時代劇も試行錯誤の積み重ね。それこそが歴史
心いくまでスキルを試し、ボコボコにした俺達は、土下座して子犬のように震えている悪党どもを見渡した。
頭にはタンコブが7~8段積み重なっており、21だか31だか思い出せないアイス屋のアイスのようだった。
「ま、せっかくだから印籠も出しとくか。みんな、一応サッと見てくれ」
俺は戦闘前に弁天様からもらった印籠を出して見せた。
「ええ、今さら…?」「なんで殴る前に出さないの…?」みたいなヒソヒソ声が聞こえたが、そういうシステム上の文句は水戸の黄○様に言ってくれ。
あれ印籠いらなくない?と思ったのは俺だけじゃないはずだが、そんな事は今どうでもいい。
そもそも印籠で黙らせる黄金パターンが定まったのはかなり話が進んでからで、初期にはほぼほぼ見せていなかったのだ……という豆知識もどうでもいい。
あの美しい殺陣が見どころの『○れん坊将軍』ですら、初期には悪党こらしめシーンが迷走しており、時には敵のボスを江戸城に呼び出し、圧倒的不利なアウェー状態に追い込んでから自分の正体を明かす……
という卑劣極まりない手を使った事もあるが、それすら今はどうでもいいのだ。
江戸城で将軍にニヤニヤされながら「オレオレ、分かる? で、どうする? 歯向かう?」と言われて勝てるわけないし、そんなもんただの弱い者いじめじゃい。
しらばくザワつく悪党たちだったが、まだ憤怒相の香川が「やかましいぞくるああっっ!!」と叫びながらスパーンと叩くと、たちどころに静かになった。
「香川、それはもういいから。で弁天様、この後こいつらどうします?」
俺が尋ねると、重ねた座布団にふんぞり返った弁天様が言った。
「もうスカンピン(※無一文)で利用価値もないしの。居るだけ邪魔じゃし、適当にスキルで木っ端微塵にしてしまえ。わらわは悪に厳しいのじゃ」
許可出たぞごるああっ、ひき肉にするぞくるああっ、と迫る香川におびえまくり、蛭間を始めとした悪党達は、額を床に叩きつけて謝った。
「なっ、なにとぞご勘弁をっ! もうしませんっ、もう金輪際悪い事はいたしませんっ! 残りの人生、世のため人のためだけに生きますし、」
「あーあー無駄なのじゃ、悪党の戯言など聞く耳持たぬ。鶴、さっさと邪霊であの世送りにせよ。地獄には話をしておくから、100兆年ぐらい苦しみ続けるのじゃ」
弁天様は心底メンドクサそうに言うのだが…
「そっ、そこをなんとかぁぁっっっ!! 助けていただければ、避難区に弁天様の像を立てまくります! 祝日も作って弁天様の日にしますし、お社もガンガン建てて…ヒイイイッッッ!!?」
「…な、何じゃと?」
弁天様は急に目を輝かせた。
座布団から飛び降りると、邪霊に囲まれて細くタテ長くなっている悪党達に歩み寄った。
「ぬしら、それはまことか?」
「はっはいっ、ヒイイイッッッ!?」
邪霊に触られると死ぬので、もう棒みたいに細くなって身を寄せ合う悪党だったが、弁天様が咳払いすると、邪霊たちはビクッとなって消えてしまった。
女神は取りつくろうように俺達に言う。
「オ、オッホン、よく考えたら殺す必要なかったのう。理由を説明するから、その心底見そこなったみたいな目をやめるのじゃっ」
「えーっっっ」
「しょうがないのじゃっ、信仰心が無いとこの世で奇跡が使いにくいのじゃ! そのために社はゼッタイ必要なのじゃ!」
弁天様は地団太を踏んで抗議するが、そんな俺達の後ろで、蛭間が悪い顔でニヤリと笑っていたのだ。
お前、まだ懲りてなかったのか。もうやめとけよ、どうせ次のコマでひどい目に合うぞ?