一方その頃、魔王の配下は
真琴たちが最初の勝利に浮かれていた頃。
日本を襲った闇の勢力も、それなりの対処を始めていた。
あの巨大なゾンビ風のモンスターをこの世に召喚した連中が、大人しく引き下がるわけがないからである。
★ ★ ★
「ははっ、土蜘蛛どもがしくじりやがった。これで鬼神族に運が向いてきたじゃないのさ」
どかどかと石段を踏みしめながら、刹鬼姫はそう言った。
ややウェーブのかかった赤髪と、そこからのぞく2本の角。
上半身は原色の着物で、下半身はスソをしぼった動きやすい袴。
腰には虎の毛皮を巻き付け、手には分厚く巨大な太刀を持っている。
牙がのぞく口元を笑みに歪める様は、野生的な美貌と言えなくもない。
彼女はいわゆる鬼の一族、その中でも始祖の血を引く姫的な立場だが、自他共に認めるケンカ好き……もとい武闘派だった。
500年前に姉の七月姫が里を抜け、行方不明になって以来、鬼神族の実質的なリーダーなのだ。
「どういうコネを使ったかは知らんが、魔王の后たる仄宮様の……疫病爪紅比売様の直属の邪霊・荒金丸まで使わせてもらっての失態。もうなまなかの事で巻き返し出来ないねえ」
嘲笑う刹鬼姫に、隣を歩く小柄な童のような鬼が答える。
「土蜘蛛の中に、仄宮様の遠縁の血が混じった奴がおったじゃろ。爪繰とか言うたか、あいつのコネじゃ」
黒髪を長く伸ばし、くりんとした目が愛らしいその鬼は、名を紫蓮。
角が無ければ文句なしに可愛い子供なのだが、肩には大人数人がかりでも動かせないような巨大な斧をかついでいた。
「ああそれでか紫蓮。土蜘蛛にしちゃあ、妙にちんちくりんな見た目だと思うとったんじゃ」
後ろを歩く巨体の鬼が、頭をボリボリかきながら頷く。
こちらはいかにも絵本の鬼のような見た目で、太く巨大な金棒を、傘でも持ち歩くかのように軽々と運んでいる。
彼は剛角といい、鬼神族でも1、2を争う実力の持ち主だ。
「そう思うのは勝手だが、絶対に口に出すんじゃないよ? 仄宮様に聞かれれば、いくらあんたでも八つ裂きにされるからねえ」
刹鬼姫はそう言って、最後の数段を身軽に飛び越えた。
長い石段を上った先には、巨大な岩城がそびえていたのだ。
「さあ、土蜘蛛どもの青い顔を拝んでやろう」
刹鬼姫はせせら笑い、乱暴に岩城の中に入って行った。