誕生祝いに甘茶を浴びせられる。生誕ゼロ秒での苦行スタート
お腹いっぱい食べた後は、更にわけの分からないイベントになった。
お釈迦さまの生誕を祝う花祭り(※毎年4月8日)……みたいに飾り付けられた席に俺と弁天様が座り、大勢の被災者にお参り?される事になったのだ。
なお、花祭りではフィーバーポーズ(※ほんとうは唯我独尊ポーズ)のお釈迦様の像に甘茶をかけるが……
これは彼の人が生まれた際に龍が現れ、「誕生祝いだっ!」とばかりに頭上から甘いシロップみたいな雨を降らせたという、ほとんど嫌がらせに近いエピソードに由来するらしい。
まあ実際、被災者をくすぐってでも笑わせようとしてた神使の龍なら、そういうこと笑顔でやりそうな気もするけど。
お釈迦様はその甘い雨を産湯に使ったというが、それどんな甘党の赤ちゃんでも困惑しないかな??
……などと思考が混乱する俺をよそに、人々は楽しげに順番を待っては、拝んだり線香の煙を頭にかけたりしていた。
「うーっ…、ううううっ、うわああああっっっ!!!」
だんだん頭がおかしくなってきて、俺はたまらず脱走するも、すぐに隊員達に連れ戻される。
”ザ・パワー”ことカノンに腕をガッチリ組まれると、万力に挟まれたみたいに動けないが、柔らかく、かつ弾力ある豊かな胸が押し当てられてちょっとだけ癒やされた……いや、それぐらいじゃ割に合わねえよ。
「いやだああっ、俺はお地蔵さんじゃないんだあっ、なんでこんな大勢に拝まれなきゃいけないんだあっ!」
横にいる弁天様は女神だけあって慣れた様子だが、普通の人間の俺が大勢の人に拝まれたら、正直頭おかしくなりそう。
そう考えると弘法大師とか毎日拝まれまくってたし、相当心を鍛えてたんだろうな。すごいねほんと。
香川に加護もくれたことだし、平和になったら八十八か所詣りしてみようか。
「俺は普通の人間なんだあっ、スキルとかチートとかもらっても、そうおいそれと神様気分になれないんだあっ!!」
俺は隊員(※特にカノン)に押さえつけられながら、首をぶんぶん振って立ち上がろうと抵抗する。
こんだけ見苦しく暴れたら、普通は参拝者達も幻滅してくれるだろうに、スキルでカリスマが発揮されてるもんだからどうしようもない。
「まあ、勇者様ったら。とても謙虚でいらっしゃるのね」
ええっ…!?
「わしも長いこと生きておるが、これほどの謙虚は見た事がない。まさに謙虚の中の謙虚、謙虚の神の爆誕じゃ」
ええええっ…!?
「あれだけの力をお持ちなら、普通はワガママに振る舞ってもおかしくないですのに……どんな時も我々庶民に寄り添おうとして下さる。なんという器の大きさ、まさに勇者様と呼ぶにふさわしい大人物だ……!」
ええええええええっ!?
「もー嫌だっ、ご利益ありすぎて怖いんだよおっ、スキルでモテても嬉しくもなんともないんだよおっ!」
暴れる俺、笑顔で押さえる隊員たち、そして俺が拝まれてメチャ嬉しそうに「もっと崇めるですう、鶴ちゃんの旦那様ですう♪」とニコニコする鶴を眺めながら、弁天様がツッコミを入れる。
「これこれ、別にスキルのせいだけではなかろう。倒れた仲間や、死の恐怖に震える被災者のために、たった1人で350万トンの大怪獣に通せんぼした大バカ者が少しぐらいモテたとして、一体何がおかしいというのじゃ」
「少し…???」
俺は耳を疑った。
今にも『少し』の概念がゲシュタルト崩壊しそうだ。




