ドン・キホーテ
「ああああああああっっっ!!!!!」
機体を思い切り跳躍させ、俺は荒金丸の頭上に迫った。
すごいジャンプ力だったし、オーラブレードの輝きもいつも以上にまぶしい気がした。
だけど通らない……!!!!!
荒金丸の鎧武者みたいな頭に迫った光の剣は、ヤツの硬すぎる魔法防御に防がれる。
いや、防ぐというより、そもそも防御魔法になんのたわみもゆがみも見えない。
エネルギーの総量が違い過ぎるんだ。
荒金丸は鬱陶しく思ったのか、手にした分厚い……分厚すぎる巨大包丁のような刀で、俺を横殴りに狙ってくる。
俺は空中で身をひるがえしてなんとかかわし、着地。
そのまま素早く地上を走り、敵の後ろに回り込む。
「これだけでかい図体なんだ、後ろなら見えないだろっ……!!!」
もう一度跳躍して、オーラブレードを振るう。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
それでもぜんぜん攻撃が通らない。
ゲームで言えば、何度やってもゼロダメージが表示されてる状態だろう。
それどころか、背中から生えた細長い千手観音みたいな無数の手が、それぞれ武器を持ってこっちに襲いかかって来る。
ご丁寧に背中のあちこちに、目みたいなもんが開いていたのだ。
俺はこれもなんとかかわし、転がるように着地した。
前もだめ、後ろもだめ。むしろ後ろの方が手が多いぶん厄介か?
荒金丸は肩の突起に雷をまとわせると、それを周囲に無差別にバラマキ始めた。
とんでもなく極太の雷の連打で、一発でも当たれば、神器の鎧だってひとたまりもないのははっきり分かる。
手にした巨大包丁が大地を叩き割り、見えにくくなった視界に雷がふりそそぎ、ジャンプして体勢を整えようとしたら、無数の細長い腕が襲ってくる。
もうどうにもこうにもならなかった。
さすがは魔王の后の手下だ。魔王軍の幹部だった。
(……いくら何でも強すぎるっ……てか、もう稼働時間が……!)
画面のはしに映る稼働時間を見て焦る俺だったが、その一瞬を狙って、ヤツの包丁が2本とも、全力で俺に叩きつけられる。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
もうこれは地震か何かだろ、と思いつつ、何とか身をかわす俺。
だがあまりに全力で振り下ろしたせいか、包丁は大地に深々とめり込んでいる。
つまりヤツの正面は武器無し、千載一遇のチャンスだ。
俺は機体を全力でジャンプさせ、もうもうと立ち込める土けむりから脱出した。
「…………あっ」
そして気付いた。ヤツが拳を振りかぶっている事に。
つまりヤツは、わざと包丁を地面に刺したんだ。
ちょこまか動く俺をさっさと始末するために、わざと武器を捨てて隙を見せたんだ。
ヤツの鎧みたいな頭の口がバカッと割れて、俺をあざ笑うみたいに大きくゆがんだ。
次の瞬間、
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
とんでもない衝撃が機体を襲い、上も下も分からないほどにメチャクチャに世界が回った。
何度もぶつかり、何度も転がり、ようやく停止したころには、俺はもう身動き1つ出来なかった。
(や、やばい……死ぬ……)
痛みは無いが、これだけ動けないとなると、背骨か何かが折れているのか?
だが焦る俺のそばに、ふいに鶴が現れた。
「ああああっ、だっだだ、大丈夫ですかぁっ!?」
「だいじょうぶ……に見えるか? てか、お前……こんなとこ来て、女神に後でどやされるぞ」
「平気ですぅ、愛しい旦那様のためですもの」
「誰が……旦那だよっ」
「さすが黒鷹、このどさくさでもしっかりしてますねぇ」
鶴は少しさみしそうに笑って、俺を魔法で治療し始めた。
手に光が輝いていて、ゲームで言う回復魔法みたいなものか。
「……ほんとは分かってたんですぅ。この時代に来て、あの雪菜さんとかいう乳を見た時」
「乳言うな」
「強くて陽キャで、でもすごく優しくて。きっと黒鷹には、ああいう人がふさわしいんだなって。私みたいな陰キャの引きこもりより、あの人の方が黒鷹を幸せにできるんだなって」
少し体がマシになってきた俺は、戸惑いながら鶴に答える。
「……お前さ、引きこもりって言う割に、いちいち行動力すごくないか? 今だって、女神の言いつけに逆らってこんなとこまで来て。ほんとに引きこもりだったのかよ」
「それはですね、」
尋ねる俺に、鶴は微笑んで答える。




