たぶんこの子は鬼嫁になる。もちろんいい意味で
そこから後は、もう魔法みたいに何もかもがうまく運んだ。
島嶼部の土地を、有力者たちが先を争うように差し出してきては、
「ぜひ勇者様のお役にいいっ!! それが私達の喜びですからっっ!!」
「どうか、どうか後生ですっ、後生ですから何卒っ、殿おおおっ!!!」
と泣き叫び、土下座から始まって地面をのたうち回り、ドン引きする俺を涙を流して拝みながら、必死にうったえかけてきた。
「受け取っていただけないなら我々一同、殿の前で腹を切る所存っ!!」
「そうです、上様のお役に立てないミジンコどもには、呼吸すらおこがましいっ!! 皆の衆っ、さっそく腹かっさばいて果てましょうぞ!!」
うおおおおおっっ!!!
全員が刃物を取り出して切腹しようとしたので、俺は仕方なくそれらの土地を食料増産拠点に当てた。
いやちょっと待って何なのこれ、怖いんだけどあの勇者のカリスマパワーのスキル。
あと、なし崩し的に避難区の長にされはしたけど、殿だの将軍様になった覚えはねえよ。
そういうのはキャラ的に硬派な香川の方が似合う……と思ったが、当の香川はいそがしく農業系スキルを発揮していた。
香川が金毘羅さんの、難波がお稲荷さんの加護を発揮し、土地をダブル神パワーで祝福すると、まいたばかりの種や苗が一瞬で大豊作となって、おいしそうに色づいてしまった。
それをキツネや牛といった可愛らしい神使たちが、コンバインに乗ってガンガン収穫してくれている。
「生のお米とかお野菜とかも、なんだか久しぶりに見るわね」
自称・料理好きのカノンは、実った作物を見ながら嬉しそうに言った。
虎柄ビキニで白いぼろきれを腰に巻き付け、金棒をかついだ姿で料理好きは無理があるけど、まあそれはそれ。
1回だけ「なんでいつまでも服着ないんだよ?」「せめて下だけでも履いてくれない?」と聞いたら「うっ…!」と赤くなって答えに詰まっていた。
後ろで難波が「そりゃその恰好やと、誰かさんの視線の滞在時間が違うもんな。すっかり味しめてからに……」と言ってひっぱたかれ、危うく貴重な商人ジョブが空の星になりかけた。
つまり誰か好きな人でもいるって事か。
まあカノンもお年頃だもんな、と俺は思い切り他人事の意見を言って、間一髪で俺まで空の星にされかけてしまった。
武芸スキルでなんとか回避したものの、これじゃ命がいくらあっても足りない。
こんど弁天様にお願いして、カノンのパワー値を下げてもらえないか交渉してみよう。
「今までずっとプランクトンの加工食ばっかだったしな。オキアミ固めたコロッケとかカツとか、ミドリムシのサラダキューブはうまいけど、あればっかだとちょっときついし」
「無限食料あるっていっても、どっちかといえばこってり系のパワー食ばっかだったでしょ? 栄養かたよって倒れられても困るから、今後はいろいろ作ったげる。べ、別に深い意味は無いけどっ……まったく全然、深い意味なんて無いけどっ……」
カノンはちょっと赤鬼みたいになりながら言うが、結局は好きな人への料理の練習台に俺を使おうという事か。なるほど許せん。
俺ならどんなまずいものでも味見させて罪の意識が無いという事であり、たいへんけしからんので、今後スキあらば嫌がらせのように仕事を振る事にしよう。
あと、建物も鶴の物質創造スキルで計画立てて『実行』を押せば、ものの数百秒のカウントダウンで具現化できた。
足りなかった居住施設や病院なんかもガンガン建って、避難区は一気に暮らしやすく、かつリッチな感じになったのだ。
ただこの物質創造スキル、敵がいない時はけっこう早く感じたけど、戦闘中だとこの数百秒がじれったいかもしれない。
そんなふうに思う俺だったが、そこで目の前に光が輝き、幼女女神……もとい弁天様が現れた。
「そろそろ避難区も整ったじゃろ、ここらで派手に、皆を元気づけてやるのじゃ!」
「元気づける??」
「そうなのじゃ、来れば分かる! 鶴よ、車のついたでかいステージをクリエイトせよ。イメージはこんな感じじゃ。あと衣装もこんな感じで。
弁天様は目を閉じて鶴に何かイメージを送っているらしい。
「ふみゅう、よく分からないけど分かった気がしますう」
鶴は適当な理解でうなずくと、弁天様のオーダー通りによからぬ物を具現化させていった。
こ、これは……俺も参加するのかよ、この狂乱の宴に。