを 知っていたんだね?
あのとき...母さんたちに言わなかったのは、橘の優しさって事か...。
でも、どうして知っていて僕に聞かなかったの?
外出したこと、どこへ行っていたのかとか...」
橘は優しく微笑むと、
橘「坊っちゃんのおそばにいたいからです。
ずっと、守り続けたいからですよ。」
大子が老うまで、ずっとお側にいると、
だから、理由よりも「生きていてくれる」それが一番嬉しいのだと
落ち着いた声で言ってくれた。
※これらの登場人物やストーリーはすべてフィクションです。