メッセージが急に出てくると怖い。どうしてもクリック出来ない
現実に戻ったはずの俺の前に、妙なメッセージが現れる。
『著しい生命の危機を感知しました。神器・破邪の鎧を発動し、餓霊を討伐しますか?』
(いや、何が破邪の鎧だよ。ネトゲと一緒にするな……てか、まだあの幻覚が混じってるのか?)
遊んでる暇ないんだよ、と焦りながらメッセージを押しのけ、俺は操作レバーを握った。
空中で体勢を立て直し、なんとか機体を着地させる。
目の前には俺を機体ごと蹴とばした相手……つまり身の丈20メートル近く、かつ横幅もがっしりとしたバケモノが仁王立ちしている。
その形状から『オークキング』と呼ばれる存在だったが、肌は死体のような青紫だったし、質感はゾンビのようにどろりとしていた。
……そう、奴らは形がファンタジー世界のモンスターに似ているからこうした名で呼ばれるものの、どうも生物ではなくゾンビに近い。
だから痛みにも極めて強く、ちょっとやそっとじゃ怯まないのだ。
味方が必死に射撃しているが、オークキングの強力過ぎる魔法防御……輝く電磁バリアの前に、そのことごとくが弾かれてしまう。
でかくて強くて魔法防御まで使う化け物。更には体から霧を噴き出して、それが濃くなればこっちの通信もレーダーも使えない。
いくら何でもクソゲー過ぎるし、さすがに反則過ぎないか?
……そこで再びあのメッセージが目の前に浮かんだ。
よく見ると細かい文字で、様々な情報が追記されている。
『至近距離でオークキング以下35体を感知しました』
『推奨対抗策:神器・破邪の鎧を発動しますか?』
『破邪の鎧LEVEL1(仮契約制限あり)限界活動時間360秒』
『使用可能武装:デフォルト オーラバレット×2 オーラブレード×2』
「いや、だからこれ邪魔だって……!」
俺は気合いで目の前のメッセージを振り払い、必死にオークキングへの反撃手段を探す。
だがこちらの機体は、せいぜい身長10メートル程度の大きさだ。
モニター端に表示される機体の模式図は、ネトゲでいうところの鎧騎士をシャープにしたような姿だったが、今はどこも警告表示で埋め尽くされていた。
装甲もその下の人工筋肉もボロボロで、もうすぐ動けなくなるだろう。
(味方はほとんど応答なし。このままじゃ全滅する……!)
焦る俺をよそに、大破した自機は派手な警告音を響かせている。
やがて目の前のオークキングは、巨体からは想像も出来ない速さで突進してきた。
俺は必死に自動小銃で攻撃したが、相手は構わずこちらに体当たりした。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「ぐっ……!!!」
凄まじい衝撃が走り、一瞬意識が遠のきそうになる。
これまでか……? ……いや、俺には雪菜さんも隊の皆もいる。子供を含めた被災者だって大勢いる。ここで死ぬわけには……
『警告! 極めて甚大な危険を感知! このままでは死亡します。神器・破邪の鎧を発動し、敵を討伐しますか?』
「いい加減しつこいんだよっっ!!!」
俺は再びそれを振り払おうとしたが、何度振り払っても、警告メッセージは目の前を埋め尽くしていく。
前が見えない。警告音とメッセージが、何度も何度も耳にこだましていく。
このままじゃ死ぬ。みんな終わりだ。なんとか、なんとかしなきゃいけないのに……なんだこの邪魔なメッセージは。
モニターがぶっ壊れたのかも知れないが、前が見えない以上、もうどうにもこうにもならない。
何なんだこのクソゲーみたいな世界は。そんなに俺らが憎いのか、そんなに俺らを殺したいのかよ……!
次の瞬間、俺はやけくそになって叫んでいた。
目の前の警告表示を鷲掴みにするように手を伸ばし、無我夢中で叫び続ける。
「もう、なんでもいいから持ってこい!!! こいつらぶっ倒せるんなら、今すぐ俺に見せてみろ!!! どうせ何もかも……」
…………だが、その時だった。
『了解しました。神器・破邪の鎧を起動。討伐戦闘を開始します』
先ほどのメッセージが現れ、今度は音声付きで読み上げられたのだ。




