一度はやりたいあのシーン。旗本(はたもと)に徳●という姓はないけど
どんな時代のどんな場所でも、悪党どもは湧いてくる。もちろんこの高輪半島避難区も例外ではなかった。
俺達がいつ死ぬかわからない生活をしてる間、区の有力者やお偉いさんは、巨大な船や島嶼部の超・高級避難区で、贅沢な暮らしをしていたのである。
そんでもってここは、豪華客船みたいな船に作られた、船上議事堂の控え室だ。
見るからに悪人面のおっさんおばさん(BMI値:肥満~やや肥満)が集まり、椅子の耐荷重チャレンジのように座っていたし、そばのテーブルには見た事もない高級食材やら酒やらが並んでいた。
「いやあ、今期の配当も順調で。これも蛭間さんのおかげですよ」
「いえいえ、銭河原さんのお知恵があってこそで」
「陸では化け物が暴れておりますが、高級船の上は安全。むしろ化け物が暴れるほど、各地の土地が値上がりしますからなあ」
「わたくしも新設避難区に土地を貸してるんですけど、もう笑いが止まりませんですことよ?」
「オホホ、もう少し締め付けても反乱など起こりませんわ。配給は少なく、避難民の労働時間はうんと増やして。何せ非常時でございますからオホワホホ、オホワホホワオッ!」
他の連中も釣られて笑い始める。
ワハハハ、ワハハハハハ…!
いかにも時代劇でシバかれそうな会話であり、一目見ただけで9割の人間がキックしたくなる絵面だった。
やると逮捕されるからやらないけどね。普通はね。
やがて蛭間とよばれた、一番偉そうなおっさんが言った。
「いや、すべて我々の狙いどおりですなあ」
『……そうかな?』
「だっ、誰だ!?」「何やつ!?」
妙にエコーがかかった俺の声に、おっさん達は慌てふためく。
パーパパ~、チャチャーチャチャ~、チャーチャーチャ~チャチャ~……
何れん坊の将軍かは偶然にも忘れたが、神使たちが奏でる時代劇のメロディーとともに俺は進み出た。
小さい頃じいちゃんと見てて、このシーン1回やって見たかったんだよな。
これが出来るなら勇者も割といい商売かもしれない。
人生最大の見せ場とばかりに、俺は歩きながら決めゼリフを語っていくのだ。
「蛭間大器……その他モブの小悪党ども。罪もない多くの人を苦しめ、私腹を肥やす貴様らの悪行。例え法が見逃しても、」
「この弁財天様がぜったい許さないのじゃ!!」
「あああああっ、一番やりたい決め顔の所をっ!?」
突然割り込んできた幼女女神に、俺はぜんぶ持っていかれた。
せっかく他のメンバーとのジャンケンバトルに勝ち抜き、噛まないようセリフを練習したというのにッ…!
ともかく悪党どもは動揺している。
「べ、弁財天だと?」
「そうなのじゃ! 財運招福をはじめ、ありとあらゆるご利益がある、チョー可愛い神様なのじゃ。わらわが知った以上、貴様らには今後いっさい幸運をやらぬ。ド貧乏の食うや食わず、地獄の余生にしてやるのじゃ!」
弁天様はここぞとばかりにドヤ顔で胸をはる。
金持ちほどゲン担ぎが好きなので、相手はショックを受けていたが…やがて蛭間のおっさんが言った。
「え、ええい、弁天様がこのような幼女のはずがない。ものどもであえ、であえっ!」
このバカが、早めに謝ればケガだけはしなかったのに…と思ったが、俺らとしてはストレス解消出来るから助かる。
「ようし、そうこなくてはの。神使たち、ミュージックスタートなのじゃ!」
チャーチャーチャー、チャチャチャチャチャチャ、チャーチャーチャー!
今度は超アップテンポの音楽に変わり、いかにも戦いに相応しい感じになった。
『●れん坊将軍 殺陣』で検索すると出てくるかもしれないあの曲だ。
いいぞ、この曲ホント好きだわ。作ってくれた先人達ありがとう。
元ネタも名作だから、平和になったらまた見よう…! などと思いつつ、俺は迫り来る護衛たちを迎え討つ。
俺の戦闘スキルが一番多いし、まずは俺1人で試してみて、大体分かったら隊員達が参加する手はずなのだが……気分が乗ったら全員倒しちゃうかも知れない。
※ここでCM前のアイキャッチが入る(俺の決め顔でカーッと効果音が鳴るタイプの)