いっぽうその頃、正規版の鶴ちゃんは
「ああ面白かったわ、あっちの世界の私も頑張ってるのね。やっぱり私よ、信頼の鶴、真面目さの私だわ」
ドヤ顔で納得しながら、鶴は得意げに本(※救国無双)を閉じた。
顔立ちは陰キャの鶴とそっくりだが、髪に寝ぐせもついていないし、表情は活発そのもの。
要するに別世界(※正規版…日いづる国の守り神のほう)の鶴であり、いたずらの神の化身かとも思われるお調子者の聖者だった。
テーブルに乗る子犬サイズの狛犬・コマは、見かねて彼女にツッコミを入れた。
「何を得意になってるのさ。そもそもあっちの世界の鶴は、君と正反対の性格じゃないか」
「まあ、こしゃくな狛犬ね! 物事のうわべだけ見て、つるちゃんの深い真心に気付かないなんて」
「果物と一緒だろ。うわべが腐ってたら、たいてい中もだめなんだよ」
コマはジト目でツッコミ続けるが、鶴はハンケチで涙をぬぐった。
「ああ悲しい、なんて事かしら。こんないい聖者なんて、世界中どこを探してもいないというのに……そして分かったわ、異世界の私があんなに素直でのびのびしてるのは、あっちにコマもナギっぺもいないからよ!」
「いる事はいるんだよ、お目付け役をしてないだけで。岩凪姫様は宇宙で邪神と戦ってるし、僕は僕で走り回ってるから」
「そう、だからこそ鶴ちゃんの自主性が発揮されてるのね。ここでナイス名案だわ、天界の人事はお伊勢さま(※天照大御神)が決めてるでしょ? だからお伊勢さまにお願いして、こっちのお目付け役も、ナギっぺから弁天様に変えてもらえばいいのよ!」
「僕は岩凪姫様の方がいいと思うな。あっちの君は陰キャなだけで真面目だけど、こっちは根本的に不真面目だもの」
「まあ、生意気ざかりの狛犬ね! もう怒ったわ、お伊勢様への書状に、コマの悪行もたんと書きつけてやるんだから。ええもう、あらいざらい。ある事ない事」
「ない事書くのはやめてよ鶴っ!」
ツッコミが止まらないコマだったが、鶴はぷりぷり怒りながら座卓に正座し、筆と帳面を取り出して直訴状をしたため始めた。
「オッホン、まずプロローグからよ。そもそも鶴ちゃんとは、真面目さに真面目さを重ねたようなすんばらしい聖者であり、それに引き換えナギっぺとコマときたら。それはもう不真面目を煮しめたようなこしゃくさであり……」
鶴はスラスラ書き続けるが、背後に長身の女神(※岩凪姫)が現れたのに気づかない。
コマは青ざめて鶴に言った。
「つ、鶴……もうそのへんにしといた方が……」
「ああもう、そうなのそうなの。いつもそうやってやる事なす事水をさして、私の自主性を奪っているのよ。それがどれだけ鶴ちゃんのやる気を削いだことか。いいわあ、復讐心がメラメラよ、創作意欲が湧いてきたかも」
「直訴状なのに創作言ったらだめだよ。あんまり話を盛らない方が…」
「ええいだまらっしゃいっ、この鶴ちゃんの筆が乗り始めたら、もう誰にも止められないわ! 盛りに盛りたる報告書で、ナギっぺとコマの悪行を白日のもとにさらけ出してやるんだから!」
「やめろ鶴っ、盛る事自体が悪行なんだよ!」
だんだん怒りのオーラに包まれていく女神に焦り、コマは必至に鶴の筆につがみつく。
「あっこらっ、いい加減にしなさいコマ! 聖者たる私にたてつくとはなんたる事…!」
鶴は体をねじってコマから筆を守ろうとするが、そこで女神と視線が合った。
「………………」
しばし無言が続いたあげく、鶴はそそくさと机と文を片付けた。
「そ、それじゃあナギっぺ、コマ、私は黒鷹とお仕事があるから。ご機嫌よう」
機嫌がいいと思っておるのかっ、と響き渡る怒声に、鶴もコマも飛び上がったのだ。
※正規版のナギっぺ(女神・岩凪姫)と鶴ちゃんのエピソードでした。怒られてばかりだけど、ほんとはすごく仲良しなのです。
正規版は敵がチョー強いので、とっても苦労しましたけど、この2人だからこそ乗り越えられたのかもしれません。
救国無双の方の鶴ちゃんにも、頑張って読者の皆さんを楽しませてほしいです。




