神雷よ、闇を切り裂け!
「あっ黒鷹、ザコが散らばり始めましたよ!」
鶴が指差すとおり、荒金丸が逃げ出すと同時に、配下のモンスターが四方八方に散らばりながら、避難区に攻め込んできたのだ。
「そっか、手下を攻め込ませて、俺たちが対処してる間に逃げようってのか……!」
ずる賢い敵ボスの悪知恵に、俺は歯噛みした。
「まずいぞ、これだけの数だ。動けるのはほぼ俺たちだけだし、すぐに全部倒しきれない。その間に大勢喰い殺されちまう……!」
だが、慌てる俺たちをよそに、女神は涼しい顔で言った。
「案ずるな、お前は神に選ばれし勇者じゃ。その力を甘く見るでない」
「えっ……?」
俺と鶴がキョトンとしていると、女神は勝手に機体に命じた。
「さあ心神、神雷の用意じゃ!」
『了解しました。オーラバレットLEVEL/MAX・神雷キャノン・チャージ開始。臨界まで残り30』
「ちょ、ちょっと待ってくれ、神雷って何なんだよ!?」
勝手に納得する鎧に、俺は思わずツッコミを入れたが、女神は得意げなドヤ顔で答える。
「見れば分かるのじゃ。案ずるな、あんな外道の浅知恵など、残らず薙ぎ払ってくれるわ」
どういう事だよ、と混乱する俺をよそに、機体は左手を高くかかげる。
その手の先には、バズーカ砲みたいな太い砲身を持つ銃が現れて、その銃身が黄金色に輝いた。
「ま、まさか……」
真上に向けた砲口に、巨大すぎる光が輝くのを確認し、俺は小さくつぶやいたが、女神はノリノリでゴーサインを告げる。
「さあいけ神雷、絶望を切り裂け!! 天津穂之光矢よ!!」
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
次の瞬間、銃身の先に浮かぶ光が、とてつもなく巨大化した。
そしてそこから、金色にかがやく雷の龍が、四方八方に放たれたのだ。
およそ人の目では見えないぐらいの凄まじい速度で、数千、いや数万にも達する雷の龍が舞い上がり、そしてバケモノどもに殺到していく。
まるで意思を持った誘導弾だ。
雷の龍は瞬く間に敵を食い破り、蹴散らし、あの巨体の荒金丸にも襲いかかる。
やがて閃光の嵐がおさまった時、荒金丸はズタボロの肉塊になって立ち尽くし……そのままとけて崩れていった。
敵の軍勢も残らず片付き、朝日が街を照らしている。
「う、嘘だろ……?」
呆然とつぶやく俺をよそに、女神はドヤ顔で扇子をふるう。
「悪は滅びた、これにて一件落着である!」
俺はずるずると椅子から崩れ落ちる。
「め、メチャクチャだ……メチャクチャだけど……これでみんな助かったんだ……」
「どうじゃ、この偉大な弁財天様のやる事に間違いはなかろう。わらわにうんと感謝するがよいぞ」
「いや、ていうか試練が意地悪すぎないですかねえ。なんであんなに、俺を間違った道に誘惑しようとしたんですか」
「知るかっ、わらわに言うな。神の掟でそう決まっておるのじゃからの」
女神はまったく反省した様子もない。
「あの程度で欲におぼれるようなヤツは、そもそもわらわの下僕に必要ないのじゃ」
「げ、下僕って……もういいっすけど」
俺ももう言い争いする気力が残ってなかった。
何が何だか分からないけど、とりあえず避難区のみんなは助かった。
今はそれでよしとしよう。
「お前もありがとな、ヒメ子。お前が来てくれなかったら……」
俺が隣を見ると、鶴は無言で何かを連打している。
「ほあたたたたぁっっ、さっきの戦いでとてつもないご褒美ポイント出たですぅ! ここはどかっとレートを上げて、ワンクリック1万ポイントで怒涛のガチャ連打ですぅぅっっ!!」
「うわっ、だから無駄遣いしすぎなんだよお前はっ!!」
「いやああっ、毎度おなじみDVD!!! これもうDVのコレクターズボックスですぅ!!」
必死に止める俺、悲鳴を上げて暴れる鶴をよそに、避難区はなんとか危機をまぬがれたのだ。
巨大なバケモノから日本を取り戻す俺たちの戦いは、こうして幕をあけたのだ。