ケツの毛はお金にならない。誰も買わないはずさ(特殊な人をのぞく)
いっぽう香川はといえば、ニョキニョキとうどんをあやつって敵を縛り、スキルの『証得』を発動させた。
あのあと弁天様が出してくれたスキルの説明書(※2024年 天界出版社 税別1580円)によると、確かお釈迦様の加護スキルだったな。
目に見えない色んな真理を悟る・気づくって事で、悪党の罪状とかもイメージで分かるらしい。
香川の頭上のウインドウに、奴らが今までしてきた悪行三昧が映し出された。
困窮する人々の食料配給を削って売り飛ばしたり、補助金を自分のものにしたりして、大勢の人を泣かせてたようだ。
たちまち香川のスキンヘッドにビキビキと血管が浮かび、真っ赤な顔の憤怒相…いや明王相?になった。
「くるあぁああっっ、貴様ら罪もない人々にっ、しかも子供やお年寄りにまで何してくれとんじゃあああっっっ!!!」
完全にキャラ崩壊した香川は、固有武装らしき座禅用の警策棒でバコスカぶっ叩いている。
力加減が強すぎて、叩かれるたびに右へ左へ人が飛ぶ。
ゴシャアッ! ベゴッ! ギャリギャリギャリギャリ……ゴッパァ!!
吹っ飛んだ人がスライディングして壁にぶつかり、まるで交通事故みたいだ。
オウ香川ぁ……あんま気合い入ってっとよォ、煩悩を消す前に命が”飛ぶ”ゼ?
ひでェやられよーだけどよ……悪党だから”自業自得”だかんナ?
キレて白目になってる香川の顔に、なぜか!?マークが重なって見えるのは気のせいか。
そう言えば、近所のラーメン屋にあったんだよなあの漫画。
元ヤンというか、素手で猪殴り倒せる母さんが、よく俺を連れてってくれた。
「ぎゃあっ!」「ひいいっ!?」
もはや破戒僧と化した香川は誰にも止められそうにないので、俺は難波の方を気づかう。
こいつは商人系ジョブだから、戦闘は一番苦手なはずなんだが…けっこう強いな。
そりゃまあ勇者パーティーのサイフ事情がこいつにかかってるから、簡単に死なれたら冒険が成り立たないんだろうけど。
固有武装??のハリセンをかざすと、常人よりはるかに高い身体能力でごり押しし、バンバンバンバンひっぱたく。
速い・強い・一撃が重い、超高速の連撃だ。
大阪の人はどんなに武器を習ってなくても、ハリセンだけは装備したとたん使いこなせる……と聞いた事があるが、今その伝説が証明されたわけだ。
「んまっ、暴力的なお笑いはけしからんザマス!」と抗議の電話が来ても、「いや武器ですから。戦うのに暴力的もクソもないですから」と一蹴できるぞ。
…だが難波の攻撃の恐ろしさはそれだけじゃなかった。
宮島の如意棒(※両端にバット付き)、カノンの金棒、香川の警策棒に比べ、一番痛くなさそうなハリセンだが、その実、恐ろしいスキル効果が秘められていたのだ。
スキル『ケツの毛までむしり取るで』が発動しており、1発ごとに相手のそばにマイナスの数字と¥マークが表示され、逆に難波のそばにプラスで表示される。
つまり成敗しながら、相手の資産を没収しているのだ。
うわあ、こりゃホントにえげつないスキルだわ。
「ひ、ひーっ!?」「いやああああっ!」
金持ちにとってこんなに嫌な攻撃は無く、私利私欲を煮しめて積み上げた資産が根こそぎ、かつ合法的に奪われていく。
もし「ハリセンでひっぱたかれたら預金残高が減りました!」なんて警察に言っても、「お前は何を言っているんだ」とハイキックで一蹴されるもんね。
そもそも警察も弁天様には勝てないし。
「しゃっ社長、我が社の持ち株が大暴落を!」
「我が社保有の土地が、大量の牡蠣…に手足が生えたものに占拠され、新設避難区の工事が進まず! 相手方が激怒して、売買契約が白紙になりました!」
「あああっ、なぜか我が社の資産を誰の目にもわかるように視覚化した棒グラフがっ! あーあー縮む、あーあーあーあーっ!」
棒グラフはビルの解体爆破のようにすごいスピードで縮み、もはや阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
怖いわあ、この関西弁の栗毛の子怖いわあ。
そりゃけっこー可愛い顔してるしグラマーだけど、○ングボンビーなみに怖いよ。
「な、難波、そのへんでいったんやめといたらどうだ?」
たまらず俺が止めに入るが、『ケツの毛までむしり取るで』発動中の難波はバーサク状態であり、偉いさん達の資産は恐ろしいケタのマイナス、膨大な負債に突入していた。
何回生まれ変わっても返せないだろこれ…