今の時代が大好きです
「私ですね、ずっとあの時代が嫌だったんです」
「戦国時代がか……?」
たずねる俺に鶴は頷く。
「だっておかしいじゃないですか。何が悲しくて、人と人が殺し合わないといけないんですか。何の因果で、いきなり誰かが襲ってくるんですか。絶対おかしいでしょ。相手にも家族がいるんですよ。誰かが死んだら、それでみんな悲しむんですよ?」
鶴は少しすねたように宙を睨みながら続ける。
「それなのに、誰もそれがおかしいなんて思ってないんです……! みんなそれが当たり前だって思ってるんです。でも私はいやでした。人と人が殺し合うのが当たり前みたいな世の中で……そんなんでうまくやれるぐらいなら、私は引きこもりで十分です。バカにされてもけなされても、引きこもって誰も傷付けない方がマシですぅ」
「…………そっか」
俺は妙に納得した。
「だからですね黒鷹、私はこの時代が好きになったんです。怖いバケモノがいっぱいいたって、人と人が殺し合うよりマシですもん。むしろ戦えば、大事な人が笑ってくれるんですもん。こういう時代で、私は黒鷹とねんごろに暮らしたいですもん」
「おおむね賛成だな。最後は……ちょっと困るけど」
「ほんとしっかりしてるですぅ」
俺も鶴も笑ったが、そこで荒金丸が近づいてくる。
地響きを立て、山そのものみたいに絶望的なでかさのアイツが。
俺は震える手を何度か開いたり閉じたりしてみる。
「若干楽にはなったけど……フル回復にはほど遠いか」
「ごめんなさい、魔法も制限されてるみたいですね……」
「重ね重ねひどい女神だ」
「ほんとですよ。ネトゲならきっと悪のラスボスですぅ」
俺たちはまた笑う。
「前世ではご一緒できませんでしたから、最後までお供しますよ!」
鶴は無理して明るく言って、鼻息ふんすと意気込んでみせる。
俺も無理やり機体を起こした。
(人工筋肉もボロボロ……俺も機体もフラフラだな)
絶望的すぎて、我ながら笑えてくる状況だ。
それでも雪菜さんや隊の連中を見捨てて、あの女神の言いなりになるよりずっと気分がいいさ。
迫り来る荒金丸に、俺は最後に思い切り啖呵をきった。
「こんのクソったれええっ、てめえらみたいなクソ野郎に、逃げてたまるかってんだ!!! やれるもんならやってみろ、ここは絶対通さねえ!!!!」
…………だが、その瞬間だった。
『了解、搭乗者の最終意思を確認。勇者の試練を終了します』
今までうんともすんとも言わなかった機体が、破邪の鎧が、唐突にそうしゃべったのだ。
「……え?」
俺も鶴も、一瞬何が起こったのか理解できなかった。