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魔族の胃薬・胃がラックダークネス(用法・用量を守ってお使い下さい)

(うっ、うそおおおおおんっっっ……!? 空気、重っ……!!!)


 意気揚々と広間に乗り込んでおきながら、刹鬼姫は早くもげんなりしていた。


 予想していたその場の空気と、現実があまりに違い過ぎていたからだ。


(魔族の誰かが失敗したんだぞ? 普通こういう時はからかったり、バチバチケンカするもんだろがよっ! それがなんでこんな葬式みてーな雰囲気になってんだっ!)


 刹鬼姫の脳内予想ではこうだった。


 広間についた自分ら鬼は、その場にいた魔族の一派・土蜘蛛(つちぐも)どもを口汚くからかう。


 とーぜん土蜘蛛達は怒るはず。


 それをこっちも迎えうち、普段の恨みを晴らすのだ。


 もちろん殴りながら言う悪口も道すがら考えてきたし、噛まないように早口で言う練習もしてきた。


(頭が良くてエラソーにしてる土蜘蛛連中だ、多少バカにしたってバチなんぞ当たるか。そう思って楽しみにしてたのに……なのに何なんだよこの有り様はっ……!!!)


 石造りの円卓に座る魔族の面々は、全員眉間にしわを寄せて黙り込み、大量の胃薬をわんこそばのようにザラザラと流し込んでいた。


 足りなくなった胃薬は、使い魔のちっこい邪竜が、ぴこぴこ羽を動かしながら運んで来るのだ。


「………………」


 円卓から少し離れた高所の椅子には、自分たち魔族を指揮する邪神の仄宮(ほのみや)様が、眉毛をひくつかせながら座っている。


 派手な着物にどぎつい化粧。目の周りには濃いふちどり。


 人間で例えれば、江戸時代の花魁(おいらん)……が毒タイプに変化したらこうなるだろうという感じの女邪神だったが、こちらは邪神の中でも最強の魔王・常夜命(とこよのみこと)の妻なのだ。


 善なる神々の封印によって、今も地の底に封じられている多くの邪神と同様、彼女も魂の大部分は地の底にあり、今ここにいるのはわずかばかりの分霊(わけみ)だった。


 ……それでもこの場にいる魔族を皆殺しにするぐらい朝飯前だったし、実際それをやりかねない程、魔王の后は苛立っていた。


 だからこその無言であり、だからこその胃薬爆食祭りなのだ。


(かっ、帰りてえ……さっさと里に帰りてえっ……! そもそもこういう場に出るのは姉上の役目だったはずだろうが! それを自分だけ里抜けして、面倒事ぜんぶあたしに押し付けやがって……!)


 刹鬼姫の怒りは、500年前に別れた姉に向けられ始めたが、そこでとうとう仄宮様が口を開いた。


「10年……この戦いも、はや10年が経つ。そうじゃな皆の者」


「!!!!!!!!!!」


 全員がびくっとなって、それからぶんぶん頷きまくる。


「わらわの考えでは……もう少しはよう決着(けり)がつくはずであった。善神どもを結界で惑星(ほし)の外に追い出し、地上でお前達が人間どもを蹴散らす。そして大地の封印を砕き、我が夫の常夜命(とこよのみこと)を復活させれば、あっという間にこちらの勝ちになるはずだった。そうであるな?」


 全員がやはり頷きまくる。もちろん刹鬼姫たちもだ。


「それがどうしてここまで手間取っているのか……挙句の果てに、弁財天とその使いたる勇者と聖者まで地上に現れたのか。誰かわらわに教えてくれぬか」


 この場にいる魔族は、一見人間のような土蜘蛛と熊襲(くまそ)、逆にいかにも魔族といった見た目の鬼や獣人達だったが、そんな見た目に関係なく、どの魔族もビビりまくっていた。


「そもそもがこのわらわも、異界から来た客人の力を借りて分霊(わけみ)が出てこられた。惑星(ほし)を覆う結界にしてもそう、地上を攻める軍勢もそう。あまり借りっぱなしでは面子が立たぬと、わらわの側近たる邪霊・荒金丸を土蜘蛛に与えたが、それもまんまと倒される始末」


 刹鬼姫が土蜘蛛を……すらりとして手足が長い黒衣の集団を見ると、全員顔は葬式だった。

 先頭にいるやや小柄なおっさん(※こいつが爪繰(つまぐり))に至っては、恐怖からもう泣き出している。


 普段の刹鬼姫なら笑うのだが、今は自分だって一緒に泣きたい。


 ……だがそこで、『異界の客人』から助け船が入ったのだ。


「まあその辺りでよろしいではありませんか、仄宮殿。配下の方々も怯えていらっしゃる」

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