色々と弁天様に騙された
荒金丸との戦いを終え、避難区に戻った俺だったが、そこでさらなる衝撃が待っていた。
「や、やられた……まるっとまんまと騙されたっ……!!!」
がっくりとうなだれる俺をよそに、幼女女神はふんぞり返っている。
「どうじゃ、恐れ入ったじゃろう。この弁財天様のやる事に間違いはないのじゃ♪」
何を騙されたとか、もう説明するのもしんどいのだが、目の前の鶉谷司令は満面の笑みで外人さんと踊りまくっているのだ。
「見て見て鳴瀬くん、こんなに元気に! ワンモアセット、ワンモアセッ! ええい生ぬるいっ、更にバーベルのっけ盛り、400キロ担いでから三日三晩ぶっ通しでミリオンセッ!!」
「いやさすがに死にますて」
↓つまりこういう事だった(怒り)
「なんじゃその不満げな態度は、わらわは嘘は言うておらんぞ? 勇者の契約をしても、『お前には』治療のチート能力は与えん。そういうのは『勇者の管轄外』じゃ。ただし鶴は聖者じゃからの」
「そうですう、この腐れ乳は正直この世にいらぬゴミッ、むしろ真っ先に討伐クエストしたいですけど、黒鷹が悲しむからやむなく治療したですうっ……! あな恨めしやのステェタスウィンドオォッ……!」
鶴は血の涙を流して悔しがりながら、ステータス画面を開いてみせる。
そこには『治癒の奇跡・LEVEL1(邪気の浄化)』と書かれており、つまりは司令の体に染みついた邪気の影響を軽くしてくれたのだ。
「まだLEVEL1じゃから、完全に邪気祓いしたわけではないが、病の進行は止められる。つまり鶴とお前がわらわの元で戦う限り、雪菜は死なずに済むというわけじゃ♪」
弁天様は笑●よろしく山積みの座布団でふんぞり返り、得意の琵琶をジャーンと鳴らした。
「さすがわらわ、ぬかりがない。こういう嬉しはずかしドッキリな演出もまた、わらわのロックな所なのじゃぞ」
「ろっくでもないの間違いじゃないすかね」
「黙れっ、重ね重ねバチ当たりな勇者め!」
怒った女神が琵琶のバチをぶん投げてくる。
いつもなら楽に避けられる速度だったが、目の前で上下左右に揺れまくる胸に気をとられた俺は直撃を喰らった。
倒れる、そりゃ倒れるが……精神的には痛くない。むしろ大幅に得した気分だ。
「ああっ、鳴瀬くん大丈夫!?」
そして更なる追撃が襲う。
「!!!???」
駆け寄ってきた雪菜さんに抱えられ、少し汗ばんで熱い双丘をワンツーパンチのように時間差で押し付けられた。
一発目の左で顔が跳ね上がり、意識が飛びかけたところに神速の右。
俺の脳は頭蓋の中で数千回は揺れたし、足はとろけて立ち上がる事が出来なくなった。
動かない手足との神経接続は切られ、代わりに全身の感覚神経が顔の皮膚に接続されていく。
魂の根本からとろけ、今の自分が人の形をしているかどうかも分からないが、とにかくそこは天国だった。
ナイーン、テーン! ナッカーウト! カンカンカンカン!(ゴング音)
薄れゆく意識の中で、人生のテンカウントが聞こえた。
倒れたまま動けない俺を、眼帯を付けた出っ歯のトレーナーが揺り動かしている。
いいんだ、もうほっといてくれよ。ここが俺の人生の目的地だったのさ。
俺はうわごとのように呟いた。
「こっ、このボリューム、ハリ、やわさ、そしてコク……!」
何がコクじゃ、とツッコミを入れる女神をよそに、鶴は「この腐れ乳があっ、もぐーっ、モギュゥゥッ、今日と言う今日はもぎ滅ぼしてくれるわあぁっっ!!!」などと猛っている。
そんな鶴の首根っこを片手で掴んで止めながら、弁天様は気楽に言った。
「さあ、それではいよいよ日本奪還のスタートじゃ。とりあえずわらわのお膝元となる領地づくりにかかるのじゃぞ」
「領地作り?」
「何言うとるか分からん。これ雪菜、少し乳圧を緩めい」
「いや、別にこのままでも」
「アホかっ、話が進まんではないか。ほれ雪菜」
「今まで散々看病してもらったし、もうちょっと介抱してたいんですけど……」
雪菜さんは嬉しくて死んじゃいそうな事を言いながら、その大地を揺るがす超強力・二連重爆撃機を俺の顔から浮上させた。
「ああっ……!」
あまりの名残惜しさに、すがるように両手を上げてしがみつきたい俺だったが、それをやると鶴が完全な殺戮者になるのでやめておこう。
……いや、何か自分で言うのもあれだが、俺物凄くアホになってないか? やはりあれか、あの素晴らしいあれがあれなせいか。
駄目だ、語彙まで乏しくなってる。
「ともかくまずは、戦いに向けた拠点づくりじゃ。あの神器の鎧を含めたチート能力は、国守る勇者と聖者の力じゃからの。つまり戦いの経験値プラス、人々を幸せにすればするほどパワーアップするのじゃ」
「えっ、でもあの時LEVEL最高になってなかったですか」
「あれは勇者の契約ボーナスで一時的なもの。長くは続かんし、しかもわらわの思う成長図じゃ。本当のレベルマックスは、お前と鶴が日本を取り戻す過程で育てていくのじゃ」
「えーメンドクサイですぅ、最初からMAXで無双すればその分遊べるですぅゴフゥッ」
ヘラヘラしながら悪態をつく鶴をデコピンで吹っ飛ばしながら、女神はバチを扇子に変えて掲げた。
「さあ、それでは領地経営を始めるぞ。この後どうやって日の本を取り戻していくか、この土地の有力者と、お前の隊の仲間も交えて軍議するのじゃ!」
えーそんなんいいからガチャの続きぶん回すですぅ、とヘラヘラする鶴が、再びデコピンで「きゃん」と吹っ飛んだ。
鬼の形相で乳をもごうとする時とは違い、こういう時の悲鳴だけは可愛らしいのだが。




