可愛いけど役に立つ、それが神使。モフれれば何でもいいけどね
「これで加護はそろったな。実際の戦いでは、男連中と鬼娘が」
「あーーっっ!!! カノンで!!!」
カノンはやっぱり絶叫して、弁天様の話をさえぎる。
「うるさいのう。男連中とカノンが前に出て、後方から難波と鶴がサポートしていく感じじゃな。あとは実際にやって覚えていけばよい」
『はーい!!!』
俺達は完全にオモチャを与えてもらった子供の気分で、もうやりたい放題やる事しか考えてなかった……が、そこで空中から小さな生き物がわらわらと落下してきた。
子犬サイズの狛犬、キツネ、牛、猿。そしてそいつらの何倍も大きくてずんぐりした龍。つまりは神の使い達だ。
「弁天様、ワイらの出番まだかいな」
「すまん、ぶっちゃけ忘れておったわ。冒険を助ける神使達を紹介するぞ。整列!」
弁天様の号令に、神使達は一列に並んだ。
「まずは八幡神社の狛犬たちのリーダー、ガンパチこと宇佐美狛八。武神の使いじゃから、ここ一番の勝負所のアドバイスもしてくれる」
「ワシら八幡・狛犬連合がおる限り、安心してええんじゃい!」
片目に眼帯を付けたワイルドそうな狛犬は、前足を上げてアピールした。
でもちっこいから可愛いし、あの鬣はモフりたいぞ。
「そして稲荷神社のキツネ達の筆頭、伏見コン三郎。商売や復興を助けてくれるぞ」
「せや、商いの事ならワイにどんと任せとけや!」
キツネは元気よく飛び上がり、ふわふわの尻尾を振って見せた。
同じ関西弁なので、難波はたちまち気に入ったらしい。
「鳴っち、この子きっとええ子やで。関西弁に悪い子はおらへんもん」
「今んとこ2分の2で例外なんだが」
「何やとこのとうへんぼく!」
「うちも許さへんで! コンちゃん、やったりや!」
邪悪な関西弁極悪コンビから逃げる俺をよそに、神使達の紹介は続く。
「次は天満宮の神使たる、天野牛太郎。言わずと知れた学問の神の使いじゃから、いい感じに知恵を出す」
「天神様の名にかけて、モウレツに頑張ります!」
牛は筆を振り上げて嬉しそうに言ったが、そんな牛を飛び越えたサルが、空中で回転しながら着地した。
『森の石松 イラスト』で検索したら出てきそうな旅装束を着て、表情もなんかシブい感じだ。でも小さいからね、どうしても可愛く思えるよね。
「それでもってナイス着地のこの猿は、厄除けで名高い日吉大社の使い、ウキ松こと森松まさる。年がら年中、呪いとか厄を祓ってきたから、敵の呪術に関する知識が深い」
「そっち方面なら任せておくんなせえ。災いサル、の日吉大社ですぜ!」
もちろんガンガン任せるぞ。俺がその分ラク出来るから。
「最後は……こらこら、トレーニングは後にせよ」
弁天様にうながされてバーベルを片付けるのは、例のずんぐりしてマッチョな龍だ。
「こやつが龍牙辰之助、開運や立身出世で知られる龍神社の使いじゃ。見ての通り筋トレマニアじゃし、困った時は体で助けるぞ」
「この筋肉にかけてお前たちを守ろう! 筋肉リュウリュウ、昇り龍だ!」
龍は次々筋肉ポーズをとりながら、嬉しそうにそう言った。
てかなんでマッチョの人ってこういう時笑顔なんだろう。
別にいいけどね。マッチョがポーズしながら真顔だったら怖いもんな。
「こやつらはすばしこいし、人の入れない狭い所も楽々入れる。偵察役にぴったりじゃし、いざとなれば大きくなって、お前達を乗せて走れる。あとは配下の神使を沢山呼べるから、ザコが多すぎて困る時には相当助かるぞ」
「せやで人間さん、ワイらはメッチャ優秀なんや。ワイらが来たからには、日本奪還なんてお茶の子さいさいやで」
キツネがそう言うと、神使達は絶妙なチームワークで歌って踊り出した。
ゆーめだけどゆーめじゃない~♪ フゥフゥ♪
「優秀な割には、著作権をガン無視するのは何とかならないのかよ」
奴らはひとしきり作曲者の権利を踏みにじると、ガンパチとか呼ばれた狛犬が前足を上げた。うむ、肉球がピンク色で大変よろしい。
「ところで弁天様、さっきから声をかけとったんですが、この土地の有力者どもが来ようとしないんですぜ」
おお、確かそんな話がさっきあったか。
この避難区の有力者と、今後の方針を話し合うとかなんとか。スキルを貰ったテンションですっかり忘れてた。
だが弁天様は怒りもせず、悪い顔でニヤリと笑った。
「それは好都合じゃな。こやつらに渡した能力も、使わなければ慣れぬからのう。さっそく実践で覚えるのじゃ」
……ああ、これは多分酷い目にあうだろうな、と呟く俺に、全員が頷いて同意するのだった。
そんな俺達をよそに、弁天様はカメラ目線で謎のセリフを言う。
「次回、いよいよ悪党どもをしばき倒す成敗パートの始まりじゃ! 乞うご期待なのじゃ!」
分からないなあ、誰に向かって言ってるんだろうなあ、などととぼけつつ、俺達はぞろぞろと弁天様について行った。
……あと、牡蠣はいつになったら帰るんだろう。さっきから俺の肩に乗って、いい顔で腕組みしてるけど。