災いサル、そしてうどんも食う
「まどろっこしいので、お前たちはまとめて加護をさずけるぞ。それっ」
めんどくさがりな弁天様の言葉通り、隊員達のステータスもそれぞれ空中に表示された。
「まずは宮島武志、お前は広島出身なのでうんと贔屓したいところじゃが、姉に怒られるから別の神の加護となる」
ステータスを見てみると、素早さとか器用さのステがメチャクチャ高く、ネトゲで言えばレンジャー役か。
「基本は厄除けで有名な日吉大社の加護で、『厄災感知』と『障壁解除』じゃ。これがあればどんな罠も見破るし、鍵やトラップも全て解除できる。どんな危険も素早く対処、パーティー全体を守る大事な役目じゃ」
「うわ、俺なんか凄いじゃんか隊長。そうだよな、親父も二塁手で器用だったし、一番足が速かったからな」
宮島の親父さんは野球の名選手だったので、こいつも器用さが飛びぬけてるのかも知れない。
うんうん、俺だけに負担が偏らないから助かるぞ。頼りにして働きまくってもらおう。
「あとは天孫を道案内した猿田毘古神の加護もあるから、『道ひらき』……つまり安全な脱出ルートも直感で分かるし、探し物や犯人を追跡するのも得意じゃ。悪党を追い詰めるのには欠かせぬぞ」
「すげえよな、俺すげえよな隊長!」
「あ、うん凄いけど、日吉神社って神使が猿だろ? 猿田彦神社も名前がそうだし……身軽な孫悟空キャラみたいな感じなのかな」
「それでよいのじゃ。あとは『疾風』、これは単純明快じゃの。瞬間的に加速して援護する、チョーかっこいいスキルなのじゃ」
「うわあ、俺頑張るぜ!」
固有武器なのか何なのか、バットが両端についた如意棒のようなものを振り回す宮島をよそに、弁天様は説明を続ける。
「固有の無限食糧は、お好み焼きともみじ饅頭じゃな。もみじ饅頭はわらわの大好物じゃから、うんとお供えしてもよいぞ?」
女神はさっそく饅頭を出してもらい、俺達も食べながら話を聞いた。
「次はスキンヘッドのお前、香川芳春。お前は親が坊さんじゃし、まずは空海の加護が……」
「ええっ、空海!? あの弘法大師の!?」
熱心な仏教徒の香川は、食い気味で質問した。
言わずと知れた仏教界のスーパースター、そりゃどんな神さんの加護より嬉しいだろう。
「そうなのじゃ。わらわは仏教と神仏習合して2倍人気者になったし、神にも仏にも顔が広いのじゃ。空海だけでなく、他の仏の加護も頼んであるぞ?」
弁天様は過去イチ得意げなドヤ顔で腕組みする。
「まずは『遍照』、これは白い光で味方の負傷を回復する。次に『瑠璃光』は群青色の光を当てて、薬がなくても疫病を治せる。薬師如来の気の色じゃしな。『証得』は真理を導くスキルじゃから、調べもので行き詰った時に都合よくひらめいたりする感じじゃ」
「ネトゲで言えば賢者ですう、アドベンチャーパートで役立つですね♪」
「そうなのじゃ鶴。これらのスキルは如来や空海由来じゃから、どんな仏教徒でも与えられた事のないチートじゃぞ。それだけ仏が期待しておるのじゃ」
「うおおおっ、俺頑張りますっ!! 絶対みんなを守るぞぉぉっ、そんでもってみんながうどんを腹いっぱい食えるようにして、お遍路さんも復活させるぞ!!!」
香川はスキンヘッドを光らせ、血管切れそうになりながら叫んだ。
「そう、じゃから無限食糧は『うどん』にしてある。あとは天満宮殿も讃岐を治めておったし、讃岐と言えば金毘羅神社じゃ。よって、どんな難解な暗号も読み解く『菅公眼』をはじめ、奪還した地域の土地を元気にし、『五穀豊穣』で大豊作にするのも可能なのじゃ」
「うおおおおおっっ、天神様に金毘羅さん、どっちも讃岐のカリスマだああっっ!!! 俺頑張る、頑張るぞ隊長ぉおおおっっっ!!! 弁天様ありがとお御座いますっっっ!!!」
「やめろ香川、今燃え尽きたら何もせずに炭になるって」
気合いが入り過ぎて炎に包まれる香川を、俺達はあわてて止めた。
こいつはちょっと真面目過ぎだしイジラレキャラだけど、根っから優しくていい奴なのだ。
炎の中からニョキニョキとうどんが生まれているので、俺達はめいめいどんぶりに取っては、コシのある讃岐うどんを楽しんだ。おいしいうどんは世界を救うからだ。




