半裸で枕を抱く女 PART34と4分の1
こういう時、カノンはさみしさを埋めるために妄想を好んだし、それがだんだん極まってきて、脳内に妄想シアターが建設されていた。
入り口の愛想のない店員からバケツみたいなポップコーンを買い、カノンがシアターに入った時には、もう場内は大勢のカノンでにぎわっていた。
「今日は特に混んでる。立ち見かな?」
それでも何とかあいている椅子を見つけて座ると、お気に入りの妄想が上映されはじめた。
あの日浜辺に流れ着き、疲れ果てて倒れた自分(※史実)
ボロボロの服装で、肩も太腿も胸元も、ろくすっぽ隠せていないエッチな感じだ。
(※まだ史実。追っ手をだますため、服を干してそこに住んでるように見せかけて逃げた。代わりに拾ったぼろきれを巻いてる)
そんな自分を抱き上げて、彼は安全な場所に運んでくれた(※ここまではなんとかギリ史実)
背に刺さった矢を抜き、戸惑う自分を優しくほほえみながら手当してくれた彼(※早くも原作改変が始まる)
「助けていただき、ありがとうございます。けれど着の身着のまま里抜けした、あわれな鬼にございます。何もお礼を出来ません……」
そんなふうに言う自分に、彼はそっと顔を近づける。
「何を言うのだ、こしゃくな鬼よ。ここにこの世で最も美しい宝があるではないか」
「ああっ、だめっ、いけません…! あたしは鬼、しかも双角天様の血を引く始祖の姫です。人のあなたとは結ばれっ、…んんっ!?」
彼はもう最後まで言わせてくれなかった。
力強くこちらを抱き寄せ、無理やり唇を奪ったのだ。
「あっ……!」
初めて触れる唇の感触に、乱暴者の鬼だったはずの自分は、ただ戸惑う事しか出来なかった。
再び距離が離れた時、赤くなってうつむくカノン。
だめよ、これ以上はもう駄目よ。
拒まねば。彼を突き放さねば…!
そう焦る心とは裏腹に、体の奥からじんじんと熱い何かがあふれ出してくる。
カノンは必至にそれを押しとどめようとした。
駄目だ、もしこれが表に出てしまったら、私は二度と強い自分に戻れなくなってしまう。
身も心もこの若武者に奪われて、ただの女になってしまうっ…!(※むしろそう望みつつ)
「い、いけませんっ、これ以上は…! 人と鬼、決して結ばれる事など…」
だが彼は止まらなかった。
「人も鬼も同じだな。上の口は嘘つきなものだが、はたして…?(ニヤリ)」
「ああっお侍さまっ、後生でございますっ、どうか、どうかあああっ!」
「うわべでは抵抗しているようだが、はてさて…?(ニヤリ)」
彼はそのままこちらを押し倒し、それから…それから……
これが本当にR15の作品なのか、それとも一回削除してR18で再投稿した方がいいのかと迷われるほどに、エチエチ・エッッッチなピンク映画になり果てたのだ。
ワーッ、ワーッ!
ピーピー、ピーピー!
ブラボーっ、ブラボーッ!!
FINと表示され、エンドロールが流れる中、大勢のカノンは歓声を上げて拍手した。
隣に座る別のカノンと意気投合し、映画のどこが素晴らしかったか熱心に語り合うのだ。
「やーっ! やーっ! いやあああっ、だめっ、そんな! でも好きいいいっ!」
しばらく妄想の熱はおさまらず、カノンは枕を抱いて転がって、パイプベッドの支柱をひん曲げた。
色んな物が落ちてきたが、ぶっちゃけ鬼なので痛くもかゆくもない。
なおも妄想シアターをハシゴしようとするカノンだったが……そこで背後から、コトンと何かの音がした。
「えっ…!?」
振り返るとそこには、ショートカットの栗毛の少女が、黙ってこっちを眺めている。
……ああ、それはなんて表情だったんだろう。
あわれみと軽蔑の目線、しかし口元はニヤリと笑い、「ええネタ仕入れたでぇ、これからさんざんからかってやらんとなあ…?」みたいな印象だった。
その後の事は、もう自分でもあまり覚えていない。
ただ顔から火を噴き出しながら荒ぶり倒し、難波をゆさぶりながら必死に「言わないでええっっ!!!」と頼み込み。
結局、売店の合成チョコをたらふくおごる事で決着がついたのだ。
けっこう痛い出費だったし、これもあのニブちんが全部悪い。
内心そんなふうに八つ当たりしながら、カノンは今日も勇者さまを守るのだ。