いつもあなたを見ています。至近距離でガン見で。
戸惑う俺をよそに、鎧姿の女の子・鶴は、何かよからぬ事を考えてニヤリと笑った。
「おかしくはない、おかしくわ……いえ、お菓子は食べますよ? デュフッ」
「ダジャレ言ってる場合か! だいたい何でお前まで……」
「(そもそも聞くつもりがない)大丈夫です! 日本奪還の大役ですもん、黒鷹だけに押し付けたりしませんよ! 私だってチョーお役に立ちます! 攻撃面だけじゃなくて、サポートとかも得意ですから!」
「いや、だから話を」
「論より証拠系女子・爆誕ッッ!!」
少女はそう言って目を閉じ、祈るように胸の前で手を叩き合わせた。
さすが戦国から引きこもってただけあって、話を聞くという近代的思考回路が抜け落ちている。基本のコミュニケーションがまるで取れないッ…!
だが次の瞬間、鶴の全身から野球のボールぐらいの光の玉が無数に飛び出していった。
そしてほぼ同時に操縦席の中に、半透明の3Dマップ?が表示されたのだ。
「えっ、立体地図!? 敵の妨害粒子の霧で、レーダーも使えないはずなのに?」
「そうですマップです! 戦場把握の地図作成が、聖者たる私に与えられた能力の1つなんです!」
鶴は鎧の上からでも分かる豊かな胸に手を当て、得意げにふんぞり返る。
ふんす、と鼻息荒く喜ぶ様は意外と可愛いが……
「このマップはリアタイですから、今現在の被災者とか敵の位置も分かります! あとは敵のレベルとか、ステータスとか弱点とか、残り体力までバッチリですよ!」
「す、すごいなお前……これがあれば戦場まるごと攻略本みたいじゃんか」
「そっそそ、そうです凄いんですうっ!!(褒めてもらえて嬉しい→高速鼻息ふんす×25回) ほほ他にもバフとか機体の自動回復とかかけれますけど、まずはマップが黒鷹の助けになると思って! ネトゲでもサポートジョブが好きでしたから、あたしほんとお役に立つんですよっ!」
すばらしい! お買い得! ぜひこの機会にお嫁さんにどうぞ! 手数料は天界ネットが、などと必死にアピールをする鶴をよそに、俺は半透明のマップに触れてみた。
指で拡大すると、まだ目視も出来ない場所にいる敵の姿がありありと見えたし、そいつらのステータスや保有攻撃スキル・攻撃の届く範囲までが表示された。
鶴はひとしきり鼻息を吐き切ったのか、急に勇ましい表情でモニターの向こうを見据えた。
「さあ、おふざけはこのへんにして」
「いや自覚あるのかよ」
「とにかくここからが反撃です! 黒鷹と私がいるんですから、これ以上誰も泣かせませんよ! 罪もない人々を苦しめるしか脳のない魔界のビチグソどもなんか、こてんぱんにやっつけちゃいましょう!」
こうして真剣な顔をすれば、文句なしに凛々しい美少女なのだが……さっきまでとのギャップがおかしい。
もしかして戦国の人間てみんなこうなんだろうか。いつ襲われるか分からない生活だったから、一度スイッチが入るとバトルモードになっちゃうとかか。
「あっ、あそこの陰でほら、被災者が襲われます! 敵は3体、今表示しますね!」
「わ、分かった、サンキュー!」
この子が何か言うたびに、画面には敵の情報が分かりやすく表示された。
これなら俺がいちいち地図を見なくていい。つまりはナビゲート役というわけだ。
俺は機体を風のように走らせ、被災者を襲うバケモノどもをすれ違いざまに両断していく。
「次はあっちですね! 危険度も優先で表示しますから!」
俺は戦いを続けながら質問してみる。
「滅茶苦茶助かるけど、そもそも何でこんなこと出来るんだ? 能力ったって、全部の地図が頭に入ってるわけじゃないだろ? しかもリアタイで壊れた家とかも全部再現されてるし……」
「それはですね、私のスキル一覧に神器『真実の瞳』が入ってるからです」
鶴が得意げにいうと、ステータスが彼女のそばに表示される。
仮契約でロックがかかっているせいか、そのほとんどはモザイクがかかっていたが……確かに『真実の瞳(地図作成スキル)』が一覧にあった。
「さっきいっぱい光の玉が飛び出したでしょ? あの1つ1つが観測衛星みたいなもので、あの子たちが見たものをつなぎ合わせてマッピングしてるんです。
敵の動きも簡単に裏がかけますし、敵が多すぎる時は、ボスだけ狙ってサクッと倒せば、秒速ステージクリアも可能ですよ!」
鶴はなおも私お役に立つんですアピールを続ける。
「今はお試し契約でロックがかかってますから……せいぜい『目』は500ぐらいですかね。その分表示できる範囲が狭いですけど、この町ぐらいならまるごと見れますから」
そこで彼女の周りに光の玉がいくつか戻ってきた。
光が弱まるとそれは鈴で、鈴の下の切れ込みが開いて目がぱちくりと開く。
……いや、目はつぶらだけどけっこう怖いぞ。
「もちろん戦い以外にも使えて、黒鷹を常時監視……もとい見守って、あらゆる危険から守れます。そうして得た情報は、瞬間的に愛のチャットに変換して送れますよ!」
「チャット?」
俺が気づくと、機体の画面横に膨大な件数のチャットが送られてきている。
現在の件数は……嘘だっ、未読が546件!?
ざっと目を通してみれば……
『今どこ?』
『さっきの通信の女は誰?』
『わたしに言えない相手なの?』
『どうして返信してくれないの?』
『教えて今すぐ教えて早く早くこれ以上わたし待てない自分の黒さを抑えきれない』
「怖い怖い怖い怖い……!!!」
俺は全身の毛を逆立てて戦慄した。
「これでもまだ序の口なんです。レベルが上がればこの星のどこにも死角が無いぐらいまで増やせる予定ですけど、ステ振りの関係上、プリンを生産する能力とかとかち合っちゃうんです」
「そ、そこは何としてもプリンに全振りしてくれ! そっ、そのせっかく現代に来たんだからっ、ぜひ美味しい物を食べてほしいし!」
「わあ、やっぱり黒鷹は優しいですう。こんな陰キャの私に……さっそく1つ。おいしい(ニコニコ)」
無邪気な笑顔はまあ可愛いが、それにしても怖すぎだろこれ。