俺のせいじゃないから、合理的に決断しよう
俺は迷いを振り切るべく、ガンガン機体を走らせる。
まだ神器の鎧の力は使ってなかったが、道路がかなり荒れているため、ノーマルな機体でも自動車よりはだんぜん速い。
車に乗ってたら、たぶんバウンドしてこぶが百個ぐらい出来てただろうな。
(……俺が避難区に残っても、あの荒金丸には絶対勝てない。俺もやられてみんなも死んで、ほかの避難区も全部やられる。日本中がバケモノに喰い殺されて終わりだ)
(だったら今は俺だけ逃げて、讃岐平野の避難区だけでも守るべきだろ。あの女神には腹が立つけど、力をもらえばあとは何とでもなるし)
(そもそも世の中がこうなったのは俺のせいじゃないしな。クソみたいな特権階級が自分たちだけ逃げて、俺たちをバケモノのエサにしたんだから……!)
そうだ、よく考えてみれば、俺が悩むようなことじゃなかった。
大勢の人が死ぬのは、俺じゃなく政府が見殺しにしたからだ。
島に逃げたお偉いさんや、安全な船のお役所の役人たちが、ふんぞり返って地獄絵図を眺め続けているせいだ。
だからしょうがないんだ。
どうせ戦っても勝てないし、だったら今できる事をしよう。
そう納得すると、機体の足取りも軽くなったような気がした。
「鳴瀬くん、あなたが悩む事じゃないわ。これは大人の責任だもの」
あのあと事情を知った雪菜さんは、そう言って微笑んでくれた。
「あなたが生きて勇者?になったら、そのあと大勢助かるんでしょ? だったらガンバ! いっそ坂本龍馬みたいに、日本中駆け巡って大活躍してちょうだい。そしたら私も鼻が高いわ」
雪菜さんはそう言ってくれたんだ。
(……そうだ、俺が悪いわけじゃない。だったら今は、俺に出来る事をやる。それが最善だし、それが一番冷静な判断だからな……!)
俺は覚悟を決めて、機体をどんどん加速させた。
仲間たちや顔見知りには悪いけど、俺のせいじゃない。
だから、だから…………
そこで女神の顔が思い浮かんだ。
「……もう一度言う、何も捨てずに得られると思うな」
「うるせえっつってんだろうがっっっ!!!!!!!」
俺はビルの瓦礫を突き破り、開けた場所におどり出た。
着地し、そのまま相手を睨みつけた。
朝日を横から浴びながら、山みたいな巨体が地響き立てて迫って来る。
荒金丸だ。邪神がよこしたというあの理不尽なバケモノだ。
踏みつけたビルが一瞬で粉になり、砂けむりになってあいつの周りを漂っている。
なんていうかあれだ、西部劇でいう荒野の決闘みたいじゃねえか。
……もちろんこれから始まるのは決闘なんてもんじゃない、一方的な弱い者いじめだろうけどな。
「……あきれたヤツじゃ。あれだけ口を酸っぱくして説いたというに、それがお前の決断か?」
画面に幼女女神が映る。
後ろでは縛られた鶴がエビフライみたいになって暴れていた。
死の恐怖のせいなのか、若干顔がひきつりながらも、俺は精いっぱい言い返す。
「女神だか何だか知らねえけど、人をオモチャみたいに試すヤツの言いなりになってたまるかってんだ……!」
「そうか。ならば好きにせよ」
女神はそう言って画面から消えた。
「言われなくても、好きにするっての!!!」
俺は機体を前に走らせる。
走りながら、神器・破邪の鎧の力を発動させた。
例のニンジャのような姿に変わった機体は、凄まじい速さで敵の群れを突っ切る。
ザコなんか相手にしてる暇はない、とにかくあいつだ、荒金丸だ。
あいつに一太刀浴びせたら、もう後はどうなってもいいんだ。