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夢の勇者通販番組。お姫さまの司会とともに

「えっ……!? な、何だこれ……」


 生きるか死ぬかの瀬戸際だったはずの俺は、いつの間にか真っ暗な場所に立っていた。


 どこなんだよここは、と慌てる俺をよそに、突如さわやかな音楽が鳴り響いた。


 チャララララ~♪ チャ―チャー、チャーチャー♪


 んん? どこかの通販番組で聞いた事のあるような……と思ったのもつかの間、いきなり眩しいライトが灯り、ステージを照らし出した。


 可愛らしいミニチュアの町並みをバックに、子犬サイズのキツネ、サル、牛、そしてライオンみたいな(たてがみ)のついた狛犬(こまいぬ)が、キレキレのダンスを披露(ひろう)している。


 狛犬がいるとなるとこいつらはあれか、神社の神使(しんし)とかそういう(たぐい)か?


 なおもう一匹龍もいたが、こいつだけは他の連中より数倍大きく、なぜか重そうなダンベルを上げ下げして鍛えていた。


 もしかして筋肉リュウリュウとか言うつもりだろうか。


 さすが生死の境をさまよっているだけあって、我ながら追い詰められた幻を見ているらしい。


 神使達はやはり聞いた事のあるメロディーラインで歌いながら、著作権ギリギリのヘアピンカーブを攻めてくる。


「ゆーめだけどゆーめじゃない~♪ フゥフゥ♪ 夢の姫と黒鷹(くろたか)だ~♪」


 身振り手振りしたりターンをしたり、ご丁寧にフゥフゥ♪のコーラスまで入れてやがる。


 黒鷹って誰だ。つか夢なのか夢じゃないのかどっちだよ。


 完璧なダンス&ボーカルテクで著作権を冒涜(ぼうとく)する奴らに戸惑いながら、俺はじわじわと後ずさった。


 確かに母は生前、よくテレビにかじりついてこの通販番組を見ていたし、幼い自分もダンスを真似て遊んだものだが、それが死の直前に走馬灯のようによみがえったのだろうか。


 だとしたら現実の自分は相当ピンチなはずだし、こんな幻覚を見て遊んでるわけにいかないのだが……


 焦りながらこの空間の出口を探す俺だったが、生憎(あいにく)曲が終わってしまい、神使達はステージの(そで)を見やった。


「姫様、そろそろ出番やで!」


「そうです、モウそろそろご登場いただきませんと」


 関西弁のモフモフしたキツネ、メガネをかけた真面目そうな牛の言葉に、舞台袖から震えながら女の子が顔を出した。


 歳は俺と同年代、たぶん16、7ぐらいだろうか。


 顔立ちははっきり言って可愛い部類。しかしやたら(おび)えた目をしている。


 舞台袖のカーテンにしがみつき、血走った目で俺を凝視(ぎょうし)し、「はわわわ、ご、500年ぶりの黒鷹だわ!」「無理無理、もう無理ぃ~っ」などと頭をぶんぶん振っていた。


 セミロングの髪は寝ぐせまみれのくしゃくしゃで、いかにも陰キャを絵に書いたような少女だったが、腰には物騒なことに、大きな太刀を()いているのだ。


 胴体には無骨な鎧を着こみ、衣服はと言えば着物にハチマキ。


 およそ現代の人間とは思えない風体(ふうてい)だったし、深く関わらないのが一番だろう。


「え、えと、じゃあそういう事で。俺は帰るから、あとよろしく……」


 そう言って立ち去ろうとする俺だったが、次の瞬間、女の子の目が異様な光を帯びた。


「いやああっ、待って、待って黒鷹ああああっっっ!!! もう1人は嫌なのっ、あたしを置いていかないでえええっっっ!!!」


 さっきまでのもじもじぶりは一気に消え去り、凄まじい勢いで舞台袖から突進してくる。


 あれだ、普段は引っ込み思案だけど、思い詰めると怖い事平気でやっちゃうタイプだ。


 彼女は手にした何かを高速で突き出し、何度も俺の体を狙う。


「うわっ、ちょっと、何なんだよ一体!?」


 ビュバッ、ボォウッと凄まじい音を立てる連続攻撃。


 頬が切れ、衣服が幾度も切り刻まれたが、迫るそれをよく見ると、刃物ではなく婚姻届だった。


「あたあっ、あたたあっ、あたあたあたし500年も待ってたんですううっ! 黒鷹が結婚してくれなきゃ、何のために霊界ネトゲしながら待ってたのか分からないんですううっっ!!」


 いやあるのかよ、霊界にネトゲとか。そして霊界の婚姻届けは結婚相手を斬れるのか。


 いやそれよりなにより結婚だと!? 何をいきなりわけのわからん事を……!!


 次第に追い詰められ、なますに切り刻まれそうな俺だったが、そこで別の女の声が響いた。


「これ(つる)よ、そろそろやめい。さっさと黒鷹を勇者に勧誘(かんゆう)せんか。嫁入りどうこうはその後じゃ」


 勇者の勧誘……!? 何だそれは。


 さっきから意味不明な事ばかり続いて理解できない俺をよそに、そこで声の主が姿を現した。


 一見幼女の姿であるが、着物のような和服を着て、手にはギターのような琵琶?を持っている。


 長い黒髪は頭の上でくるりと巻かれ、いわゆる竜宮城の乙姫みたいな髪型だ。


 幼女はいかにも得意げにふんぞり返りながらこう言った。


「わらわは日本神話に名高き女神、市杵島姫命いちきしまひめのみこと。またの名を弁財天(べんざいてん)、七福神でも知られる通り、チョーがつくほど人気の女神じゃ。


 そしてその娘は大祝鶴姫(おおほうりつるひめ)。現世を救うべく、八百万(やおよろず)の神がつかわした救国の聖者なるぞ」


 ……いや、さっきから何だって? 弁天様に救国の聖者???


 いくら夢の走馬灯にしても、出演者がゴージャス過ぎないか。

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